15 / 61
14レライエの覚悟
しおりを挟む
レライエにとってこの数日は現実味がなかった。
「神殿に行くように」
陛下の命令には逆らえない。この世界で度々繰り返されてしまう【女神ヴィオラの厄災】それを食い止める為に、異世界から召喚する黒髪の神子の存在。
クロスウェル王国の一大事であり、未来への希望が召喚の儀式だ。
陛下なりの第二王子への配慮だったが、邪険に扱われることが当たり前のレライエは、蔑まれることを覚悟する。
それでも召喚の儀式は見てみたい。
神官長は純白に銀糸で刺繍された式典服を纏い、それに準じて神官達や魔法師達まで隣国の使者を迎えるかのごく正装で配置についている。第一王子である義兄の周りには近衛の精鋭が配置された。神子ではなかった場合、異世界からの異物を即座に抹殺しなければならないからだ。
ただならぬ緊張感の中、詠唱が始まった。繊細に描かれた魔法陣が淡く光り始める。魔法師達がショート杖を片手で構え、うち二人はロング杖だ。水が溝を流れていくかのようにはっきりと魔法陣が浮かび上がり、ドンと何かが落ちたような音が響き白く霧が充満したように視界が塞がれた。
この先召喚など見ることなんて叶わない。あってはならない儀式は、ここに居る関係者にとっても生涯でただ一度だけの機会だった。成功しなければならない。
初めて目にした黒髪と黒目の少年。服装もこの世界のものとは違う。神子を見て歓喜の声があがる。伝承通り異世界があるのだと、レライエは感極まってしまう。
「すごい。魔法で本当に召喚したんだ」
ただ、何か異質な空気だった。
穢れをまとったような黒い塊。でも、呼ばれているような感覚に、守らなければと手に取った。
卑しいと言われても、これだけは守りたい。誰にも奪われたくない。
そのうえ第一王子付き近衛騎士のディード・メリオルが、殿下と神子の間に入った為に左遷されレライエ付きになってしまった。神子にも蔑まれる第二王子付きは不名誉なはずなのに、騎士の礼と共に忠誠を誓われレライエは混乱の中にいる。
混乱する中、不思議なことに近くで心地よい声が聞こえてくる。
その声の主魔導書守護者であるセーレと契約が成立した。
王妃や神官長が、ずっとをレライエを監視しているはずだ。無能と呼ばれ息を潜めるしかなかったけれど、それでもセーレが魔法で隠してくれるのなら諦めていた剣も魔法も習える。
「いつも嫌な事ばかり起きるのに、こんなことってあるんだ」
それが、召喚の儀の後にセーレとディードを得た、レライエの正直な感想である。
魔導書守護者……本当に綺麗だった。
目に焼き付いて離れない美しい銀糸の髪、紫の瞳のセーレ様。色白の肌から……見えてしまった淡く染まる胸先。
それを何度も思い出して、レライエは頭を抱えこんでしまう。
「全部セーレ様が、綺麗すぎるのが悪い。あんなに無防備だと誰かに襲われてしまう」
そのセーレが自分の魔力に反応して、濃紺の瞳や髪色に染った。一時的だとしても、レライエの半身であるかのようだった。この気持ちは何なんだろう。
「──誰にも渡したくない。もう、何も奪われたくない」
頭のなかで分かっているのだ。精霊のような存在。触れ合うのは本を通さないと出来ない。それでも、セーレを独り占めしたいのだ。その感情の意味をまだレライエは知らない。
「大切な人たちを護るためには、自分が強くならないと駄目だ。魔法の練習が慣れてきたら剣をディードから習えないか聞いてみよう」
私を選んでくれたセーレに誓う。
護られてばかりにはなりません。必ず、貴方を護れるくらい強くなります。誰にも奪われたりしない。だから、ずっと傍にいて下さい。
レライエはセーレに褒められたくて、剣も魔法も勉強も全力で取り組んでいく。些細なことでもセーレが全力で褒めてくれるからだ。
華奢な手で頭を撫でてくれるのも、抱きしめてくれるのも全部自分だけであって欲しい。そう願いながら、レライエは魔法を呟いた。
「神殿に行くように」
陛下の命令には逆らえない。この世界で度々繰り返されてしまう【女神ヴィオラの厄災】それを食い止める為に、異世界から召喚する黒髪の神子の存在。
クロスウェル王国の一大事であり、未来への希望が召喚の儀式だ。
陛下なりの第二王子への配慮だったが、邪険に扱われることが当たり前のレライエは、蔑まれることを覚悟する。
