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42キャパオーバー

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 ずっと離してくれず、身動きが取れない。
「あの……もう、そろそろ」
「──誰も失いたくない」
「あ……」
 また、抱きつく腕に力が入ってきて、レライエの体温と鼓動がより伝わって来る。抱きつかれたままで、当分離してくれそうもない。それだけ不安にさせたのだ。大切な推しを悲しませているのが、他でもないセラフィーレだと思うと、居た堪れない。なすがままに身を任せていたけど、そっと腕をレライエの背中に回して、落ちつかせようとトントンと優しく叩いてみる。

(おいて行かれたくなかったんだ。でも、こんなに心配させてしまうなら、大人しくすべきだったかも知れない。そう、分かっているのに……)

「レイ……これでも、僕は強いよ?」
「だとしても、異世界から呼び出した神子です。何か特別な力持っているかも知れません。魔導書を奪われたら、俺にはとしての力が何一つないんです。俺はセーレ様だけは絶対に、誰にも取られたくない」

 密着していた体に隙間が開いた。ちょっとだけ息苦しさもあったので、ふっと力が抜ける。背中に触れていた手も離した。

 心配そうな顔をするので、つい頬を挟むように触れると、その手にレライエの手が重ねられて、一気に体温があがる。駄目だ。心配してくれている表情さえ、いちいち格好いい。

 「ああああの──そんなに辛そうな顔、させてごめん」


(どうしよう。神子がレイに興味を持ったなら……仮の恋人になるほうが護れるかもしれない。一年は待ってって言ったのは僕だけど。でも、仮でも恋人なんて、どうしたら?)

「魔力が乱れたのは……第一王子のせいですか? 無理矢理何かされましたか?契約とか……」
「契約はレイだけだよ。なんか、僕がレイに酷いことされてないか心配していただけ。そんなのある訳ないのに。僕はレイの傍にいられて幸せなのに」

 指を掴まれ、指輪にレライエがキスを落とす。色気が増した最恐の十七歳だ。

「レイ……。そう言うのは……ちょっと早いです」
 ギクシャクと変な敬語になってしまう。

「顔が赤いです。セーレ様は、結構俺の顔好きですよね?」
「も、もういいから。とにかく結界を確認するね。神子は、僕じゃなくてきっと……レイとか、ディードを狙ってると思うから。そっちが心配」

 にこっと笑ったレライエが、ギュッとまた抱き締めてくる。

「──狙ったところで、関わることなど出来ませんから。召喚の儀式で、神官長も第一王子殿下も、他の者たちも、俺やディードを切ったのですから。彼らに興味などありません」

「でも、今は……レイたちが素敵になったから……んんっ?……ちょ、こら!」
 キスされそうになって、重ねてた指を離して、レライエの胸を押し返す。
「キスはいいのでしょう? そんな、嫉妬してますって可愛い顔をされたら、我慢するのは無理です。俺だって、第一王子殿下に嫉妬してますから。本当にキスとかされてませんよね?」

「嫉妬されるようなこと、してないよ。腕を掴まれたり、フードをずらされただけ」
「顔を、見られたのですね?」
「うん。覗き魔は、殿下みたいだった」
「やはり、そうなんですね」

 ものすごく、寒々しい声色で驚いた。
「レイ?」
 このままだと、レライエが悪役になりかねないのでは?と不安が過ぎる。

「第一王子殿下は、後ろ盾もあって王族としての教育も受けています。魔力も魔法も俺は、きっと敵わない。見た目も……殿下は人目をひくので」

「見た目?」
「好ましくないですか?」
「え、僕の好みかどうかってこと?」
「金髪で……美形だと皆いいますが」
「格好いいんだろうけど? 好みは違うよ。僕だったら、レ……」

 レライエと目が合った。本人を前に何を言うつもりだったんだと、とたんに顔が熱くなるのが分かる。

「僕だったら?」
「何でもない。もう、疲れたから……今日は魔導書に戻る。また明日、もう一度試そう」
 レライエから距離を一人分開けて、ウエストの帯剣ベルトを外す。魔導書を引っ張り出した所で、その行動をじっと見ていたレライエが距離を詰めてくる。

「口説くのに。距離を取らせるつもりは、ないです」
「おねがい!今日だけは、キャパオーバーだから……つまり、考える事が多過ぎだから、魔導書に戻らせて!」
「それでも、魔導書は抱きます」
「う、うん」
 ページを捲り、「お休みなさい」と小さく言うと、頬にキスをされて「お休みなさい。セーレ様」に撃沈した。









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