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14レライエの覚悟

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 レライエにとってこの数日は現実味がなかった。

 「神殿に行くように」
 陛下の命令には逆らえない。この世界で度々繰り返されてしまう【女神ヴィオラの厄災】それを食い止める為に、異世界から召喚する黒髪の神子の存在。

 クロスウェル王国の一大事であり、未来への希望が召喚の儀式だ。
 陛下なりの第二王子への配慮だったが、邪険に扱われることが当たり前のレライエは、蔑まれることを覚悟する。

 それでも召喚の儀式は見てみたい。
 神官長は純白に銀糸で刺繍された式典服を纏い、それに準じて神官達や魔法師達まで隣国の使者を迎えるかのごく正装で配置についている。第一王子である義兄の周りには近衛の精鋭が配置された。神子ではなかった場合、異世界からのを即座に抹殺しなければならないからだ。

 ただならぬ緊張感の中、詠唱が始まった。繊細に描かれた魔法陣が淡く光り始める。魔法師達がショート杖ワンドを片手で構え、うち二人はロング杖ロッドだ。水が溝を流れていくかのようにはっきりと魔法陣が浮かび上がり、ドンと何かが落ちたような音が響き白く霧が充満したように視界が塞がれた。


 この先召喚など見ることなんて叶わない。あってはならない儀式は、ここに居る関係者にとっても生涯でただ一度だけの機会だった。成功しなければならない。

 初めて目にした黒髪と黒目の少年。服装もこの世界のものとは違う。神子を見て歓喜の声があがる。伝承通り異世界があるのだと、レライエは感極まってしまう。

「すごい。魔法で本当に召喚したんだ」

 ただ、何か異質な空気だった。
けがれをまとったような黒い塊。でも、呼ばれているような感覚に、守らなければと手に取った。

 卑しいと言われても、これだけは守りたい。誰にも奪われたくない。

 そのうえ第一王子付き近衛騎士のディード・メリオルが、殿下と神子の間に入った為に左遷されレライエ付きになってしまった。神子にも蔑まれる第二王子付きは不名誉なはずなのに、騎士の礼と共に忠誠を誓われレライエは混乱の中にいる。

 混乱する中、不思議なことに近くで心地よい声が聞こえてくる。
 その声の主魔導書グリモアール守護者ガーディアンであるセーレと契約が成立した。

 王妃や神官長が、ずっとをレライエを監視しているはずだ。無能と呼ばれ息を潜めるしかなかったけれど、それでもセーレが魔法で隠してくれるのなら諦めていた剣も魔法も習える。

「いつも嫌な事ばかり起きるのに、こんなことってあるんだ」
 それが、召喚の儀の後にセーレとディードを得た、レライエの正直な感想である。

 魔導書グリモアール守護者ガーディアン……本当に綺麗だった。
 目に焼き付いて離れない美しい銀糸の髪、紫の瞳のセーレ様。色白の肌から……見えてしまった淡く染まる胸先。

 それを思い出して、レライエは頭を抱えこんでしまう。
「全部セーレ様が、綺麗すぎるのが悪い。あんなに無防備だと誰かに襲われてしまう」

 そのセーレが自分の魔力に反応して、濃紺の瞳や髪色に染った。一時的だとしても、レライエの半身であるかのようだった。この気持ちは何なんだろう。

「──誰にも渡したくない。もう、何も奪われたくない」
 頭のなかで分かっているのだ。精霊のような存在。触れ合うのは本を通さないと出来ない。それでも、セーレを独り占めしたいのだ。その感情の意味をまだレライエは知らない。

「大切な人たちを護るためには、自分が強くならないと駄目だ。魔法の練習が慣れてきたら剣をディードから習えないか聞いてみよう」


 私を選んでくれたセーレに誓う。
 護られてばかりにはなりません。必ず、貴方を護れるくらい強くなります。誰にも奪われたりしない。だから、ずっと傍にいて下さい。

   レライエはセーレに褒められたくて、剣も魔法も勉強も全力で取り組んでいく。些細なことでもセーレが全力で褒めてくれるからだ。
 華奢な手で頭を撫でてくれるのも、抱きしめてくれるのも全部自分だけであって欲しい。そう願いながら、レライエは魔法を呟いた。


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