それでも召喚の儀式は見てみたい。
神官長は純白に銀糸で刺繍された式典服を纏い、それに準じて神官達や魔法師達まで隣国の使者を迎えるかのごく正装で配置についている。第一王子である義兄の周りには近衛の精鋭が配置された。神子ではなかった場合、異世界からの異物を即座に抹殺しなければならないからだ。
ただならぬ緊張感の中、詠唱が始まった。繊細に描かれた魔法陣が淡く光り始める。魔法師達がショート杖を片手で構え、うち二人はロング杖だ。水が溝を流れていくかのようにはっきりと魔法陣が浮かび上がり、ドンと何かが落ちたような音が響き白く霧が充満したように視界が塞がれた。
この先召喚など見ることなんて叶わない。あってはならない儀式は、ここに居る関係者にとっても生涯でただ一度だけの機会だった。成功しなければならない。
初めて目にした黒髪と黒目の少年。服装もこの世界のものとは違う。神子を見て歓喜の声があがる。伝承通り異世界があるのだと、レライエは感極まってしまう。
「すごい。魔法で本当に召喚したんだ」
ただ、何か異質な空気だった。
穢れをまとったような黒い塊。でも、呼ばれているような感覚に、守らなければと手に取った。
卑しいと言われても、これだけは守りたい。誰にも奪われたくない。
そのうえ第一王子付き近衛騎士のディード・メリオルが、殿下と神子の間に入った為に左遷されレライエ付きになってしまった。神子にも蔑まれる第二王子付きは不名誉なはずなのに、騎士の礼と共に忠誠を誓われレライエは混乱の中にいる。
混乱する中、不思議なことに近くで心地よい声が聞こえてくる。
その声の主魔導書守護者であるセーレと契約が成立した。
王妃や神官長が、ずっとをレライエを監視しているはずだ。無能と呼ばれ息を潜めるしかなかったけれど、それでもセーレが魔法で隠してくれるのなら諦めていた剣も魔法も習える。
「いつも嫌な事ばかり起きるのに、こんなことってあるんだ」
それが、召喚の儀の後にセーレとディードを得た、レライエの正直な感想である。
魔導書守護者……本当に綺麗だった。
目に焼き付いて離れない美しい銀糸の髪、紫の瞳のセーレ様。色白の肌から……見えてしまった淡く染まる胸先。
それを何度も思い出して、レライエは頭を抱えこんでしまう。
「全部セーレ様が、綺麗すぎるのが悪い。あんなに無防備だと誰かに襲われてしまう」
そのセーレが自分の魔力に反応して、濃紺の瞳や髪色に染った。一時的だとしても、レライエの半身であるかのようだった。この気持ちは何なんだろう。
「──誰にも渡したくない。もう、何も奪われたくない」
頭のなかで分かっているのだ。精霊のような存在。触れ合うのは本を通さないと出来ない。それでも、セーレを独り占めしたいのだ。その感情の意味をまだレライエは知らない。
「大切な人たちを護るためには、自分が強くならないと駄目だ。魔法の練習が慣れてきたら剣をディードから習えないか聞いてみよう」
私を選んでくれたセーレに誓う。
護られてばかりにはなりません。必ず、貴方を護れるくらい強くなります。誰にも奪われたりしない。だから、ずっと傍にいて下さい。
レライエはセーレに褒められたくて、剣も魔法も勉強も全力で取り組んでいく。些細なことでもセーレが全力で褒めてくれるからだ。
華奢な手で頭を撫でてくれるのも、抱きしめてくれるのも全部自分だけであって欲しい。そう願いながら、レライエは魔法を呟いた。
432
お気に入りに追加
889
あなたにおすすめの小説
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~
狼蝶
BL
――『恥を知れ!』
婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。
小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。
おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。
「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい!
そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる