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74神域
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「セーレ!!」
見えない壁は、その人をこちら側に受け入れてくれない。
ダンッと音がしそうなくらい強く、拳をぶつける。
怪我をしてしまいそうで、その人の所に行きたくてナキア様の腕の中から、身を捩った。
「───レ……イ? 」
魔力が揺らぎ、見えない壁を破壊しそうな勢いがある。止めないと……ナキア様の力は強いから、侵入者として扱われたら危ないと思う。
彼に何かあったら、それだけは嫌だ。
「落ち着いて。星七」
ナキア様が僕を抱えたまま、レイの所へと近付いて行く。
知ってる。やっぱりこの人のことを知ってる。
名前……は、レイであってるよね?綺麗な青い髪が少し風で揺れた。でもレイの輪郭がブレて見えるのは、風のせいじゃない。
いつの間にか、涙が溢れてきたせいだ。袖口で涙を拭う。
(何でこんなに苦しいのか分からない)
ナキア様が、透明な壁越しにレイの前で立ち止まった。
「──メイシア、いるよね?」
ナキア様から思ったより低い声が聞こえて、怒っているのかと不安になる。
黒いワンピース、白いエプロン、ホワイトブリムつきのメイドがひょっこりと現れた。
「この人がメイシア……?」
柔らかい笑顔に懐かしさを感じるのだ。この人のことも、知ってるような気がするけど分からない。ナキア様の知り合いみたいで、この人がレイを連れてきてくれたみたい。
ワンピースの裾を翻した後、手に持った細い杖を指先で回すと細長杖が元通りの長さに戻る。
細長杖を真っ直ぐに、緑のふわふわの芝に突き立てる。なぜか、ふわふわそうな地面から、トンと少し高めの音がした。
透明な壁に光の線が入り、ガラスの扉のような形が刻まれていく。
「すごい……綺麗な魔法」
コツンとメイシアと呼ばれた人が、細長杖の上の部分でガラス扉に当てる。
ゆっくりと扉が開きはじめると、こちら側の空気とは違い冷たい空気が流れ込んできた。その空気が、星七の体に触れた時、ピリピリと刺すような痛みがあった。
「い、た」
小さく呟い言葉。
そしてナキア様が、舌打ちをしたような……その後、ふわりと暖かい空気の膜に包まれた。痛みは消えてしまう。
(痛みが消えた……なんで?)
ひとひとりが、通り抜ける隙間が出来た瞬間にその人は通り抜けてこちら側に来て立ち止まる。
「レライエ様──慌てすぎ」
メイド姿のメイシアが、思わず笑った。
「セーレ」
心地よい低音でセーレと呼ばれた。
僕は……。
「──ナキア様、あの」
「星七……は、この男を知ってる?」
「セナ? セーレ……に何が……あった?」
レイは、メイシアとナキア様に視線を送り、口を開きかける。それをメイシアが手で制した。
「落ち着いてレライエ様。ナキア様、部屋でゆっくり話しませんか?」
「勝手に押しかけて来ておいて……ついてくるといい」
二人に背を向けて、ナキア様が歩き始めた。
レイの事が気になって落ち着かない。
「星七……危ないから、しっかり掴まって欲しい」
「は、はい。ナキア様」
ナキア様の首元に腕を回す。
「ちょっ──落ちついて下さい、ね、レライエ様。追い返されなかっただけ、良かったのですから」
「──ああ」
ナキア様の背後から、二人の会話が聞こえてきた。
ああ、やっぱり、ナキア様なら追い返すことは簡単だったのだ。
ここは神域。
ナキア様を怒らせたら駄目だ。
怒りに任せて、命を奪ったりしないとは思うけれど。
「あの、話をしたら……彼らを無事に元の場所に帰して下さい。お願いします」
ピタリと、足を止め少し不思議そうに星七のことを見た後、ふっと優しく笑う。ナキア様が、さらに抱き寄せるように腕を動かした。
「無事に……ね。ちゃんと帰すから心配しなくていいよ」
「はい」
これでいい。
そう思ったのに。
「セーレを返して下さい。連れて帰ります」
「ここにいるのは、星七だよ。それに君たちと戻りたいとは言っていないのに?だいたい……ここから出たら、星七は生きていけない」
何となく……分かっていた気がする。
