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62魔力同調 ①

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 キリエが魔導書グリモアール守護者ガーディアンとして、テオドール殿下を契約者と認めた。その噂はあっという間に国内から隣国へ広まり、隣国からは王家との接触を図ろうとする動きがあり、何かと騒がしい状況になっている。特に、婚約の申し込みと釣書は国内外から多く届いているみたいだ。
 
   神子との婚約を守護者が、拒んだ事まで噂が広がってしまったのは大きいと思う。

 そしてテオドール殿下が、今は厄災を鎮める事が優先の為、誰とも婚約をしないと公言した。

「一体、神子は誰を選ぶのかな?」

 逸脱していくゲームの展開によって、未来さきが分からない。ただ、この世界に生きているのは現実なので、浄化が最優先であるのは間違いないのだ。

 テオドール殿下が、外交などの公務を減らして守護者と魔力同調を確認する訓練に入るそうですと、メグから報告を受けていると、何やら外が騒がしい。

 そして、公務に行ったばかりのレライエが戻って来た。

「レイ? どうしたの?」
「セーレ、今から結界を強くして。メグは荷物を最低限まとめて欲しい。足りないものは後から調達する。別邸に」

「無理ですね。もう、セバス様が対応しています」
 チッ……と、レライエが舌打ちをする。

 なるほど、こちらに拒ませないように、ギリギリまで魔力を隠し結界の中に入った後、なのかを知れせてくるなんて流石だ。

「キリエと……テオドール殿下が来たんだ」
「セーレは、相手にしなくていいから。セバスが対応しているうちに」

 シュンッと目の前の空間に人が現れた。

「キリエ!? えっ!?」
「セーレ!」

 満面の笑みの破壊力と、低い声はギャップが大きいままだけれど、殿下と手を繋いでいるのは、流石に衝撃的だった。

「テオと相性がいいんだ」
 艶のある金色の髪の毛が少しだけ伸びていて、後ろをちょこんと結んでいる姿は可愛らしい。
「王太子殿下の魔力? 」
「ああ」
 チラリと、テオドール殿下を見ると顔色が悪い。
「王太子殿下? 転移で具合でも悪くなりましたか?少し休まれますか?」
 目が合うと、困ったように笑い一度礼をとってくれた。

「突然すまない。先触れもなく、許可もなく急に行ってはいけないと止めたんだが……。転移はしないからと、馬車に乗せられた。さっき突然ホールで手を握られた瞬間にここにいた」
 
 レライエがすぐ横にきて、腰を抱き寄せる手の力が何時もより強い。気になって見上げると一瞬だけ優しく笑い、すぐに目線が来訪者に向かった。

「レイ?」
「──具合が悪いのなら王宮医の所へ。キリエ、王太子殿下を連れて行くといい」

「なぜ? テオの体調が悪い時はすぐ分かるから問題ない。簡単に追い返そうとするな。浄化を終わらせるなら協力すべきなのは分かるだろう? こちらもセーレの浄化の力と、レイの魔力は必要だと判断している。陛下の命令なら、断れないと陛下が言っていたからそれを利用するだけだ」

「キリエ!」
 思わず名前を呼ぶ王太子殿下が困っているように見えた。今までの事を考えれば、レライエと接触しにくいのだろう。

  ただこれからの事を考えると、こちらも歩みよる必要がある。メグを見ると、楽しそうに成り行きを見守っているみたいだ。キリエは、真っ直ぐにレライエを見たまま、返答を待っている。

 ゲームを逸脱させてしまったセラフィーレの責任と、譲れない護るべき人の為にも協力はしたい。

 レライエが神子と王太子殿下の関係を嫉妬するような事案もなく、ディードが神子に誓う事もない。メイシアにおいては、メグとしてメイド業に励んで何かとセラフィーレ達を守ってくれている。レライエの周りに頼れる人達が少しづづ増えている。
 
 厄災からは逃げられなくても、力を合わせて浄化出来たなら、このゲームの終わりがくるはずだ。

──大丈夫。レライエが悪役王子になったりしない。

「レイ。王太子殿下とキリエに協力しよう」

 レライエが驚いていて、返事をする前にキリエが反応する。

「じゃあ、浄化に向かうまで、ここに泊まるから一緒に訓練しよう。俺とテオは同室で問題ない」
 キリエが太陽みたいに笑った。

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