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1.ロードライト伯爵家
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ようやく教会に着いたのに、数日で引き取り先が決まって連れて行かれる事になった。ただただ疲れてしまっていて、気持ちは追い付かなかった。
「この部屋を案内するように言われてるのよ。その前にお風呂に入った方がいいわね……こんなに汚れてしまって」
肩から斜めがけの鞄には、大切な本と宝物と母親の形見が入っていた。
それを取られそうになって、パニックになった。ショルダーストラップを握り締めて身を小さくする。
「止めて!ごめんなさい。ごめんなさい。これは取らないで」
今思えば、汚らしい子供を風呂に入れようとしただけだったと思う。それなのに泣いて抵抗してしまった。
何事かと領主とその息子、他数名の大人が現れた。
さっきの侍女様が困っている。でもこれは、持っていかれたくない。汚いからと、捨てられてしまいそうで怖かった。
「カイル……お前がこの子を、従者にしたいと選んだんだ。きちんと、面倒を見てあげなさい。まずはここに馴染めるように面倒見なさい」
「はい。お父様」
綺麗な金髪の男の子がいた。
「荷物が心配なのか?」
「お母さんと師匠様……魔法の先生からもらった。宝物だから、取らないで下さい。お願いします」
そう言って、頭を下げた。
「この家の者は、誰もシェリルの宝物を取ったりしない。疲れただろうけど、体の汚れを取らないとベッドで寝るのは気持ち悪いだろう?」
「取らない? 捨てたりしない?」
「あの棚はカギが掛かるからお風呂の間、入れて置いたらいいよ。カギは首から下げたらいいから」
教えてもらいながら、棚に荷物を入れてカギをかけた。
誰かに紐を用意してもらって、その紐をカギに通す。彼が結んで、首に掛けてくれた。
「ありがとう」
そう言って笑ったら、彼が照れていた。
「お風呂、一緒に入ろうか?」
「カイル様。それは……」
侍女様達が困った顔をした。
「お父様、今日は特別です。シェリルがここに馴染めるようにしたいのです」
「弟が出来たみたいに嬉しそうだな。早く綺麗にしてあげなさい。カイルの着れなくなった服をシェリルに回してくれ」
そんなやり取りの後、カイル様に連れられて浴室に向かった。侍女様に手伝ってもらいながら、綺麗に洗われる。
カイル様のお下がりを着せられると、何故か周りの様子がおかしい。
「とても綺麗な子だったんですね」
「綺麗な深緑の髪色に、瞳の色は珍しい琥珀色。カイル様と並んでも大丈夫そうですね」
そんな事を言われている。
「僕は……ここでどうしたらいいのですか?」
「シェリルは、僕専用の従者として、勉強したり魔法を習ったらいい。だから見た目もきちんとしてね。でも、しばらくは疲れてる思うからゆっくりして、慣れたら邸内を案内するよ」
カイル様は、二つ年上の面倒見の良さそうな少年だった。
僕の教育に、カイル様と同じマナーの先生と魔法の先生がつくことになった。
僕は、お母さんから勉強を教わっていた。文字を書ける事に驚かれる。貴族の血が流れている? と噂になった。
でも、父親に会った記憶がない。
お母さんからお父さんの事は、忙しい人だから今は会えない。そう聞かされていただけだ。
だから今も生きているのか、あの時に巻き込まれて亡くなったのかさえ分からないままだった。
カイル様は、さらに剣まで習っていた。僕にはそこまでの体力はなくて、その時間は部屋で神官様の魔法の本を読み返して過ごした。一人で勉強していると無性に寂しくなり、形見をそばに置いていた。
手先が器用だったお母さんの小物袋に針や糸が入っていた。綺麗なリボンも何本かあった。夜中にこっそりと、お母さんの真似をして縫い物をする。
それがいつの間にか日課になっていた。温かい記憶を思い出して、泣いてしまう日があった。その時に侍女様にバレたのだ。それから時々侍女様の一人、リリー様から裁縫を習う事になったのだ。それはリリー様と二人だけの秘密。
呪文だけではなく、実践で防御や攻撃の魔法を五年習ってきた。十二歳のカイル様と十歳の僕が魔法を使った試験を受ける事になった。
ここで習っているのは簡単な魔法だから、失敗はしないと思う。子供用の指揮棒は木の枝みたいなシンプルなものだ。 試験なら神官様から貰ったものを使いたい。
