25 / 98
23.契約のキス
しおりを挟む
クロが背中にしがみついたまま、僕は一番後ろを歩いていた。
ようやく、セーフティポイントに着いた。皆でしばらく休息をとる。
一人離れて、水のボトルを出して飲んだ。何かを四人だけで話しているのを、遠目に見ていた。
クロが膝の上に来たので、岩壁にもたれかかって殴られた頬に手を当てる。頬は腫れて熱を持っていた。でも、これをポーションで治すのは、許されないようなそんな気分でいっぱいになってしまった。
「──断われば良かったんだ」
役に立つ様にとか、思い違いをしたんだ。足でまといだった。
(本当に邪魔なだけだ)
涙が溢れて来た。泣き顔を見せるのは不味い。クロを抱いて、立ち上がる。岩陰の方へ向かい始めると、カイル様が追いかけてきた。
「シェリル。どこに行く。これ以上離れるな」
「用を済ませてきます。だからついて来ないで下さい」
「──分かった」
カイル様の顔を見る事も出来ない。他の人が来るべきだったのだ。そう思うと、もう駄目だった。足早に岩陰に行き防音の魔法をかけて、クロを抱いて泣いてしまう。
(何で生き残ったのだろう)
うああああああ───
「泣くな。俺に恩返しをさせてくれ」
突然声がした。
──恩返し?
「誰?」
目の前には、クロしかいない。
「助けて貰ったり、世話になったら、恩を返すのだとお前はいつも言っていた。なら、俺も返したい。シェリルにその気持ちを返したい」
「クロが? 僕に?」
「俺を信じてくれるか? 」
一人の不安と寂しさ。場違いな所についてきた後悔。アルト様達と残っていれば良かったのだ。それでもカイル様の盾になれたらと思ったんだ。でも勝手な行動を抑えきれなかった。
なんて、自分勝手なのだろう。
「僕は一人で……どうしたらいいのか、分からなくて」
クロの体温が温かくて、苦しかった気持ちに溶け込んでくる。クロの声も……心地良い。
「俺が、シェリルを一生守る。恩返しさせて、そばにいさせて欲しい」
こんな可愛い兎が、そばにずっと居てくれたら嬉しい。毎日癒されそうだ。
「うん」
思わず抱きしめた。短い手足のクロの手足の感触が変わる。
気が付けば、自分より大きな人に抱きしめられていた。
黒いつややかな髪の毛は、一括り結ばれて背中の中ほどまである。深紅の瞳は、クロの瞳の色と同じだった。
見惚れる程の、美形の人に抱きしめられている。
「クロ?」
「クロフィスだ。契約した方がいいか?シェリルの恋人になる。お前だけは俺が一生守る」
契約? 恋人? 幻影兎の見せる幻影?
「シェリルに誓いを立てるよ」
そう言って、顔が近付いて来た。唇が重なる。
胸に温かい何かが、入ってくる。シャツをめくられる。胸の上の所に何か印の文字が浮かび上がった。それを確認したクロは、嬉しそうに笑う。何て書かれたのか分からないまま一瞬で消えてしまったけど。
そして、もう一度唇が重なった。
殴られた頬を撫でられると痛みが消えていく。
「キースだったか、次にシェリルに手を上げたら生命は無い」
「え、あ……待って、殴られたのは、勝手に動いた僕が悪いだけだから。生命を消しそうな言い方は、良くないよ」
「あいつら、特に勇者は邪魔だな。ここで消してしまうか?」
幻影兎……の幻影って凄すぎない?でも、僕はそんな事を望んでいない。
「シェリル!! 体は大丈夫なのか? そっちに行ってもいいか?」
カイル様の声が聞こえ、今すぐにでもこちらに来そうだと思った。なんとなく、この美形を彼らに会わせてはいけないと焦ってしまう。
「兎に戻って、お願いクロ」
もう一度クロにキスされると、クロはちゃんと黒兎に戻ったのだ。
ようやく、セーフティポイントに着いた。皆でしばらく休息をとる。
一人離れて、水のボトルを出して飲んだ。何かを四人だけで話しているのを、遠目に見ていた。
クロが膝の上に来たので、岩壁にもたれかかって殴られた頬に手を当てる。頬は腫れて熱を持っていた。でも、これをポーションで治すのは、許されないようなそんな気分でいっぱいになってしまった。
「──断われば良かったんだ」
役に立つ様にとか、思い違いをしたんだ。足でまといだった。
(本当に邪魔なだけだ)
涙が溢れて来た。泣き顔を見せるのは不味い。クロを抱いて、立ち上がる。岩陰の方へ向かい始めると、カイル様が追いかけてきた。
「シェリル。どこに行く。これ以上離れるな」
「用を済ませてきます。だからついて来ないで下さい」
「──分かった」
カイル様の顔を見る事も出来ない。他の人が来るべきだったのだ。そう思うと、もう駄目だった。足早に岩陰に行き防音の魔法をかけて、クロを抱いて泣いてしまう。
(何で生き残ったのだろう)
うああああああ───
「泣くな。俺に恩返しをさせてくれ」
突然声がした。
──恩返し?
「誰?」
目の前には、クロしかいない。
「助けて貰ったり、世話になったら、恩を返すのだとお前はいつも言っていた。なら、俺も返したい。シェリルにその気持ちを返したい」
「クロが? 僕に?」
「俺を信じてくれるか? 」
一人の不安と寂しさ。場違いな所についてきた後悔。アルト様達と残っていれば良かったのだ。それでもカイル様の盾になれたらと思ったんだ。でも勝手な行動を抑えきれなかった。
なんて、自分勝手なのだろう。
「僕は一人で……どうしたらいいのか、分からなくて」
クロの体温が温かくて、苦しかった気持ちに溶け込んでくる。クロの声も……心地良い。
「俺が、シェリルを一生守る。恩返しさせて、そばにいさせて欲しい」
こんな可愛い兎が、そばにずっと居てくれたら嬉しい。毎日癒されそうだ。
「うん」
思わず抱きしめた。短い手足のクロの手足の感触が変わる。
気が付けば、自分より大きな人に抱きしめられていた。
黒いつややかな髪の毛は、一括り結ばれて背中の中ほどまである。深紅の瞳は、クロの瞳の色と同じだった。
見惚れる程の、美形の人に抱きしめられている。
「クロ?」
「クロフィスだ。契約した方がいいか?シェリルの恋人になる。お前だけは俺が一生守る」
契約? 恋人? 幻影兎の見せる幻影?
「シェリルに誓いを立てるよ」
そう言って、顔が近付いて来た。唇が重なる。
胸に温かい何かが、入ってくる。シャツをめくられる。胸の上の所に何か印の文字が浮かび上がった。それを確認したクロは、嬉しそうに笑う。何て書かれたのか分からないまま一瞬で消えてしまったけど。
そして、もう一度唇が重なった。
殴られた頬を撫でられると痛みが消えていく。
「キースだったか、次にシェリルに手を上げたら生命は無い」
「え、あ……待って、殴られたのは、勝手に動いた僕が悪いだけだから。生命を消しそうな言い方は、良くないよ」
「あいつら、特に勇者は邪魔だな。ここで消してしまうか?」
幻影兎……の幻影って凄すぎない?でも、僕はそんな事を望んでいない。
「シェリル!! 体は大丈夫なのか? そっちに行ってもいいか?」
カイル様の声が聞こえ、今すぐにでもこちらに来そうだと思った。なんとなく、この美形を彼らに会わせてはいけないと焦ってしまう。
「兎に戻って、お願いクロ」
もう一度クロにキスされると、クロはちゃんと黒兎に戻ったのだ。
60
お気に入りに追加
911
あなたにおすすめの小説
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

