【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
23 / 98

21.複雑な気持ち

しおりを挟む
 伯爵邸の人達は、優しくて温かった。ギルドの人達にも、マーティス様やアルト様のおかげで受け入れてもらっていた。

 でも、平民のただの雑用係なんだと理解がようやく出来るようになると、心が傷んだ。

 これが、当たり前の扱いだ。伯爵様やマーティス様やリリー様達が、僕に優しすぎたのだ。身の程を弁えなければいけない。そう思うのに、現実はしんどい。自分の立場を理解しないと。

「クロ……元気かな? やばい。きっとホームシックって奴だよね」
 クロに似せて掌サイズで作ったぬいぐるみだ。それを握りしめた。

「無事に戻れたら、抱き枕位の作ろうかな?」

 散々助けてもらって生きてきたんだ。それを返して行かなければいけない。
(母さん。約束は守るからね)

 今、弱ってるんだ。ちゃんと寝ないと本当に悪い方へ気持ちが、飲み込まれてしまう。ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
 後は、楽しい事を思い出すようにするだけ。クロの柔らかい毛並みを想像してみた。いつの間にか僕は、眠りに落ちていた。


 次の日、ブランケットをたたみカイル様の部屋をノックする。

「入れ」
 いつも不機嫌だけど、今日はさらに疲れて見えた。

「おはようございます。あの……眠れなかったのですか? マリア様は、ヒーラーなので疲れをとってもらいますか?」

「シェリル、お前のポーションあるだろ? それを一ついいか?」

「あ、はい。待ってください」
 ブランケットをソファに戻して、背中のバックを下ろして中から、小さめの瓶を取り出す。

 それを、カイル様に渡すと瓶を開けてすぐに飲んでしまった。

「助かる」
「いいえ。今日からダンジョンですから。興奮して寝れない事もありますよ」

「そうだな」
「食事は下に行かれますよね? 僕はここで待ってます」

 僕の行動で、彼らが不快にならないように。

「いや。ここで二人で食べよう。色々落ち着かないから、ここに持ってくるように頼んだ。一緒に食べるぞ」

 部屋に運び込まれた食事は、僕の好きな物だった。温野菜スープに卵のサンドウィッチ。果物まである。

「昨日、食べてないだろう? 倒れられたら困る。ダンジョンでは、何が起きるか分からない。食べられる時は、ちゃんと食べろ」

「はい」

 朝食後一階に降りると、一人でお茶をしているマリア様がいた。どうやらキース様は、外で軽く汗を流しているようだ。テオ様は本を窓際で読んでる。

「カイルおはよう。ちゃんと睡眠取れたの? 一人部屋なのに、狭かったんじゃないの? 疲れが取れてないなら、ヒールかけてあげようか?」

を一人で使った。問題ない」

「そうなんだ。ねぇ、シェリルだったかしら? カイルをちゃんと休ませなさいよ。この世界の大切な人なんだから」

「気をつけます」
 マリア様が、立ち上がってカイル様の隣までやって来た。腕のところに手を絡めて笑顔をみせる。

「シェリル。キースを呼んできて。カイルはこっちに座って。キースが来たら四人で、今日の行程を話ましょう。ほら、テオも来て」

 カイル様を席の方に引っ張って座らせた。テオ様も本を閉じて、二人の座っているテーブルの方へ移動して来た。

「呼んできます」
 僕は急いで、キース様を呼びに行った。












しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~

墨尽(ぼくじん)
BL
地獄の長である獄主に、何故か溺愛されてしまった34歳おっさんのお話 死んで地獄に行きついた霧谷聡一朗(34)は、地獄の長である獄主の花嫁候補に選ばれてしまう 候補に選ばれる条件は一つ「罪深いこと」 候補者10人全員が極悪人の中、聡一朗だけは罪の匂いがしないと獄主から見放されてしまう 見放されたことを良いことに、聡一朗は滅多に味わえない地獄ライフを満喫 しかし世話役の鬼たちと楽しく過ごす中、獄主の態度が変わっていく 突然の友達宣言から、あれよあれよと聡一朗は囲い込まれていく 冷酷無表情の美形×34歳お人好し天然オジサン 笑ったことのない程の冷酷な獄主が、無自覚お人良しの聡一朗をあの手この手で溺愛するストーリーです。 コメディ要素多めですが、シリアスも有り ※完結しました 続編は【続】地獄行きは~ です

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

【本編完結】 ふたりを結ぶ古書店の魔法

Shizukuru
BL
弟が消えた。記憶消去? スマホの画像も何もかも残っていない。 両親には、夢でも見たのかって……兄の俺より背が高くてイケメンで本当に兄弟?って言われてたけど。 弟は、存在してなかったなんて、そんなはずがない。 記憶が消される前に、探すんだ。 辿り着いた古書店。必ずその人にとって大切な一冊がそこにある。必要な人しか辿り付けないと噂されている所だ。 「面白い本屋を見つけたんだ」 弟との数日前の会話を思い出す。きっとそこに何かがある。 そして、惹かれるままに一冊の本を手にした。登場人物紹介には、美形の魔法騎士の姿が……髪色と瞳の色が違うけれど、間違いなく弟だ。 聖女に攻略されるかもしれない、そんなの嫌だ。 ごめん。父さん母さん。戻れないかも知れない。それでも、あいつの所へ行きたいんだ。 本を抱きしめて願う。神様お願い、弟を取り戻したい。 本だけ残して……時砂琥珀は姿を消した。 年下魔法騎士(元弟)×神使?(元兄) 微R・Rは※印を念の為につけます。 美麗表紙絵は、夕宮あまね様@amane_yumia より頂きました。 BL小説大賞に参加しています。 応援よろしくお願いします。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...