上 下
52 / 76

51二冊目の魔導書②

しおりを挟む
 見た目だけ天使の少年は、セラフィーレの前に来て笑顔を見せる。膝を突き視線を合わせた所で、コツンと二人が額を合わせると、周りが少しざわつき始めた。気にせずにお互いの魔力を共有し終わると、二人が顔を離して笑いあう。

「セーレは……救われたのか?」
 救われたか? 召喚の時のことを言ってるのだろうか?魔導書の中にあるセラフィーレの記憶がキリエの記憶と重なり呼び起こされていく。
「キリエだ……でも小さくなってる。可愛い」

 セラフィーレの記憶の中にある背の高い青年が浮かんできた。ディードよりも背が高く魔法師よりは魔法騎士のような人だ。パワーの違いから軍神並みに強かった彼に、何があったのか今の時点では分からない。ただセラフィーレとは、兄弟のような関係だったと思う。
「キリエこそ、何があったの?は、しばらく誰にも触れられたくないって……」

キリエの抱えている魔導書は、キリエの灰銀色で現在所有者が存在しないことを意味する。

 そうだ、いつも魔法師所有者は先に逝ってしまうから、キリエの大切な人もこの世界に居なくなったのだ。きっとセラフィーレ自身も、出会いと別れを繰り返してきた。

 ──救われたのか?は、きっとそう言う意味だと理解する。
 キリエとの魔力の共有の感覚が、セラフィーレが何者なのか?と記憶の欠片を織り込んでいくようだった。
 転生したというよりも戻ってきたみたいな、不思議な感覚に包まれていく。

「今はとても幸せなんだよ。出来なかったことも、助けられて出来るようになったから」
 セラフィーレが大切に護って来た存在が、成長して支えてくれようとしている。隠すことのない真っ直ぐな想いが、嬉しくない訳がない。その手を握っていていいのかと言う葛藤が芽生え始めている。

(ただでさえ推しなのに)

「セーレ様。その子はいったい?」
 ディードに聞かれて、我に返った。この世界に来たのは、星七の思いが強く影響している。でも、セラフィーレには魔導書の守護者としての長年の記憶が残っていた。忘れていたのか、忘れさせられたのか?守護者同士、知り合いだったことさえ覚えていないなんて──


「この世界にある……魔導書グリモアール守護者ガーディアンの一人でキリエです」

「本当に? 翼竜でしたよね? 人にもなれるのですか?この子が守護者なんですか?」
「ディ、驚くよね。僕自身も知り合いだったことを思い出したばかりだよ」
「竜人族の子供になるのかしら? 精霊に近い……?だから魔導書の守護者に選ばれた?」

 メグは元々のキリエの姿を知らない。セラフィーレが知っているキリエは肉体派美形だ。いつキリエが選ばれたのか、どうして子供の姿なのか?セラフィーレも自分自身が、守護者になった経緯は思い出せない。

 神の采配。
    全部、【女神ヴィオラの厄災】のせいかも知れない。
 神子が召喚されるための必要悪であるが、実際にこの世界は女神ヴィオラのせいで人々が厄災に巻き込まれていく。リアルな世界に彼らは存在していて、イレギュラーは星七だ。

「セーレ。この子は神子と契約は可能なのか?」
 レライエの言葉に、セラフィーレが戸惑う。キリエは竜人族の血統だから、清廉潔白の魔法師が好きなはずだ。神子の魔力の質からいくと契約はかなり難しいと思ってしまう。

 (押し付ける訳にはいかない)
 首を横に振る。

「そうか……他にいないのか?神子と契約をしてくれそうな守護者は?」
「神子が、?ヴィオラの厄災は一体何度繰り返すんだ?」

 ゲームの世界なのだと、女神の箱庭の中にいるようなものだと言っても仕方がないけれど。

「──もう、繰り返すことがなくなるといいね」

 そう、本心が漏れていく。

「レイ……キリエがここに来たのなら、僕が神子の所に行くよ。浄化を手伝った後に、戻ってくるから。浄化が必要があるんだ。キリエは、出来れば……レイ以外のこの中の誰かと契約出来る?皆を護って欲しいんだ」

 レライエと契約するのは、セラフィーレだけがいい。その気持ちだけは譲りたくない。

【女神の厄災】を終わらせれば、ここにいる皆が生きている間は幸せになる。神子の所に行ってみよう。可能なら繰り返さないように、終わらることが出来ないか探ってみる。

 セラフィーレの体が、神子の魔力に数年なら持つだろう。レライエの顔を見ることが出来ずに、メグの方を見て笑顔を作った。



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

末っ子王子は婚約者の愛を信じられない。

めちゅう
BL
 末っ子王子のフランは兄であるカイゼンとその伴侶であるトーマの結婚式で涙を流すトーマ付きの騎士アズランを目にする。密かに慕っていたアズランがトーマに失恋したと思いー。 お読みくださりありがとうございます。

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

婚約破棄を傍観していた令息は、部外者なのにキーパーソンでした

Cleyera
BL
貴族学院の交流の場である大広間で、一人の女子生徒を囲む四人の男子生徒たち その中に第一王子が含まれていることが周囲を不安にさせ、王子の婚約者である令嬢は「その娼婦を側に置くことをおやめ下さい!」と訴える……ところを見ていた傍観者の話 :注意: 作者は素人です 傍観者視点の話 人(?)×人 安心安全の全年齢!だよ(´∀`*)

処理中です...