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35.ご褒美のキス

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 目の前にイケメンの顔があって、直視出来なくなってギュッと目を瞑った。フニッと柔らかいものが、セラフィーレの唇に触れている。

 本当にキスしている……?これは夢?伝わる温度としっとりとした感触に、感情が追いつかない。

 ご褒美……?誰の?何も考えられなくなりそうで、この体に心臓があるのか分からないけど、酷く脈うっているみたいだ。

 もう持たない、と思った時に唇が離れた。

 (終わり?良かった……)

 安心したのは、つかの間で後頭部を支えるかのように、レライエの手が添えられる。

「ちょっ……待って」

 眼前には、推しの鋭い眼光があって、既に食われる小動物のように動けない。

「レ……イ?」
「もう少しだけ、下さい」

 もう一度唇が重なって、何度も何度も食むように口付けてきた。
 (やばい。レイの魔力が体に入ってくるけど、これ多過ぎる。だめだ……無理。熱くて苦しい)

 ようやく実体化してみたのに、がくがくと震えて立てそうになかった。涙目になって、必死にしがみつき指に力を込める。

 少しレライエの腕に、爪がくい込んだと思う。それしか意思表示が出来なかったんだ。
 顔が離れて、指で涙を拭ってくれた後は、いつもの抱きかかえた状態でソファに腰掛けている。

 セラフィーレが落ち着くまで、待ってくれているみたいだが、こんな風にしたのはレライエ自身だ。

「──大丈夫ですか?」

「レイ……これ以上は、無理。魔力が多くて……苦しい、よ」
 息が切れて、言葉が上手く出てこない。

「慣れてないのですね」
 確かにそうだけど、なぜそんなに嬉しそうなのか分からない。

 とにかく、魔力を流されながらのキスは、体が変になるので、やめて貰う必要がある。

「えっと。馬車の中で魔力は十分もらったんだよ。結界に必要な分も。確かに接触するほうが多く渡せる見たいだけど、手繋ぎとかで大丈夫なんだからね。から苦しいよ。こう言うのは、大人になってからだよ」

「大人に……ですか?」
「僕は、見た目はこんなだけど、ずーーーと、守護者として存在してるから。レイよりずっと大人で歳上なんだよ」
「でも、慣れていない……のですよね?」

 確かにキスなんてしたことないけど、レライエよりは大人だ。まだ十七歳で成人していないのだから、に育てないといけない。ディードとセバスと一緒に護るべきだ。

「レイは、まだ成人祝賀会してないよね?その時のパートナーになる為に、実体化を取れるようにしている訳で。後一年でダンスとか……いろいろ特訓して、レイの隣にいても可笑しくにようにする予定だった……」

 思わず、口をつぐんだ。

「セーレ様?」
「もしかしたら、僕がパートナーになるのは、相手がいない時の最悪の場合がいいのかな? ほら、レイのダンスの相手メグとかの方が良くない?強くて美人でダンスは完璧だし。覗き魔にもレイは、覗かれて狙われている可能性がある。僕は防御に徹底した方がいいよね?」

 とても名案のように思えて、最後は笑顔で答えていると、レライエの様子がおかしい。何だか気まずい。言ってはいけなかったのか? とセラフィーレは戸惑う。

 ここに転生する時、ナキア様とした会話がある。二つの願い事は、推しの傍にいて彼を護る事と、残してきた家族の幸せだった。
『──そっか。恋人じゃなくてもいい訳だ』そう、あの時のナキア様が言ったのだ、恋人じゃなくてもいいと、だから僕は人に転生しなかったと思っている。

 魔導書になってずっと、レライエの傍にいることの出来る存在になれた。それは本当に嬉しい。ただセラフィーレは、例え実体化しても、恋人になることは始めから選択肢にない。

 セラフィーレはだ。このまま姿が変わらない存在だから。例え、一時的に好意を持ってくれたとしても、それはきっと叶うはずがない想いだ。外見は成長せず、置いていかれるだろう。レライエも神子も皆成長して行く。

 ──恋は、はしかのようなもの。
 誰もが若い時に一度は経験するものだって。レライエの相手は、人外のセラフィーレでは駄目なのだ。

「レイの味方でいる。だけど、キスは好きな人とした方がいいよ。僕は、人にはなれないから」


 そう言いながら、胸が痛いのは、息継ぎが上手く出来なかったキスのせいかも知れないと思った。
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