だから、それは僕じゃない！〜執着イケメンから追われています〜

プロローグ

責任感が強くて、おおらかで、スポーツの得意な父。

美人で優しくて、仕事に一生懸命だけど、料理が壊滅的だった母。

要領が良くて、甘え上手の可愛い妹。

僕は、母によく似ているって言われていた。
母さんのために料理の腕を磨いたり、家族仲はとても良かった。

両親共に大学病院の医師で、滅多にない夫婦2人で同じ日に取れた、G.W前の4月の土日だった。
大学合格のお祝いに1泊だけど家族旅行をしようって、珍しく父さんからの提案だった。

温泉と観光、楽しい旅行はあっという間に時間が過ぎていく。
名残り惜しかったけど、これでまた仕事も勉強も頑張れる。そんな会話を車の中でしていた。
後少しで家に着くはずだったのに。

何かが突然車の前に現れた──
人が空間から飛び出して来たように見えた。

紅い、ワインレッドのような瞳と眼が合ったんだ。

綺麗な宝石のような瞳に見惚れてしまった。

父さんがハンドルを思いっきり、切った──身体が遠心力で持っていかれる。シートベルトが食い込む。

ぐっと圧迫される。

ドォン！！
キュルキュルとタイヤが擦れる音。

ガガガガガガッ──。
壁を擦る。

「キャ──────」
「うわああああああああ」

悲鳴と、打ち付けられる身体と
何が起きているのか分からない。

ドォォ─────ン



どのくらい時間が経ったんだろう？
自分が何処にいるのか、眼が開いているのか、閉じているのか？
それさえも分からなくなって、身体から熱が奪われていくようで寒くてたまらなかった。
暗闇の中、ただ遠くにサイレンの音だけが聞こえた。





「とう、さ、ん──。か、あ、さ…ん。の、ぞみ？」






焼けたような臭い───



「お前は、生きろ。」



誰かに言われた気がする。
そこで僕の記憶は途切れた。