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67浄化

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「セーレ」
 隣に来たレライエに呼ばれると、降ろしていたフードを被せられた。
「顔は隠して。離れないように」
「十分魔力ももらってるから、離れても大丈夫……」
 引き寄せられ抱き締めて来たので、慌てて小声で話かけた。

「ちょ、待って他の人が見てる」
「この姿のまま連れて行きたくない」

として、浄化に参加することになったから、仕方ないよ」

 何となく周りからの視線を感じてしまう。成人祝賀会でお披露目され、覚えている貴族も神官もいるみたいだ。ほぼ公認のような仲ではあるが、正式な婚約のような話にはならない。

 メイシアによると、王妃が王太子より先に相手を決定させないと言っていたらしい。

 ディードの実家であるメリオル伯爵家は、王妃派ではなく中立派の中堅のような立場だ。その遠縁設定のは、王妃に影響を及ぼす存在ではないと思う。それでも警戒されているのだから、よほどレライエの存在が怖いのだろう。

 (悪役王子……から、絶対解放する)

 ただ魔導書グリモアール守護者ガーディアンとバレたなら、神官の元へ差し出されてしまう。離されない為と、厄災を終わらせる為に、魔法師として人の姿で参加をレライエも納得してくれたのだ。魔力は十分にもらっているので、強力な敵でも出ない限り問題ないはずなのに、朝から何度となく抱き締められてしまう。

 ここまで来て、止めるつもりはない。

「──心配し過ぎだよ」

 本当に貴族社会は、面倒でしかない。レライエが王太子になりたいなんて、一度も言ったことなどないのに。

「セーレ様」
 メイシアの声が後ろから聞こえたので、もう一度しっかりとレライエの顔を見上げる。

「レイ……離してくれる?」
 大きなため息と共に背中に回された手が緩るんだので、安心させるように指先に触れて一度キュッと握り手を離した。

 ディードは穏やかに笑っていて、メイシアはレライエを見て少し口角を上げる。イタズラを楽しむ時のような顔をするので、駄目だよと視線を送ると「つい……」と笑う。
 穏やかないつもの関係性に安堵していると、従者により王太子が待機している方へと誘導され後ろからついて行った。


 すでに、神子と王太子殿下は準備が終わっているようで、何か打ち合わせを神官長としていた。そこにはキリエの姿はなく、魔力の感じから魔導書の中に隠れている。多分殿下が身に付けているのだ。そう思って見ていると、神子がこちらに気がついて、勢いよくこちらに向かって来る。

!」

 浄化に行くメンバーは、テオドール殿下と神子がメインだ。美形同士のメインカプ……にはならず。大人な神官長とも師弟関係もなく、浄化には同行しないそうだ。レライエの専属護衛騎士のディードが、神子に騎士の忠誠も誓う事もない。メイシアの護衛対象は、申し訳ないけれど、魔法師のセーレだ。 

(守護者が護られるって、おかしいんだけど。小柄で儚げな見た目が、強そうじゃないから?)

 突然──レライエが、指を絡めていわゆる恋人繋ぎをして来た。

「そんなに、その子を護る必要があるなら、足手まといじゃない?」
「そんなことありませんよ。浄化の能力がある貴重な戦力です。その代わり魔力が不足しやすいので、レライエ様が傍にいます。私もいつでも代わりに出来るように傍に控えます」

 メイシアの言葉に、神子顔がほんの一瞬ゆがんだように見えた。ついでにレライエも不機嫌になっている。

「メイシア。大丈夫だよ。迷惑かけない様に裏方で頑張るから。王太子殿下にはキリエもいるから、きっと浄化が上手くいくよ。早く……終わらせよ」

 本心からの言葉だった。長引けば長引くほど、きっとレライエに影響が出るはずだから。

「それって……神子が役に立たないって言ってるように聞こえるけど?」
「そんな事言っていません」

「どうだか……異世界から来た私の方が、護られるべき立場なんだから。ディードとメグ……メイシアは、私の護衛になってよ」

 立場を利用されると返答が出来ない。守護者ならまだ対等に発言できるかも知れない。そう思った時、王太子殿下によりこの場が収まった。

「神子様。レライエの従者はそのままに。我々には、護衛も多くついています。何よりがいるので、これ以上過剰な護衛がつくと、恥になりかねませんから」

(本当にこの兄弟は、素直じゃないな)

 護衛の引き抜きを阻止してもらい、ようやく浄化の場所へ向かうことになった。






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