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60守護者キリエ

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 持ち帰って来た魔導書は、分厚いのにとても軽い。
 書棚に片付けるべきか、机に置けばいいのかさえも扱い方が分からない。レライエたちが引き上げた後、再三神官長が魔導書を見たがったのだが、キリエがそれを許さなかった。

「触れていいのは、契約者だけだって言ってる。消されたいのか?」
 手をかざし、その手に魔力が集まり始めると、陛下の護衛が陛下を護るように立ち「どうか、お止め下さい」と懇願しながら分厚い結界を貼った。

「──魔導書グリモアール守護者ガーディアンは、悪用されない様に契約者を選ぶ。そして、魔導書もその契約者も護るのが守護者だ──契約者が道を……それは、いい」

 何かを言いかけてテオドールの方に振り返る。こちらを見て破顔する美少年は、大人びた低い声が極端に似合わない。彼らを睨む顔とは対象的で、なぜこんなに懐かれているのかも分からない。
 それでも、神子との婚約があやふやになったのは……ありがたかった。





「──神子は、俺が想像していた人物じゃなかったんだ」

 ため息をついた。王国の利益の為なら、従うのが……王家の者としての役目。

 (分かっている)

 この世界を救うべき、献身的な慈愛の神子が来ると思っていた。実際は努力を嫌い、高価な物を望むような人だった。

 無理矢理この世界に呼んだ以上、報酬や生活を援助をするのは当たり前だが、求めて来る物は想定以上だった。魔力も少ないため、神殿で学んでいたようだが、あまりにも伸びなかったらしい。

   浄化が進まないことの理由が少しづつ、神殿での事実が明らかになってきた。
 努力をしているなら、まだしも……そんな欠片もないなんて。

 神殿用の魔導書を特別に渡したらしいが、守護者付でないのなら、王家の魔導書を使わせて欲しいなどと言って来た。

 守護者付の魔導書が、どれだけ希少なのか分かっているのだろうか?王家でさえ所持していない。

 それに王家の魔導書も簡単に外部に出せる物ではないのだ。

 テオドールでも、一部しか閲覧が許可されていないのに。

 神殿の魔導書も、神聖な魔力が宿ると言われているのに、神子の使用後に嫌な魔力残渣を感じとってしまう。

 ──闇のような、黒い魔力。

 召喚の時、闇をまとった塊は、初めからそうだったのだろうか?
 最初は闇を抱えていなかったのに……神子のせいで闇を吸収したとしたら?
 神子の中の汚れたものを取ってくれたのではないか?だから、神子の魔力が少くなくなったか……元々素質がなかったか?

 あの時、レライエだけ……声が聞こえたと言ったのだ。それから、レライエは変わって行った。

    あれは、神子の為にある魔導書だったのではないか?
セーレが魔導書グリモアール守護者ガーディアンなら、あの離宮の結界の強さも納得がいく。それにキリエは……友人と言った。

 ただ考えれば考えるほど、アレは神子に相応しくない。だが、もう召喚は我々の時代では不可能なんだ。

 献身的な護衛騎士を失い。自分の不甲斐なさと人徳の無さに辟易している。第二王子にを奪われないように、ずっと叱責を受けてきた。王妃様の為に認められることをずっと考えて来たのに。

 だから、神子との婚姻も覚悟をしてきたのに、受け入れたくない気持ちが強くなっている。
 セーレを見てからは、あの笑顔が忘れられない。彼の纏う美しい穏やかな魔力に触れてみたい。

 どうして……俺は。


「皆、レライエを選ぶ」
 醜い嫉妬だとは分かっている。
 正妃の子として完璧を求められ、義弟に始めて会った日、魔力に弾かれ情けない姿を晒した。

 (情けないな)

 机の上にある魔導書が淡く金色に輝いた。少し灰銀に髪色に戻っているが、心配そうにこちらを見る可愛らしい少年が出てきた。

「テオ……俺は、お前を選んだが、テオは嫌なのか?」
 男前な声と言い方。可愛い顔が心配そうにこちらを見る。アンバランスで似合わない、思わず笑ってしまう。

「ははは」
「テオ?」
「はは。悪い。そんな可愛い顔をしているのに、言葉使いが合わないのが面白くて」

 キリエの神聖な魔力を感じてしまう。彼を信じても良いのだろうか?

「キリエ……君と魔力を馴染ませれば、この魔導書の力を借りることが可能なのか?なんなら、あの神子の力を借りずに厄災を終わらせることが出来ると思うか?」

 それが叶うなら、神子との婚約を拒むことくらいは、許されるだろうか? 

 俺は……俺も、レライエのように本心から想う相手を求めてもいいのだろうか?

力が欲しい。強くありたい。

「テオ?」
「教えて欲しい。キリエ」

 美しい魔導書を抱きしめた。





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