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68終わりのために①

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 隣国との境界に遺跡がある。 
 辺境伯により代々護られて来た地域であり、その時代は女神の加護により豊穣を約束された領地というのが設定である。

 ここが一番の被害地域であり、飛び火した箇所を神殿側の神官や魔法師が選出されて魔法で抑えているのが今だ。

(この地の浄化……ゲームの中だと魔導書の力が大きく作用するけど)

   神子が、魔導書グリモアール守護者ガーディアンと契約出来てないので、正直どうなるのか分からない。

 人により裏切られた女神によって起きてしまう厄災は、繰り返えされやすいのだ。このゲームは再戦して次の攻略ルートだったり、溺愛増し増しのルートに出来たり、何度もこなして隠しキャラをゲットする仕様だ。一度で叩くのが難しい。

 でも今ここは現実世界で、ゲームの中でモブキャラとされる人達が、簡単に命を落として良い理由にはならない。ただ名前など知らないだけで、貴族や民衆全てに愛する家族や大切な人達がいるのだから。

 亡くなっていい人なんて、誰一人いない。

 レライエも神子もテオドール殿下も、セラフィーレもこの世界の住人なのだ。

 メインキャストがほぼ揃って、魔導書が二冊もあるのなら、この世界で二度と厄災など起きないようにできたらいい。

 でも神子は……本当はどうしたいのだろう?攻略だけが目的だろうか?
 浄化を成功させたいと、終わらせたいと思っていてくれていたら。神子に力を貸した方がいいのかな。

 厄災を終わらせるのに、神子は召喚されて元の世界から切り離されたのだ。ならやはり、神子の願いは叶えてあげるべきだとは思う。
 頭の中で納得したいのに、心の中で思ってしまうのだ。お願いだから、レライエを選ばないでと。

 神子が、と同じ世界から来たとしても、であるならば、同じ時間の中で生きられる。テオドール殿下やディードを攻略しても、同じ時を同じ速度で一緒に過ごせる。それが羨ましいと思うと同時に、レライエに自分は相応しくないと思ってしまう。

 神子はではないから。

 セラフィーレは、であり、だ。同じく守護者であるキリエもそうだ。

 ──ただ、魔導書が……


「キリエ」
 その名を呼んだのは、魔導書を抱えたテオドール殿下だった。よく通る声に思わず視線をむける。同じ様に、神子もレライエ達も立ち止まって、殿下の金色の魔力を帯びる魔導書を見ていた。

 綺麗な金の光が本から溢れて、少年が姿を現すと同行していた護衛達も見惚れている。

「テオ……もっと早く呼べ」
「悪い──今から力を貸して欲しい」
 相変わらずの口調にも慣れたのか、持ち主が柔らかい笑顔で迎え入れると、少年も笑ってポンと軽く背をたたく。


『よく眠る様になったんだ。セーレの結界の中に受け入れてくれてありがとう』
 嬉しそうなキリエの笑顔を思いだす。守護者が一番大切にするのは契約者だ。

「キリエ……嬉しそう」
 思わず漏れた言葉に反応したのか、人目も憚らず手を繋がれてしまって手を離そうとしたのに、指まで絡めてきた。

「ちょ、何で……」
「テオドール殿下と契約したいのか?」
「──へ?」

 テオドール殿下と?

「──最初に会った時、消滅させられそうになったよ?その相手と契約したいとは思わないけど」
「今は、違うだろ。浄化のため、国の為に力が欲しくて暴走してた……だけで」

 苦しそうな表情をしている。複雑な幼少期で、王妃派に命を狙われてきた。テオドール殿下が、王妃の命令を受けていたのだとしても、簡単には許せないはずなのに。

 ああ、レライエは本当に……だから、悪役なんか似合わないんだ。最初は推しだから助けたいと思ったけど、それ以上の気持ちをもらったから、受けいれた。

 それが、正しいかは今でも分からない。

「僕をこんな風に変えたのは、レイなのに」

 言葉にして慌ててしまう。誤解を与えてしまいそうな言い方をしてしまった。そう言う意味ではないのに、意識して顔が熱くなってレイの顔がまともに見れない。

「セーレ、こっち向いて」
 目立たないって決めたのに。

 頑なに俯いていると、フードの両端を引っ張られ唇が触れあい、優しい魔力が流れ込んできた。



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