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 メグがランチバスケットを持って、ディが敷物などを抱えている。セバスは、別邸を護っておきます、と笑って見送ってくれた。

 セラフィーレは、レライエに手を引かれて地面を踏みしめる。目的の湖近くに着くと、ディとメグがお昼のセッティングしてくれている。セラフィーレは、周りをキョロキョロすると一度祈るように指を組んだ。

『お願い。今日は邪魔しないで』
 結界の魔法を乗せて二百メートルくらいに正立方体のイメージを造る。自然とここを避けてくれる様に祈りを込めた。
 レライエが不安そうに見るから、大丈夫だよって伝えた。
 そっと手を離して一歩距離を取る。ゆっくり、もう一歩離れた。レライエがずっと心配そうにこちらを見ている。セラフィーレの本体である魔導書は、レライエの帯剣ベルトの中だ。怖いけど、もう一歩離れてジャンプをする。

「足……大丈夫みたい。走る?あ、スキップってどうやるんだろう?」

 想像してみてもよく分からない、片足立ちをしてぴょんと飛ぶ。交互にぴょんと飛ぶ。なんか動きが違う。でも、楽しい。レライエがいる方とは別の方を向いて、ぴょん、ぴょんしながら、離れても大丈夫そうで、走りだしてみた。きっと、ものすごく遅いスピードだと思う。でも、杖に支えてもらうことも、誰かに補助してもらわなくてもいいのだ。



 必死に両手を、友人達がしていたイメージで動かして反動を付けてみた。体育のリレーや徒競走を思い出す。
 息が切れてきた。苦しいし、体が重い。運動なんてした事の無い体が、どんどん重くなって来た。

「苦し……はぁ」
 足がもつれそうになって、転けそうになった時に抱き止められる。
「セーレ様」
「あ、ふふ。レイ!走ったよ。すっごく遅いと思う。でも、走れた……はぁ。苦し」
「大丈夫ですか?いきなりは駄目なのに」
 すでに抱きかかえられている。それでもいい。気持ち悪くもなくて足先も消えていない。

「遅くても、走れてたよね? 体力をつけたら、ダンス出来るかな?レイ。レイ……ありがとう」
 泣きそうになって、レライエに抱きついた。

「セーレ様?」
「僕の夢を叶えてくれてありがとう。レイ、大好きだよ」

 レライエは憧れて来た一番の推しキャラだから。この世界で一番好きな人だ。

 縦抱きにされて、抱えられていたまま首元に抱きついたので、レライエの顔は見ていない。ただ、ギュッ抱き締め返された。それがすごく嬉しくて、また泣きそうになる。
 今度はレライエの為に、出来る事をしたい。

「セーレ様。まだ、体に不慣れなのですから、無理は駄目です。そうだ、今度は俺がセーレ様のマッサージをしましょうか? 筋力アップもですが、怪我をしないように準備運動もしましょう」

「そうだね。魔力のコントロールと実体化した体をメンテナンスするのも良いよね。でも、メグに頼んでもいいよ?」

「駄目です。俺のパートナーですから」
「そっか。レイが無理じゃなければ。じゃあ、よろしくね。呼吸も落ち着いたから、歩いて戻っていい?心配なら、手繋いでてもいいから、ね?もう少し歩きたい」

 レライエの表情は、傍から見たら怒っているように見えるかも知れない。でも、これはセラフィーレが心配で仕方がないって時の顔だ。

「レイ……お願い」
 また、グイッと抱き寄せられて、ため息が聞こえた。

「手は握ったままです」
「ありがとう!」

 もう一度首元に抱きつくと、レライエの耳が赤いようにも見える。

「レイ?大丈夫?疲れてる?」
「──大丈夫です」
「じゃあ、二人の所に行こう」

 湖を背にして、二人の方へ行こうとした時、バシャーーンと大きく水音がした。慌てて振り向くと、何もない。ただ水面が大きく波打っている。

「何?」
 ディードとメグが走りこちらにやって来る。
「セーレ様は、俺の後ろに」
「駄目。魔導書と繋がるから……姿はレイだけに。ディとメグはレイを最優先にして」
「分かりました」
「セーレ様に従いますわ」
「ディ、メグ。セーレ様が最優先だ」


 こんな、主人公がいないところでイベントが、発生するとは思わなかった。
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