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5.アシェル

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誰かに優しく抱えられる。
抵抗出来ない。

嫌だ。やめろ。
視界が暗闇に包まれて、力が入らない。また、何も見えなくなった。


ふわふわと漂っているみたいだ。





クーデターだ!───
何処からか、声が聞こえてきた。

お城っぽい建物の中だ。
僕は、実体がない。
だから、この人達には見えていないみたい。
夢?誰かの意識下とか…?




「逃げなさい。アシェル。」


アシェル??あいつの事?
でも、アシェルの瞳の色が──
深緑なんだけど。



「嫌です。戦います!」

「お前が、希望であり、継承者なのです。ガルシアの力を、失うわけにはいかないのです。」

「ですから!母上、俺は戦えます!」

母親らしい人が、軽く首を振った。

「貴方の力を解放する為の指輪をエミリーが届けてくれるはずです。それが、無ければ無駄死にしてしまう。今は身を隠しなさい。」

「ですが!」

「あちらに指輪が奪われた場合も最悪の事態が起こるでしょう。
どちらにしても、私達が人質にされたら、優しい貴方は、従ってしまう。
弟や妹が、拷問に合えば、絶対服従してしまうでしょう。
そうすれば、何千何万の人が死んでしまうかも知れない。

今は、耐えるのです。この選択が間違い無い事が、いつか分かります。」

「ならば、俺が──」


「生きなさい。」
「ディラン、ノア、頼みます。」

「アシェル様、こちらへ。」

「嫌です。母上!」


アシェルが生きてるって事は、
過去の話の筈だ。過去を見せられている?

意識の世界だよね?
でも、温度が下がったのを肌に感じてしまう。何かが近づいて来る。

「見ぃつけた。」

「な、お前、何を引きずっているんだ…?」

髪の毛らしい所を掴んでズルズルと引きずっている。血の跡が続いている。

ローブを深く被っているので顔は分からない。

「貴方以外の王家の者は、たいした能力が無いのですね。弱々しい無駄な抵抗でしたよ?でも、アシェル様なら、助けられますよね?」

「レオ、ン?カティ?」




人間、なの?赤黒く染まった人形のように見えた。


「いやぁ──────」
母親らしい女性が絶叫した。

その塊に吐き気が込み上げてくる。
もう、人の形がない。
涙が、溢れてくる。ひどい、なんてことを…。

アシェルの様子を僕は伺う。





血だらけのレオンとカティの元へ、
母上が駆け寄り《ヴゥヤー》と速攻魔術を告げる。
部屋全体に霧が充満する。
業火炎ゲヘナ
炎が渦巻いていく。
母上の速攻魔術が繰り出される。



レオンとカテリーナと共に私は、陛下の所へ逝くから。
逃げて、アシェル──

視界が遮られ、ノアが速攻魔術《瞬間移動テディト》を使い3人でこの部屋から逃れる。

離宮が炎にまかれた。
「母上!カティ!レオン!!」
アシェルの慟哭が伝わる──
瞳の色がワインレッドに変わっている。



感情で色が変わるの?
あ、危ない!アシェル!!


氷弾グラスヴレ
アシェルの背中に突き刺さる。
「ぐ、はっ。」口元から血が流れている。

「多少傷付けても、生きてたら再生してあげれるよ。
君みたいに、までは、無理だけどね。絶望に歪む顔も美しいねぇ。彼の方がほしがるはずだ。俺も味見したいなぁ。」

さっきの男だ!



「アシェル様!!!」
空間移動ミスタディト》空間が歪み、ディラン、ノア、そして飛び込むようにエミリーが消えた。





アシェルの記憶?
母親と兄弟が殺されていた。
怪我を負って逃げていた?


だけど──


を生き返せるのなら、アシェルの家族を助けられたんじゃないの?間に合わなかったの?

あの男が元凶で許せないのはわかるよ?
その時の空間移動で僕の家族は、事故に巻き込まれたんだよね?

何かが違うの?

分からないよ。なんでこんな映像もの見せるんだよ。


アシェル──なんでそんな、優しい顔をするの?


今は綺麗な深緑の瞳だ。


君の瞳を継ぐ意味は何?
アシェルは、僕に何をさせたいの?


何も答えてくれないまま、消えてしまった──

僕は、どうしたらいいんだろう。














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