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51二冊目の魔導書②

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 見た目だけ天使の少年は、セラフィーレの前に来て笑顔を見せる。膝を突き視線を合わせた所で、コツンと二人が額を合わせると、周りが少しざわつき始めた。気にせずにお互いの魔力を共有し終わると、二人が顔を離して笑いあう。

「セーレは……救われたのか?」
 救われたか? 召喚の時のことを言ってるのだろうか?魔導書の中にあるセラフィーレの記憶がキリエの記憶と重なり呼び起こされていく。
「キリエだ……でも小さくなってる。可愛い」

 セラフィーレの記憶の中にある背の高い青年が浮かんできた。ディードよりも背が高く魔法師よりは魔法騎士のような人だ。パワーの違いから軍神並みに強かった彼に、何があったのか今の時点では分からない。ただセラフィーレとは、兄弟のような関係だったと思う。
「キリエこそ、何があったの?は、しばらく誰にも触れられたくないって……」

キリエの抱えている魔導書は、キリエの灰銀色で現在所有者が存在しないことを意味する。

 そうだ、いつも魔法師所有者は先に逝ってしまうから、キリエの大切な人もこの世界に居なくなったのだ。きっとセラフィーレ自身も、出会いと別れを繰り返してきた。

 ──救われたのか?は、きっとそう言う意味だと理解する。
 キリエとの魔力の共有の感覚が、セラフィーレが何者なのか?と記憶の欠片を織り込んでいくようだった。
 転生したというよりも戻ってきたみたいな、不思議な感覚に包まれていく。

「今はとても幸せなんだよ。出来なかったことも、助けられて出来るようになったから」
 セラフィーレが大切に護って来た存在が、成長して支えてくれようとしている。隠すことのない真っ直ぐな想いが、嬉しくない訳がない。その手を握っていていいのかと言う葛藤が芽生え始めている。

(ただでさえ推しなのに)

「セーレ様。その子はいったい?」
 ディードに聞かれて、我に返った。この世界に来たのは、星七の思いが強く影響している。でも、セラフィーレには魔導書の守護者としての長年の記憶が残っていた。忘れていたのか、忘れさせられたのか?守護者同士、知り合いだったことさえ覚えていないなんて──


「この世界にある……魔導書グリモアール守護者ガーディアンの一人でキリエです」

「本当に? 翼竜でしたよね? 人にもなれるのですか?この子が守護者なんですか?」
「ディ、驚くよね。僕自身も知り合いだったことを思い出したばかりだよ」
「竜人族の子供になるのかしら? 精霊に近い……?だから魔導書の守護者に選ばれた?」

 メグは元々のキリエの姿を知らない。セラフィーレが知っているキリエは肉体派美形だ。いつキリエが選ばれたのか、どうして子供の姿なのか?セラフィーレも自分自身が、守護者になった経緯は思い出せない。

 神の采配。
    全部、【女神ヴィオラの厄災】のせいかも知れない。
 神子が召喚されるための必要悪であるが、実際にこの世界は女神ヴィオラのせいで人々が厄災に巻き込まれていく。リアルな世界に彼らは存在していて、イレギュラーは星七だ。

「セーレ。この子は神子と契約は可能なのか?」
 レライエの言葉に、セラフィーレが戸惑う。キリエは竜人族の血統だから、清廉潔白の魔法師が好きなはずだ。神子の魔力の質からいくと契約はかなり難しいと思ってしまう。

 (押し付ける訳にはいかない)
 首を横に振る。

「そうか……他にいないのか?神子と契約をしてくれそうな守護者は?」
「神子が、?ヴィオラの厄災は一体何度繰り返すんだ?」

 ゲームの世界なのだと、女神の箱庭の中にいるようなものだと言っても仕方がないけれど。

「──もう、繰り返すことがなくなるといいね」

 そう、本心が漏れていく。

「レイ……キリエがここに来たのなら、僕が神子の所に行くよ。浄化を手伝った後に、戻ってくるから。浄化が必要があるんだ。キリエは、出来れば……レイ以外のこの中の誰かと契約出来る?皆を護って欲しいんだ」

 レライエと契約するのは、セラフィーレだけがいい。その気持ちだけは譲りたくない。

【女神の厄災】を終わらせれば、ここにいる皆が生きている間は幸せになる。神子の所に行ってみよう。可能なら繰り返さないように、終わらることが出来ないか探ってみる。

 セラフィーレの体が、神子の魔力に数年なら持つだろう。レライエの顔を見ることが出来ずに、メグの方を見て笑顔を作った。



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