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16二人の習慣②

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 体を鍛えたことで、レライエの魔力も安定してきた。
 魔力過多になって、体内に魔力が溜まることもなくなっている。
 レライエの成長とともに、セラフィーレも魔導書から一歩離れても、姿が安定してきた。そんなに長くは保てないけれど、二人で並び姿見で確認すると、身長が軽く越されている。

「レイ……大きくなったね。ベッド狭くないかな? 夜は魔導書にもど……」
「ベッドを大きくしましょうか?」
「えっ、もったいなくない?」
「そうですね。くっ付いて寝れば大丈夫ですね」

「──そうかな?」
「セーレ様は寝相悪くないしね」

「そう、だね」
「じゃあ。いつも通りで。だめ?」

「だ、駄目ではないけど」
 (まあ、姿は他の人に見えないものね)

 今のところ姿を認識してくれているのは、レライエだけだ。声は、意識をして魔力を重ねて話すことで、ディードに伝えることができている。
 契約関係であるレライエにしか、セラフィーレの姿は見えないようだ。

「姿もディードになら見せたいな。契約は出来ないから、今のところ無理みたいだね。ちょっと残念」
 と話したら何故かレライエが、ショックを受けていた。つい可愛い弟分の髪を、くしゃりと指でかき乱すと、その手を自然と取られてしまう。

 朝のルーティンは、手を繋いで魔力循環をさせる。それから手の平に大気中の水を集め小さな球体を作り浮かす。大きさを変える。細かい粒から霧へ。生活に馴染みやすいものから自在に扱えることは大切だ。
 何より、水があれば生き延びる可能性が出来るのだ。理不尽に虐げられて、諦め絶望していったレライエの顔が脳裏に浮かぶ。
 もしも逃げなければならない時が来るとしたら。全てを敵にしてでも君を護る盾になりたい。それが魔導書グリモアールとして彼の傍に転生した理由だから。

 目の前で水をコントロールする姿は、無邪気な少年そのものだ。
 初めて魔法を習得した時の笑顔は忘れられない。何度失敗しても、諦めずに挑むので、二回目三回目と試す度に成功率が上がっていく。負けず嫌いのせいか、水魔法の習得は目覚ましかった。

「レイは、上達が早いね」

 途端に笑顔になって、魔導書のところに座っているセラフィーレの上半身にレライエは抱きついてきた。
 本の中にいる時に抱き締められても体温は感じないが、直接だとレイの少し高い体温が伝わって来る。

「セーレ様の説明も分かりやすいです。魔力循環は本当に気持ちが良いんです。セーレ様の心に触れてるみたいで、温かくて穏やかな気持ちになって。頭の中がクリアになっていくんです。本当にずっと触れていたい……です」

 そっと手を伸ばし背中をポンポンとたたく。
「きっと、魔力の相性が良いんだよね」
「──そうですね」
 照れくさそうな顔は、推しからのご褒美である。

「僕も嬉しい」

「う。いや、あの。他の魔法の基礎も練習します」
「うん、基礎は確実にこなして。魔導書の方の魔法も初級は完壁になったから。中級も安定させていこう」
「はい」




◇◇◇




 もうすぐ三年経つので、ゲームがスタートすると思う。本来の召喚の儀式は、この時期に行われるはずだった。

 何らかの理由で、早く召喚された為に神子は能力が低くかったのだ。結局、神殿預かりで神官長が後継人になっている。第一王子のテオドール殿下とは、交流しているみたいで訓練や、この国の常識やら教わっているらしい。セラフィーレの魔法で、守られている離宮は悪意のある者は近づけない。魔法で作った地下空間での、剣や魔法の訓練によってレライエは逞しく成長している。

 持ち主……契約者の色に染まるのが、魔導書グリモアール守護者ガーディアンなのは確かで、神子は黒髪黒目の外見からすれば闇色、深い黒色になるのは当たり前だ。

 でも……とセラフィーレは考える。
「本当に、嫌な感じなんだよね、あの子の魔力」


 別に神子を不幸にする気持ちは全くない。浄化もラスボスを倒すのも、そちらのチームで頑張ってくれたらいいのだ。セラフィーレがしたいのは、悪役王子になるしかなかったレライエが、神子たちと対立せずに幸せになることだけ。

 お互いのために距離を取って、平和に暮らせたらいいし、逆恨みで子供を虐待してくる王妃の攻撃を防ぐだけでいい。どうせ、第一王子が王太子になるのだから王位継承権も必要ない。

(そうは言っても、息子が可愛くて敵視してくるからなあ。うーん。無害を伝えるのは簡単じゃないな)



   時々、間者が見に来るけど……ディードにも関わらないようにと言っている。変にディードが目をつけられても、レライエが悲しむだけだ。大人しくしている姿を認識させておけばいいだけ。

 食事以外のお茶の時も毒見をするのだが、今日もまたレイの膝の上に横座りしている。

「立った状態で、パクっとするだけでいいと思うんだけど」
「行儀が悪いし、スプーンでひと匙なら、この位置が簡単です」

「いや、ちょっと誰かに」
「他人とは契約してないなら、認識されませんよね?」

「──そうですね」

 途方に暮れてしまいそう。

 (推しに世話をされるより、世話をしたいのに)

「はいどうぞ」

 口を開けると、セラフィーレ好みのお茶をスプーンからもらう。

 ちょっとだけ、口の周りに零れたお茶をレライエに指で拭われ、その指をペロリと舐めるので……ドキドキしたのは内緒にしている。




 



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