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70終わりのために③

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「神子……?」
「違う!あれは普通じゃない」
「キリエ……どう言うこと?」
 もう少し、もう少しだけ……テオドール殿下に治癒をかけたい。結界への魔力より、殿下の治癒の方へ魔力を使っている。
結界が、もたないかも知れない。お願いだから、もう少しだけ結界を──

「神子の気配が変なんですよね」
 メイシアが細長杖ロッドを向ける。


 仄暗い何かが見えたような気がしたんだ。確かめれば良かった。だめだ、集中しないと。

「もう少しだけ、治癒をさせて」
「セーレ無理をし過ぎだ」
「あと、す……こし」

 ガクンと力が抜けて、レライエに抱きとめられる。

 それと同時に結界が硝子が割れるように、ガシャンとひび割れて砕け落ちていく。

 キリエがテオドール殿下を庇い翼竜の姿で壁を作る。ディードが間合いに入ったが吹き飛ばされた。
 メイシアは、二人の神官を離れた場所へと逃がし、ディードが岩にぶつかる寸前で瞬時に移動して回避させる。
 セラフィーレはレライエごと後ろに押され大きな木の幹にドンとぶつかった。

「レ……イ?」
「大丈夫……か?」

 次の瞬間、目の前に神子が現れてレライエから引き剥がされた。魔力をほとんどテオドール殿下に使った為に、抵抗することが出来ない。

 首に指が食込み、片手で簡単に持ち上げられる。
「ぐ……」

「お前……何?ただの魔導書グリモアール守護者ガーディアンじゃないよね?悪役助けに、俺の邪魔しに来たの?」

 声が出せないほど首を締め上げられていて、段々と気が遠くなって周りも霞んできた。

「俺と契約しろよ!どいつもこいつも……違う動きをしやがって!邪魔なんだよ!」

 

「あ……」
 前にも……?

 思い出せないまま、剣を振り上げたレライエの姿だけが視界に入り、その動きがスローモーションに見える。

レ……イ……だめ。にげ、て。

 締め上げていたその片手で、簡単にセラフィーレを地面に投げ飛ばして、振り返った神子が何かを突き出した。

 レライエの体を黒い光が、突き抜けて行った気がする。レライエの魔法をまとった剣も、神子の黒い何かを断ち切ったように見えたけど。


『レ……イ?』


 レライエは、倒れなかった。胸を押さえゆっくりとセラフィーレの元へ歩いてくる。

『だいじょ……ぶ?』

 動けるようになったキリエが金色をまとい、の姿になって神子を押さえ込んでいる。
 テオドール殿下も、横にいるみたいだ。

 殿下たちは無事なんだ。

「ゲホッ」
 まだ声は出せない。地面に打ち付けた体も起こせない。だから、這うようにレライエの元へ行こうとする。

 もう、少しと、手を伸ばした時、レライエが傾き崩れ落ちた。

『レ、イ……?』

 どうして……?
 這って、這って、ようやくレライエにたどり着いてレライエを揺する。

 地面に血が溜まっていく。ディードが来てレライエを支え、メイシアが僕をレライエの傍に寄せてくれる。

「レ……イ。嫌……」
 震える手で、レライエのベルトから魔導書を取り出して胸に押付ける。何の反応もしてくれない。

「セーレ様……」
「嫌……レイーーーー」
 抱きついて、ありったけの魔力を放出しようとするのに、ほとんど魔力が枯渇していて渡すことが出来なかった。

 僅かに、まぶたが揺れて、優しく微笑んだレライエがまた目を瞑る。

「───ナ、キア様。ナキア様。お願い。お願いします。僕の全部で、僕の全部をレイにあげて。レイは、僕がっ!!」

 涙が溢れて、レライエの顔がぼやけていく。血が止まらなくて失いたくないのに。

「お、おいてかないで。レイ、レイ……いかないで。護るって約束したのに。こんな、誰か……」


「セーレ、俺がテオを護れなくて、お前の力を頼ったせいですまない」
「セーレ、レライエを王宮に連れて行こう」

 キリエの言葉も、テオドール殿下の言葉も……諦めろって聞こえる。

 嫌だ。

 魔導書を灰にしたら守護者も消える。その最後の魔力を全部、僕のときを全部レライエに。

「──離れて」

 小さな結界を作り……皆を遠ざけた。何か叫んでるみたいだけど、もう何も聞こえない。
 魔導書を今度は自分の胸に当て、レライエからもらった魔力を必死に集めると、体は半分以上透けてしまった。

「自分の足で歩けたこと、ダンスも嬉しかった」

 まだ間に合うはず。微弱だけど心臓は動いてるから、助けるからね。

 貰った指輪をレライエの指にはめて、魔導書と繋げて魔力が流れるようにした。抱きしめた魔導書が青い炎に包まれて、ページが炎で舞い上がっていく。

「レイ……愛してる」
レライエに口付けると、魔導書から白銀の光が溢れて膨らんで眩い光がこの地を包んだ。





───そしてセラフィーレの姿だけが、消えた。



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