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69終わりのために②

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 ほんの一分も満たないキスから、レライエの魔力が送り込まれる。

 不安な気持ちを、取り去るように。

「セーレが消えないように」
「──そ、そうなんだ。あ、ありがと?」
 羞恥で、挙動不審になっていると見知った二人が傍にきた。

「レライエ様もセーレ様も何やってるんですか……イチャイチャは、部屋でやって下さい。セーレ様は私の後ろにいて下さいね」

 多分見えてはないが、何をしていたかはバレているので、恥ずかしさに素直に従う。

 その近くにはディードがいる。

「──あの、メイシア」
「神子からも、守りますから」
「神子からも?」
 メイシアが、人指し指唇にあてて、これ以上の会話はダメだと言う合図に思えて、頷いた。

 テオドール殿下の傍に寄った神子が、キリエと何か話して、キリエの先程の笑顔は消えている。


 神子も無表情のようになっていて……仄暗いような、何か見落としている気がする。

「レライエ」
 そう、テオドール殿下に呼ばれ、一通りの説明を受けた後、二手に別れて浄化を試すようだ。

 王太子殿下は神子とキリエと護衛のほとんどがつき十名以上のチームで、こちらは、いつもの四人と神官が二人だ。

 合図などの連絡は、キリエが担ってくれる。

 とにかく、ここで出来ることをして、全部終わらせる方法はまた考えないといけない。選択肢を増やすしかないのだとしても、覚悟をしなければ。

 王太子殿下のチームと離れ、姿も見えなくなった頃、流石に浄化と言われるだけあって、空気が澱んでいくのが分かる。

 奥へと進むと空気の重さに、呼吸がしにくそうだ。
 特に神官の二人の顔色が悪い。

「ごめん。レイ……試してもいい?」
「そうだな。だが無理はだめだ。体に異常がでた時は、言って」
「うん」

 フードを降ろして魔導書を捲るようにイメージすると、パラパラとページが動いていくのを感じる。実際はレライエのベルトの所に魔導書が収納されている。
範囲が広いことも踏まえ、レライエの魔力も借りることにした。
   手を繋くことで魔力を重ねていく。青くレライエの魔力に染まったセーレの浄化が展開されて、重い空気が霧散していった。これでしばらくは、このチームの周りの空気は正常化するはず。

「すごい……」
 こちらに参加している神官からの感嘆の声が聞こえる。青ざめていた顔色から、血の気が戻ってきた。

(すごいのはレライエの魔力なんだけどね)

「さすがセーレ様。体が軽くなりました」
 ディードが剣を構えている。メイシアも細長杖ロッドを手にした。


 ──始まった。

「神官は、防御壁を!」
「メイシアに従え!」

 メイシアとディードの声が続く。

 一気に膨らんだ闇。
 魔獣が木々の影から、飛び出してきた。
 それを、レライエが剣に魔力を込めて薙ぎ払う。

もっと元凶に近づかないとキリがない。

 メイシアが細長杖ロッドを構えて、軽く百を超えそうな光の矢を放った。


 形勢はこちらが有利と思った時、地響きがしてバランスを崩しそうになる。傍に来たレライエに抱えられて、しがみつく。

「一体……」
「テオドール……殿下たちの方?」
 メイシアが、詠唱して十メートル近く上空へと浮かび上がる。

 神官二人が、メイシアを見上げ、緊張が走った。

「こっちに……くる。セーレ様!結界を!」

 こちらに来たのは翼竜の姿のキリエと、首の辺りに魔法で落ちない様に固定されているテオドール殿下だった。

「キリエ……怪我してる!」
「俺じゃない!テオだ!」
「殿下?」
 慌てて、結界の中にテオドール殿下を入れるとキリエが少年の姿に戻る。
「セーレ。治癒を!頼むから」

 キリエにも怪我がありそうだが、金色の髪が薄く灰銀に変わっていく。
「テオ!テオ!」

 テオドール殿下の顔色が悪過ぎる。触れると冷たくて、迷う暇はない。

「レイ。お願い力を貸して!皆はこの結界の中から出ないで」
 レライエが背中から抱きつき魔力を送ってくれて、一気に魔力が流れてきた。深く美しい青い世界に包まれてテオドール殿下の手を握りしめる。

「お願い……」
 少しづつ、殿下の顔色が戻り始めた時──

 結界の周りにいた魔獣を払い除けた黒髪の人影が、結界の透明の壁に手を当てて笑っている。

「やっぱり、俺の──魔導書はお前?」

 そう言って、神子が結界を砕き始めた。














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