ここはきっと特別な場所なのだ。
そして僕は、ここから出られない。
見えない壁は、その人をこちら側に受け入れてくれない。
ダンッと音がしそうなくらい強く、拳をぶつける。
怪我をしてしまいそうで、その人の所に行きたくてナキア様の腕の中から、身を捩った。
「───レ……イ? 」
魔力が揺らぎ、見えない壁を破壊しそうな勢いがある。止めないと……ナキア様の力は強いから、侵入者として扱われたら危ないと思う。
彼に何かあったら、それだけは嫌だ。
「落ち着いて。星七」
ナキア様が僕を抱えたまま、レイの所へと近付いて行く。
知ってる。やっぱりこの人のことを知ってる。
名前……は、レイであってるよね?綺麗な青い髪が少し風で揺れた。でもレイの輪郭がブレて見えるのは、風のせいじゃない。
いつの間にか、涙が溢れてきたせいだ。袖口で涙を拭う。
(何でこんなに苦しいのか分からない)
ナキア様が、透明な壁越しにレイの前で立ち止まった。
「──メイシア、いるよね?」
ナキア様から思ったより低い声が聞こえて、怒っているのかと不安になる。
黒いワンピース、白いエプロン、ホワイトブリムつきのメイドがひょっこりと現れた。
「この人がメイシア……?」
柔らかい笑顔に懐かしさを感じるのだ。この人のことも、知ってるような気がするけど分からない。ナキア様の知り合いみたいで、この人がレイを連れてきてくれたみたい。
ワンピースの裾を翻した後、手に持った細い杖を指先で回すと細長杖が元通りの長さに戻る。
細長杖を真っ直ぐに、緑のふわふわの芝に突き立てる。なぜか、ふわふわそうな地面から、トンと少し高めの音がした。
透明な壁に光の線が入り、ガラスの扉のような形が刻まれていく。
「すごい……綺麗な魔法」
コツンとメイシアと呼ばれた人が、細長杖の上の部分でガラス扉に当てる。
ゆっくりと扉が開きはじめると、こちら側の空気とは違い冷たい空気が流れ込んできた。その空気が、星七の体に触れた時、ピリピリと刺すような痛みがあった。
「い、た」
小さく呟い言葉。
そしてナキア様が、舌打ちをしたような……その後、ふわりと暖かい空気の膜に包まれた。痛みは消えてしまう。
(痛みが消えた……なんで?)
ひとひとりが、通り抜ける隙間が出来た瞬間にその人は通り抜けてこちら側に来て立ち止まる。
「レライエ様──慌てすぎ」
メイド姿のメイシアが、思わず笑った。
「セーレ」
心地よい低音でセーレと呼ばれた。
僕は……。
「──ナキア様、あの」
「星七……は、この男を知ってる?」
「セナ? セーレ……に何が……あった?」
レイは、メイシアとナキア様に視線を送り、口を開きかける。それをメイシアが手で制した。
「落ち着いてレライエ様。ナキア様、部屋でゆっくり話しませんか?」
「勝手に押しかけて来ておいて……ついてくるといい」
二人に背を向けて、ナキア様が歩き始めた。
レイの事が気になって落ち着かない。
「星七……危ないから、しっかり掴まって欲しい」
「は、はい。ナキア様」
ナキア様の首元に腕を回す。
「ちょっ──落ちついて下さい、ね、レライエ様。追い返されなかっただけ、良かったのですから」
「──ああ」
ナキア様の背後から、二人の会話が聞こえてきた。
ああ、やっぱり、ナキア様なら追い返すことは簡単だったのだ。
ここは神域。
ナキア様を怒らせたら駄目だ。
怒りに任せて、命を奪ったりしないとは思うけれど。
「あの、話をしたら……彼らを無事に元の場所に帰して下さい。お願いします」
ピタリと、足を止め少し不思議そうに星七のことを見た後、ふっと優しく笑う。ナキア様が、さらに抱き寄せるように腕を動かした。
「無事に……ね。ちゃんと帰すから心配しなくていいよ」
「はい」
これでいい。
そう思ったのに。
「セーレを返して下さい。連れて帰ります」
「ここにいるのは、星七だよ。それに君たちと戻りたいとは言っていないのに?だいたい……ここから出たら、星七は生きていけない」
何となく……分かっていた気がする。
ここはきっと特別な場所なのだ。
そして僕は、ここから出られない。
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