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72ナキアの箱庭②
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ようやく体を起こすことが出来るようになって、大きめのクッションを背にした星七が外を眺めている。
「星七……」
「──はい。ナキア様」
ナキアは、星七のベッドに腰かける。欠片を集めてつなぎ止めたのは、ナキアだ。神域の中でゆっくりと回復させて、手も動かせるようになった。
記憶は戻らないまま、そして歩くこともまだ出来ていない。
「髪を編んでもいい?」
指で銀糸の髪を少し摘んで言うと、にこっと笑って頷いてくれる。
伸びた銀糸の髪を三つ編みにして、サイドから胸の方へと整える。
「リボンは……お気に入りの青がいいね」
「──はい」
転生まえの星七は、柔らかそうな黒髪だった。
セラフィーレと一つになり、長めの銀糸の髪紫の瞳になったが、自身の美しさに関して全く気にもしていなかっただろう。
推しのことだけ。彼のことだけをずっと、思ってきたのだから。
魔導書の契約により、魔法を使う時に特に契約者の魔力の影響を受ける。キリエが金色に染るように。セラフィーレは深い青色に染っていた。
純白の魂は、推しのレライエに染められて。
──綺麗な深い青。
愛されて、さらに美しく染まり、人と変わらない姿で嬉しそうに飛び跳ねて回る。
水鏡で、見守っていた……見過ぎだと怒られそうだったけれど、それほどに気になる存在だったのだ。
もちろん、分別はあるからね。プライベートなの所までは、見てないよ。
だって、あの子が怒ってしまうから。
───本当に星七は愛されているね。
君の純白の美しさに皆惹かれていくんだ。
セラフィーレが元の色に戻ったのは、レライエの影響が消えたからでもある。だからこそ、あえて星七と呼んでいる。
私の可愛い星七。
「顔色もいいね」
「ありがとうございます。今日は風が気持ち良いですね」
ふわりと微笑む星七の愛らしさに、ナキアの表情筋も緩んだ。
「体の調子も良さそうだ。庭に出てみるかい?」
少し驚き、そして表情がかげってしまう。
そんな顔をさせたくないと、思っているのに。
「嫌だった?」
困ったように、首を振り口を小さく動かすが、よく聞き取れなかった。頬に触れて顔を上げさせる。
「歩けなくても、私が抱き上げていくよ?少し神域の森の空気に触れるといい」
「邪魔ですよね? それに重くはありませんか?」
「もしかして、私の見た目を心配してる?」
星七より少しだけ身長は高い。筋肉質ではないのでお互い華奢だが、それは見た目の印象であって、私はかよわい訳ではない。
ブランケットを捲り、両手で抱きかかえると、星七は慌ててバランスを取るように、私の肩口を掴んだ。
「あ、すみません」
慌てて、引っ張ってしまった服から手を離し、また困ったように眉が下がっている。
その困った顔をしているのさえ、愛おしく可愛く見えた。
「遠慮しなくていい。まだ回復途中だから、そのうち歩けるようになる。ここの空気が星七を癒していく」
「そうなんですね。とても体が軽くて、歩けそうなんですけど……上手く動かせなくて」
「焦らなくても、時間は十分にある。星七は、ゆっくりしていたらいいんだ」
どうして、そんな困った顔をするんだ?
忘れてしまったはずなのにね。
いや、覚えているのかな。
記憶とは別の感覚として、深い青色を愛しそうに見つめて時折悲しそうにしている。
ねぇ、星七。
君は、何を望む?
もう、魔導書は消えてしまったんだよ。
「星七……」
「──はい。ナキア様」
ナキアは、星七のベッドに腰かける。欠片を集めてつなぎ止めたのは、ナキアだ。神域の中でゆっくりと回復させて、手も動かせるようになった。
記憶は戻らないまま、そして歩くこともまだ出来ていない。
「髪を編んでもいい?」
指で銀糸の髪を少し摘んで言うと、にこっと笑って頷いてくれる。
伸びた銀糸の髪を三つ編みにして、サイドから胸の方へと整える。
「リボンは……お気に入りの青がいいね」
「──はい」
転生まえの星七は、柔らかそうな黒髪だった。
セラフィーレと一つになり、長めの銀糸の髪紫の瞳になったが、自身の美しさに関して全く気にもしていなかっただろう。
推しのことだけ。彼のことだけをずっと、思ってきたのだから。
魔導書の契約により、魔法を使う時に特に契約者の魔力の影響を受ける。キリエが金色に染るように。セラフィーレは深い青色に染っていた。
純白の魂は、推しのレライエに染められて。
──綺麗な深い青。
愛されて、さらに美しく染まり、人と変わらない姿で嬉しそうに飛び跳ねて回る。
水鏡で、見守っていた……見過ぎだと怒られそうだったけれど、それほどに気になる存在だったのだ。
もちろん、分別はあるからね。プライベートなの所までは、見てないよ。
だって、あの子が怒ってしまうから。
───本当に星七は愛されているね。
君の純白の美しさに皆惹かれていくんだ。
セラフィーレが元の色に戻ったのは、レライエの影響が消えたからでもある。だからこそ、あえて星七と呼んでいる。
私の可愛い星七。
「顔色もいいね」
「ありがとうございます。今日は風が気持ち良いですね」
ふわりと微笑む星七の愛らしさに、ナキアの表情筋も緩んだ。
「体の調子も良さそうだ。庭に出てみるかい?」
少し驚き、そして表情がかげってしまう。
そんな顔をさせたくないと、思っているのに。
「嫌だった?」
困ったように、首を振り口を小さく動かすが、よく聞き取れなかった。頬に触れて顔を上げさせる。
「歩けなくても、私が抱き上げていくよ?少し神域の森の空気に触れるといい」
「邪魔ですよね? それに重くはありませんか?」
「もしかして、私の見た目を心配してる?」
星七より少しだけ身長は高い。筋肉質ではないのでお互い華奢だが、それは見た目の印象であって、私はかよわい訳ではない。
ブランケットを捲り、両手で抱きかかえると、星七は慌ててバランスを取るように、私の肩口を掴んだ。
「あ、すみません」
慌てて、引っ張ってしまった服から手を離し、また困ったように眉が下がっている。
その困った顔をしているのさえ、愛おしく可愛く見えた。
「遠慮しなくていい。まだ回復途中だから、そのうち歩けるようになる。ここの空気が星七を癒していく」
「そうなんですね。とても体が軽くて、歩けそうなんですけど……上手く動かせなくて」
「焦らなくても、時間は十分にある。星七は、ゆっくりしていたらいいんだ」
どうして、そんな困った顔をするんだ?
忘れてしまったはずなのにね。
いや、覚えているのかな。
記憶とは別の感覚として、深い青色を愛しそうに見つめて時折悲しそうにしている。
ねぇ、星七。
君は、何を望む?
もう、魔導書は消えてしまったんだよ。
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