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1巻き込まれ転生・星七

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 生きてる?星七せなは、腕や掌を見つめると火傷一つ負ってないことに気がついた。あれ程の火事で、怪我一つないのなら……火事が夢だったか、すでに死後の世界にいるのか、どちらなのかと周りを確認する。

 真っ白な世界で、綺麗な純白の長い髪が揺れた。自分より歳下にも見えるけれど、纏う雰囲気はずっと年上に感じてしまう。小説で言うならば、エルフのようにも見えた。目が合った途端、年齢不詳の美少年が笑った。

『厄介なのに巻き込まれたね』
「厄介……?巻き込まれた?」

 よく覚えていないが、避難途中に誰かに杖を蹴飛ばされて……逃げ遅れたのは確かだ。もしかしたら、この足じゃなければ逃げられたかも知れない。

 でもそんなことは、死んだ今考えてもどうにもならない。生まれつきなのだから、誰も責められない。

 足のことを責めたりしたら、傷つくのは母親だけだ。ここまで、大切に育ててもらった恩しかないのに。

 仮に死後の世界だとしたら、エルフではなく神さまかも知れない。

 その疑問が聞こえたのか、神様(仮)が優しく微笑んだ。

『君はに巻き込まれたんだよ。彼の一つ目の願いはね、君の世界に転生することだった。残念だけど、色々とみたいだね。前回の彼は、今の君と同じで事故に巻き込まれて死んだんだよ。巻き込まれた場合は、二つの願いを叶えるのが通例なんだ』

 いったん言葉を切った後、失敗した彼の、二つ目の願いを教えてくれた。

『もしも転生を失敗した時は、別の世界でやり直しするのを叶えて欲しいってね』

 神様は、そのまま星七せなの言葉待たず、独り言のように説明をしてきた。

『彼も必死だったんだけどねぇ。強欲は身を滅ぼすよね。だって、彼だけの意思で世界は成り立たないから。それに願いを叶える存在は、じゃないからね』
 
 そしてコホンっとわざとらしく咳をするので、自然と神さまの顔を注視した。

『だから……巻き込まれた君にも、平等に二つの願いを叶えてあげる』

「願い……?」
(二つも?何でも良いのかな?)

『何でもいいよ。彼の言ってたような好きなゲームとかラノベとか言う世界に送ろうか? そこで君もになる?失敗した時の為にもう一回願い事をキ一プする?悪いけど、さらに何度もやり直すとかは駄目だよ』

 願いを叶えると言う割に……蔑んでいるように星七は感じてしまう。まるで、とても嫌なことをしなければいけないみたいに。

 本当に死後の世界かは分からないけど、願うくらいは良いのかな?異世界転生が本当にあるのなら……。魔法が使えたら、自由に動けるかもしれない。それに可能なら……行ってみたい世界がある。そう思って言葉にした。

「好きな異世界ゲームがあります。大好きな彼を助けて護りたいので彼の傍で、一緒に生きていける存在になりたいです」

『ふ~ん。恋人ってこと?』

 恋人と聞いて、首を振った。
 最初は姉に頼まれて、手伝っていたBLゲームだった。いつのまにか不遇な彼が、最推しのキャラになっていた。
 応援も手助けもしたい、でも恋人になるのは別問題。なんせ、リアルで恋人が出来たことも、片恋さえ経験のない星七には、恋愛が今一つ分からない。

『そっか。恋人じゃなくてもいい訳だ。じゃあ、もう一つは何?』
 何も言わなくてもお見通しみたいで、BLを理解してるのか分からないけど、男のくせにとか言われなくて良かった。

 願い事がもう一つ叶うとしたら……。
  星七せなは一度目を閉じて考えてから、ゆっくりと顔を上げて、神様をしっかりと見る。

「僕が死んだ後の世界で、家族……母さんと六花ゆき姉さんが悲しまず幸せになることです」

 音もなく傍に来た神様が、ふっと笑った。

『──いいよ。ちょっと……たし、……ね。そうだ、君に私の名を教えてあげる。ナキアだ。それから』
 少し聞きづらかったけど、名前だけは分かった。好きなゲームの世界であの条件が許されるのなら、全力で彼を護って良いのだと、星七は自然と笑顔になる。
 ──だって僕は、不遇な彼に幸せになって欲しい。諦めるなんてできない。


「ナキア様。ありがとう」
「それから……アレが」

 急に世界が白く輝いた。神様の説明中に……何かに引っ張られてしまい、意識が消えていった。


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