宝物の指揮棒をただ使いたかっただけだった。そのせいで、あんな事になるとは思わなかったのだ。
「この部屋を案内するように言われてるのよ。その前にお風呂に入った方がいいわね……こんなに汚れてしまって」
肩から斜めがけの鞄には、大切な本と宝物と母親の形見が入っていた。
それを取られそうになって、パニックになった。ショルダーストラップを握り締めて身を小さくする。
「止めて!ごめんなさい。ごめんなさい。これは取らないで」
今思えば、汚らしい子供を風呂に入れようとしただけだったと思う。それなのに泣いて抵抗してしまった。
何事かと領主とその息子、他数名の大人が現れた。
さっきの侍女様が困っている。でもこれは、持っていかれたくない。汚いからと、捨てられてしまいそうで怖かった。
「カイル……お前がこの子を、従者にしたいと選んだんだ。きちんと、面倒を見てあげなさい。まずはここに馴染めるように面倒見なさい」
「はい。お父様」
綺麗な金髪の男の子がいた。
「荷物が心配なのか?」
「お母さんと師匠様……魔法の先生からもらった。宝物だから、取らないで下さい。お願いします」
そう言って、頭を下げた。
「この家の者は、誰もシェリルの宝物を取ったりしない。疲れただろうけど、体の汚れを取らないとベッドで寝るのは気持ち悪いだろう?」
「取らない? 捨てたりしない?」
「あの棚はカギが掛かるからお風呂の間、入れて置いたらいいよ。カギは首から下げたらいいから」
教えてもらいながら、棚に荷物を入れてカギをかけた。
誰かに紐を用意してもらって、その紐をカギに通す。彼が結んで、首に掛けてくれた。
「ありがとう」
そう言って笑ったら、彼が照れていた。
「お風呂、一緒に入ろうか?」
「カイル様。それは……」
侍女様達が困った顔をした。
「お父様、今日は特別です。シェリルがここに馴染めるようにしたいのです」
「弟が出来たみたいに嬉しそうだな。早く綺麗にしてあげなさい。カイルの着れなくなった服をシェリルに回してくれ」
そんなやり取りの後、カイル様に連れられて浴室に向かった。侍女様に手伝ってもらいながら、綺麗に洗われる。
カイル様のお下がりを着せられると、何故か周りの様子がおかしい。
「とても綺麗な子だったんですね」
「綺麗な深緑の髪色に、瞳の色は珍しい琥珀色。カイル様と並んでも大丈夫そうですね」
そんな事を言われている。
「僕は……ここでどうしたらいいのですか?」
「シェリルは、僕専用の従者として、勉強したり魔法を習ったらいい。だから見た目もきちんとしてね。でも、しばらくは疲れてる思うからゆっくりして、慣れたら邸内を案内するよ」
カイル様は、二つ年上の面倒見の良さそうな少年だった。
僕の教育に、カイル様と同じマナーの先生と魔法の先生がつくことになった。
僕は、お母さんから勉強を教わっていた。文字を書ける事に驚かれる。貴族の血が流れている? と噂になった。
でも、父親に会った記憶がない。
お母さんからお父さんの事は、忙しい人だから今は会えない。そう聞かされていただけだ。
だから今も生きているのか、あの時に巻き込まれて亡くなったのかさえ分からないままだった。
カイル様は、さらに剣まで習っていた。僕にはそこまでの体力はなくて、その時間は部屋で神官様の魔法の本を読み返して過ごした。一人で勉強していると無性に寂しくなり、形見をそばに置いていた。
手先が器用だったお母さんの小物袋に針や糸が入っていた。綺麗なリボンも何本かあった。夜中にこっそりと、お母さんの真似をして縫い物をする。
それがいつの間にか日課になっていた。温かい記憶を思い出して、泣いてしまう日があった。その時に侍女様にバレたのだ。それから時々侍女様の一人、リリー様から裁縫を習う事になったのだ。それはリリー様と二人だけの秘密。
呪文だけではなく、実践で防御や攻撃の魔法を五年習ってきた。十二歳のカイル様と十歳の僕が魔法を使った試験を受ける事になった。
ここで習っているのは簡単な魔法だから、失敗はしないと思う。子供用の指揮棒は木の枝みたいなシンプルなものだ。 試験なら神官様から貰ったものを使いたい。
宝物の指揮棒をただ使いたかっただけだった。そのせいで、あんな事になるとは思わなかったのだ。
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