元捨て子の新米王子様、今日もお仕事頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
簡易説明
転生前も転生後も捨て子として育てられた少年が、大きく成長する物語です
詳細説明
生まれた直後に病院に遺棄されるという運命を背負った少年は、様々な境遇の子どもが集まった孤児院で成長していった。
そして孤児院を退寮後に働いていたのだが、本人が気が付かないうちに就寝中に病気で亡くなってしまいす。
そして再び少年が目を覚ますと、前世の記憶を持ったまま全く別の世界で新たな生を受ける事に。
しかし、ここでも再び少年は生後直ぐに遺棄される運命を辿って行く事になります。
赤ん坊となった少年は、果たして家族と再会する事が出来るのか。
色々な視点が出てきて読みにくいと思いますがご了承ください。
家族の絆、血のつながりのある絆、血のつながらない絆とかを書いて行く予定です。
※小説家になろう様でも投稿しております

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

【完結】地獄行きは確定、に加え ~地獄の王に溺愛されています~
墨尽(ぼくじん)
BL
地獄の長である獄主に、何故か溺愛されてしまった34歳おっさんのお話
死んで地獄に行きついた霧谷聡一朗(34)は、地獄の長である獄主の花嫁候補に選ばれてしまう
候補に選ばれる条件は一つ「罪深いこと」
候補者10人全員が極悪人の中、聡一朗だけは罪の匂いがしないと獄主から見放されてしまう
見放されたことを良いことに、聡一朗は滅多に味わえない地獄ライフを満喫
しかし世話役の鬼たちと楽しく過ごす中、獄主の態度が変わっていく
突然の友達宣言から、あれよあれよと聡一朗は囲い込まれていく
冷酷無表情の美形×34歳お人好し天然オジサン
笑ったことのない程の冷酷な獄主が、無自覚お人良しの聡一朗をあの手この手で溺愛するストーリーです。
コメディ要素多めですが、シリアスも有り
※完結しました
続編は【続】地獄行きは~ です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる