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57キリエの契約②
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両手で第一王子殿下が灰銀色の魔導書を掴んだところで、キリエが何かを呟くと金色の魔法陣が浮かび上がる。灰銀の魔導書が殿下の金糸の髪色に輝き、青と金糸が織り重なる繊細で美しい表紙に変わった。更にキリエの髪色が金色に輝いたのを見て、契約が成立したことが分かる。
第一王子殿下の美しさに引けを取らない、金髪の美少年がいた。持っている魔導書も美しい。
「契約が成立しましたね」
メイシアの一言で、王家の護衛達から感嘆のため息が漏れる。
「素晴らしい。きっと王妃様もお喜びになるでしょう!! さすが王太子殿下です。神子様には、王家に伝わる魔導書をお借り出来ますでしょうか?守護者付きではなくても、神子様の能力を上げてくれるでしょう。陛下、厄災を終わらせた時は、王太子殿下と神子様との婚約の儀も進め神殿と王家の結びつきを深めましょう」
神子がその言葉を聞いて破顔した。
「王家の魔導書をくださるのですね!テオ様……王太子殿下との婚約……楽しみです」
召喚の儀の時、確かに第一王子殿下は神子との婚約を望んでいたけれど、セラフィーレがここに来て数年経つが、婚約するような噂一つ流れて来なかった。レライエに接触して来そうだったけれど、上手く収まるところに収まったのかも知れない。
第一王子殿下の顔を見た時に、それは間違いなんだと理解する。絶望するように一瞬表情が抜け落ちた。
(あ、望んでいないんだ)
「私は……」
殿下の顔色は悪くなる一方だが、それでも平然を装うように笑顔を作っている。
正しく痛々しいので、声をかけたくなってしまった。
「あ、の。第一王子殿下」
その第一王子殿下の前に、庇うように立つ少年の魔力に気圧される。
「おい。くそ神官!ふざけるな。俺が選んだ契約者に、穢れた魂の奴を薦めるな!!」
美しい顔からの暴言が止まらない。チッと舌打ちする音まで皆に聞こえたと思う。
「テオ。俺があいつらから護るから心配するな。いつでも俺の名を呼んでいい。セーレは大切な友人だから、呼び捨てを許している。メイシアは──だから仕方がない。そこは納得して欲しい。テオ、どうかキリエと呼んで。お前に害なす者全てから護ると誓う」
低音ボイスの威嚇は、第一王子殿下だけを護りたいのが分かる。
第一王子殿下は、王国の為に尽力するキャラだった。正統派の王子様は不動の人気キャラで六花姉が好きだったことを思い出した。簡単に自己を犠牲にしてしまうメインヒーローらしく、国のためなら神子を選ぶ可能性がある。でも、キリエが反対するのなら、召喚された神子は第一王子殿下に相応しいとは思えない。
「──なぜだ?キリエ。お前のことは覚えていないのに。まるでキリエは私のことを知っているみたいに言う」
「テオは、いつも泣きそうだから。護るって決めている。早く俺が元に戻るように、魔力を合わせる練習もしよう」
輝くような笑顔は、第一王子殿下にだけ向けられた。気になって陛下の様子を見ると少しだけ口角が上がっていて、怒ってはなさそうだ。レライエの表情は見えないが、頬をピクピクしている神子と、眉間に皺が寄っている神官長の二人だけは怒っている様に思う。
「たかだか──魔導書が、王家のことに口を出さないで欲しいものですね。召喚された神子を支えるのは、王家の役目です」
神官長の発言にいち早く反応するのは、やはりこの人だ。
「一番、神子様と気が合いそうなのは、神官長様ではありませんか?貴方が支えて差し上げれば、ま~るく収まると思いませんか?神殿で神子に教えるのが難しいなら、王家の者でも無理かも知れませんからね」
メイシアは王家にも神殿の者にも、臆せず話している。神殿の批判も入れていて、不敬にならないか、セラフィーレの方が心臓がばくばくしてきた。それにもうそろそろ、この場に留まることが心配でもある。
「──メイシア。レイ……あの」
セラフィーレを抱えて立ち上がり、レライエが陛下に礼をとる。
「セーレは、このような場に慣れていませんので連れて行きます。浄化の件は、決まり次第連絡をお願いします。過剰な要求なら、お断りしますので期待はしないで下さい。そちらに魔導書守護者も神子様も神官長もいるのですから。能無しは、捨て置いて下さってかまいません。成人しましたので何時でも、王都から出ていけます」
もう一度礼をして、ディードとメイシアを見ると二人が頷いた。二人を連れてそのまま扉の方へ向かう。
「──レライエ。私は、お前を不要だとは思っていない」
「王太子殿下。言葉では、なんとでも……では、失礼いたします」
兄弟の溝の深さが、レライエの心の傷と重なっている様に思う。このままだとレライエが闇に飲まれてしまいそうで、キリエとも二人のことを話そうと思ったのだ。
第一王子殿下の美しさに引けを取らない、金髪の美少年がいた。持っている魔導書も美しい。
「契約が成立しましたね」
メイシアの一言で、王家の護衛達から感嘆のため息が漏れる。
「素晴らしい。きっと王妃様もお喜びになるでしょう!! さすが王太子殿下です。神子様には、王家に伝わる魔導書をお借り出来ますでしょうか?守護者付きではなくても、神子様の能力を上げてくれるでしょう。陛下、厄災を終わらせた時は、王太子殿下と神子様との婚約の儀も進め神殿と王家の結びつきを深めましょう」
神子がその言葉を聞いて破顔した。
「王家の魔導書をくださるのですね!テオ様……王太子殿下との婚約……楽しみです」
召喚の儀の時、確かに第一王子殿下は神子との婚約を望んでいたけれど、セラフィーレがここに来て数年経つが、婚約するような噂一つ流れて来なかった。レライエに接触して来そうだったけれど、上手く収まるところに収まったのかも知れない。
第一王子殿下の顔を見た時に、それは間違いなんだと理解する。絶望するように一瞬表情が抜け落ちた。
(あ、望んでいないんだ)
「私は……」
殿下の顔色は悪くなる一方だが、それでも平然を装うように笑顔を作っている。
正しく痛々しいので、声をかけたくなってしまった。
「あ、の。第一王子殿下」
その第一王子殿下の前に、庇うように立つ少年の魔力に気圧される。
「おい。くそ神官!ふざけるな。俺が選んだ契約者に、穢れた魂の奴を薦めるな!!」
美しい顔からの暴言が止まらない。チッと舌打ちする音まで皆に聞こえたと思う。
「テオ。俺があいつらから護るから心配するな。いつでも俺の名を呼んでいい。セーレは大切な友人だから、呼び捨てを許している。メイシアは──だから仕方がない。そこは納得して欲しい。テオ、どうかキリエと呼んで。お前に害なす者全てから護ると誓う」
低音ボイスの威嚇は、第一王子殿下だけを護りたいのが分かる。
第一王子殿下は、王国の為に尽力するキャラだった。正統派の王子様は不動の人気キャラで六花姉が好きだったことを思い出した。簡単に自己を犠牲にしてしまうメインヒーローらしく、国のためなら神子を選ぶ可能性がある。でも、キリエが反対するのなら、召喚された神子は第一王子殿下に相応しいとは思えない。
「──なぜだ?キリエ。お前のことは覚えていないのに。まるでキリエは私のことを知っているみたいに言う」
「テオは、いつも泣きそうだから。護るって決めている。早く俺が元に戻るように、魔力を合わせる練習もしよう」
輝くような笑顔は、第一王子殿下にだけ向けられた。気になって陛下の様子を見ると少しだけ口角が上がっていて、怒ってはなさそうだ。レライエの表情は見えないが、頬をピクピクしている神子と、眉間に皺が寄っている神官長の二人だけは怒っている様に思う。
「たかだか──魔導書が、王家のことに口を出さないで欲しいものですね。召喚された神子を支えるのは、王家の役目です」
神官長の発言にいち早く反応するのは、やはりこの人だ。
「一番、神子様と気が合いそうなのは、神官長様ではありませんか?貴方が支えて差し上げれば、ま~るく収まると思いませんか?神殿で神子に教えるのが難しいなら、王家の者でも無理かも知れませんからね」
メイシアは王家にも神殿の者にも、臆せず話している。神殿の批判も入れていて、不敬にならないか、セラフィーレの方が心臓がばくばくしてきた。それにもうそろそろ、この場に留まることが心配でもある。
「──メイシア。レイ……あの」
セラフィーレを抱えて立ち上がり、レライエが陛下に礼をとる。
「セーレは、このような場に慣れていませんので連れて行きます。浄化の件は、決まり次第連絡をお願いします。過剰な要求なら、お断りしますので期待はしないで下さい。そちらに魔導書守護者も神子様も神官長もいるのですから。能無しは、捨て置いて下さってかまいません。成人しましたので何時でも、王都から出ていけます」
もう一度礼をして、ディードとメイシアを見ると二人が頷いた。二人を連れてそのまま扉の方へ向かう。
「──レライエ。私は、お前を不要だとは思っていない」
「王太子殿下。言葉では、なんとでも……では、失礼いたします」
兄弟の溝の深さが、レライエの心の傷と重なっている様に思う。このままだとレライエが闇に飲まれてしまいそうで、キリエとも二人のことを話そうと思ったのだ。
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