【本編完結】 美形魔王の弱点は、僕。

Shizukuru

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2.師匠の形見

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 従者になる為に、恥ずかしくないように家庭教師までつけてもらっていた。
 勉強が好きだったのは、母さんのおかげだと思う。

 それに、神官様に弟子として育ててもらったのだ。それが本気だったのか今では分からないけれど。師匠に恥ずかしくないようにしたい。だから、師匠に貰った本は暗記するまで読み込んでいた。
 魔法の試験の時に、師匠にもらった指揮棒ワンドを使っていいか魔法の先生に聞いたのだ。

「シェリルの宝物、初めて見る事が出来るな」
 カイル様も見たいと言った。流石にもう一つの宝物の裁縫道具は、恥ずかしくてこの先も黙っていると思う。

「魔法の試験なら、使ってみたかったんです。後で見てください」

 庭に出て試験を受けるのに、領主様達まで見に来た。僕と言うよりカイル様の晴れ舞台を見たかったのだと思う。

 カイル様が次々と課題をこなしていく。僕の指揮棒ワンドとは違って真っ黒で、黒い魔石が付いていた。伯爵様から頂いたと言っていた。カイル様もきっと宝物なのだ。魔法攻撃も無駄がない。

「カイル様、格好良いなぁ」
 伯爵様も、にこやかに見ていた。そして僕の順番が来て、師匠からもらった指揮棒ワンドを鞄から取り出した。

 純白な指揮棒の先の方に、青い綺麗な石が付いている。夜に毎日磨いているので、とても綺麗だ。

「あ、ああ。すごい指揮棒ワンドだね。それは、まさかサファイアなのかな……シェリルの師匠ってすごい方なのかな。後から見せて欲しい。と、とにかく皆見てるから、やって見て」

 魔法の先生が驚いている。そうだよね、これめちゃ綺麗なんだ。やっぱり、珍しい物なのかな? 師匠、頑張るから見てて。

    的に魔法を当てる以外に、使える属性魔法を見せるのだ。師匠の魔法も試したい。それだけだった。

 的に雷光を落とし、土でゴーレムを作る。植物を成長させて花を咲かせた。水の玉は凍らせた後、炎の竜がそれを溶かし蒸発させる。

 一連の魔法を、嬉しくて見せたのだ。指揮棒ワンドを使うと魔力がさらに上手く使える。魔法も特に詠唱をしなくて大丈夫だ。本の通りに出来る。

 大きな拍手と共に賞賛されて、どう反応していいのか分からなかった。
 嬉しくて、カイル様を見た時。
 自分が何かしてしまった事に気が付いた。

「あの」

「その指揮棒ワンドの力か? そんなものを使って俺に恥をかかせたかったのか? 俺の知らない魔法をどうして使えるんだ!!」

    優しかったカイル様が、怒っている。

「本を……魔法の本を、師匠からもらったんです。だから、ここに来てからの毎日、本を読んで覚えました」

 カイル様がそばに来て、僕の手から指揮棒ワンドを取り上げた。

 だけど──次の瞬間に、静電気のような火花と共にバチッと音がした。
「つぅ……バカにするな」

 風魔法でカイル様が、指揮棒ワンドを茂みの方に飛ばした。
 僕は、それを取り戻そうと走り出す。背後から炎が、僕を追い越して指揮棒ワンドに迫る。

「やめてぇ───」
 泣きながら手を伸ばすと、晴天だったのに突然土砂降りに変わる。雷雨になった時、神の怒りを思い出した。

『雨を降らせる事が出来る人は、神に愛されている』
 これは、神に愛されてた師匠のものだから。きっと神様が怒ったんだ。

 突然の豪雨に──炎は消えた。

 僕の手に、サファイア色につつまれた指揮棒ワンドが戻ってきた。
 慌てて掴んだ後、つまづき転がって頭をぶつけた。

 薄れていく意識の中、視界は紅くにじんだ。僕は皆に謝り続けた。

 師匠ごめんなさい。カイル様に意地悪する気なんてなかったんです。師匠の大切な指揮棒ワンドが汚れてしまいました。

 神様。僕のせいでこんなことになってごめんなさい。雨が降り続けたら、皆が死んじゃう。どうか、雨を止めて下さい。

 誰かが、僕を抱き上げて何処かに連れて行こうとしてる。

    許して下さい。お願いします。僕の宝物なんです。取らないで。ただ必死に伝えようとした。

   そのまま。僕は熱を出して、しばらく寝込む事になった。


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