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63魔力同調②

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 とりあえず、話を聞いてからだとレライエの離宮のサロンに皆移動した。
 セバスがお茶を運んで、メグがカップに注いでいる。
 キリエと王太子殿下、レライエとセラフィーレが隣同士になって向い合うようにソファに腰掛けた。

 ディードはレライエのすぐ斜め後ろに、メグはセラフィーレ側に少し下がって立っている。セバスが外に出た後に、少し冷ましたティースプーンが、口元に差し出された。
 いつもは、膝の上にいるのだけど流石にそれは出来ず、差し出されたお茶を口に含み毒見をする。

 次にフルーツタルトが目の前に来たので、パクッと食べて見せた。レライエが少しだけ目を細め口角が僅かに上がったのを見逃したりしない。甘いものをほとんど食べないくせに、頻繁にデザートが用意されているのは、食事の必要がなくても、味覚があるセラフィーレを喜ばせようとしているからだと思う。

 これで、王太子殿下も安心して食べられるはずと、ニッコリ笑って見せたら、何故か殿下の顔が赤い。

「王太子殿下?あ、サロンの中が暑いですか?空調を調整しましょうか?」
「い、や……大丈夫だ。いつもそうやって、食べさせてもらっているのか?」

 普段は二人の時にしかしないのだけれど、王太子殿下の為にも毒見をしただけだ。

(あ、自分の手で食べれば良かった。習慣って怖い)

「──セーレのそれは、一応、毒見をしているんだろう。テオがいるしな」

「毒見?……レライエ、セーレはお前の大切な人なんじゃ……」
 途端に心配そうな顔をするテオドールを落ち着かせようと、レライエを悪く言われたくなくて、これは全部自分が望んだことだと伝える。

「それに、食べる前から毒がないことは分かってるんです。レイが、安心出来るならそれが一番なので」

「テオにも毒見係はいるだろう?」

「あ、ああ。そうだな……立場上仕方がないが、少し驚いた。そうか……セーレはレライエの為にやっているんだな」
 痛々しく見られるのは困ってしまう。本当に毒見は、セラフィーレの体には問題ないのだから。

「あ、あの! 僕も、レイには魔力譲渡で支えてもらってますので、ウインウインと言うか!」
「ういんういん?」
「お互いに有益でって、損得じゃ無くて……二人だけの特別な関係で、魔力同調も怖いくらい相性が良くて!」

 魔力過多であるレライエの魔力は、セラフィーレを安定させてくれるのは事実だ。特別な関係とわざわざ暴露しているようなもので、頬が熱くなってしまう。夜の事なんて言ってない。言ってないけれど……。
(ああ、馬鹿。ヘンタイ……っぽい)

 中身青年であるキリエが呆れ顔になっていて、隣のテオドール殿下の顔が、さらに赤くなっている。ディードが笑いを抑えているが、漏れ聞こえてきた。

「セーレ?」
 そう言って、レライエは表情を変えないまま、指をしれっと絡めて来る。
「レイ……な、なんでもない」

「とにかく、セーレは俺のだから二人とも手を出さないで欲しい。セーレを傷つけるような奴は、許しはしない」

「レイ。言っておくが、セーレは俺にとっても大切な友人だから、俺がそんなことするわけないだろう?解放してくれたのも、セーレなんだ。恩ある相手に礼は尽くす。今は、浄化とテオを護ることに協力して欲しい。それだけだ」


 キリエの話によると、守護者を神殿側に付けたいと言う思惑で、神子が積極的に突撃してくるそうだ。
 神子の魔力は相性が悪過ぎるからテオドール殿下に接触させたくないこと。王宮では魔力同調の訓練をしたいが、再三神官達が結界を壊そうと物量で押して来る為に、結界への魔力出力が多すぎて困っているらしい。

「既成事実でも作りたいのか、毎晩の様に押し掛けて来るんだ。いい加減にして欲しいがるのは、駄目だと言うからな……。テオはちゃんと休ませたい。人は睡眠は大事だろ?それにここは、セーレの魔力が綺麗だから安心出来る。とても癒される空間なんだ」

 キリエがしみじみと、空間を確かめて見ている。何か呟いては、また何か別の言葉を紡いで口を閉じた。

「結界も強固ですごいな……。たぶん、俺を弾くようにしてないから、ここに入れた気がするが、神官長達が束になっても壊せないだろう。無理矢理入ってくるなら神だけだかもな」

「もしかして、キリエ、今結界壊そうとした?」

「すまない試した。テオを休ませたいんだ。安心出来る場所がない。なんなら、俺が魔法誓約をしても良い──テオを護るって誓ったんだ」

 (キリエの大切な人は、テオドール殿下なんだね)

 その言葉に顔をしかめたのは、レライエだった。安心させたくて絡めた指に魔力を乗せる。王族として二人とも、きっと神殿や王族の権力に振り回されて来たのだ。いつか、この溝を取り去ってあげたい。

「レイ。お願い」
「──なら、セーレに何かあれば、魔導書を灰にする」
「レイ!!そんなこと言わないで」

「レイ、それで構わない。セーレ、しばらく世話になる」

 レライエが、ようやく頷いた。



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