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9契約 sideレライエ

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 差し出された手。

「あの、グリモアール様?それともガーディアン様とお呼びしたらいいのですか?」

『ごめん。名前教えてなかった』
「真名は言わなくて大丈夫です」

魔法を使う人の名は、時にその人を縛る枷になりかねない。

『そうだ。じゃあ、セーレって呼んで』

「セーレ……様」
『様は、いらないけど。僕も、レイって呼んでもいい?』

レライエをレイと愛称で呼ぶのは、側妃母さまだけだった。愛称呼びなんて、大切な家族みたいで嬉しくなってしまう。

「はい──ただ契約したら、どうなるのですか?」
 その手をすぐにでも取りたい。でもレライエは、魔法を使えないのだ。こんな立派な魔導書グリモアールが扱えるのか分からない。もしかしたら、本当に神子様のものだったらどうしよう。
 
 そばにいてくれる人達まで危険に晒すかもしれない。無能でいた方がいいのではないか……考えれば考えるほど手が出せない。
 怖い……それがレライエの中に占める感情だった。

「やっぱり……私が持つのは無駄かもしれません。私は魔法は使ったことがありません」


『──初歩の魔法の使い方から、この魔導書に載っている中程度から古代魔法まで全部……レイが知りたいこと教えるよ』

 初歩から教えて貰える。それはレライエが、ずっと願っていたことだった。それでも王妃が怖いのだ。また誰かが傷付いた時、どうしたらいいのか分からない。


「──お、王妃様が……」
『あー、あの人かぁ。平気平気。魔法が使えるようになれば、皆を護れるようになるよ。何より自分を護れれば護衛も敵に集中出来る。僕は出来るまで教えるから、こう見えて教えるの得意な方なんだ。だからやる前から諦めないで』

「それでも……バレたら皆に迷惑が」

『──大丈夫。離宮全体に防御防音魔法かけようか?認識阻害とか……地下室から移動できる所も作れるよ。僕と契約してくれたら、レイを護るだけじゃなくて強くしてあげたいんだ』

 誰かを守れるくらい強くなりたい。一筋の涙がレライエの瞳から流れ落ちた。

「け、契約します。魔法を教えて下さい」

 向かい合わせに二人が両手を繋ぎ輪の形を作った。魔導書グリモアールはレライエの膝の上でその輪の中央にある。
 白銀のようなセラフィーレが、深い深い青に染まっていく。肌は色白のままだけど、髪と瞳がレライエの色へと変化した。

「え、私と同じ髪色と瞳になるのですか?」

『そうだよ。魔法を使う時は君の色になる。君が僕の所有者になった証拠だよ』

 だが、次の瞬間レライエが目を逸らした。
『──どうしたの?』

 淡く輝いていたせいで、二人とも気がついていなかったのだ。その光が落ち着いた結果、セラフィーレが服を何も身につけてないことが分かった。
  
 下半身は更に透けてるので、へそより下がはっきりしていなかったのは救いだ。
 ただ、綺麗な上半身はくっきりとしていた。綺麗な桃色が目の前にあった。
「セ、セーレ様……は、裸ですけど。ふ、服は着ないのですか?」

『へ?────うああああ。ごめん。ちょ、ちょっと待って。服探してくる』

 慌てて魔導書グリモアールに片手を突っ込むと溶け込むように中へと消えていく。

 パタンと表紙を閉じた時、ディードと目があった。どれくらい時間が経ったのだろう?

「あ、お茶冷えちゃったね」

「そんな簡単に冷えませんよ。それより読めましたか?」

 時間は瞬き程しか経っていないらしい。ティーポットの紅茶は温かいままだ。ディードは先程のやり取りは全く見えていなかったみたい。
 美しいセーレの裸が、レライエの脳裏に浮かんだ。桃色のあれが目の前にあった。ディードに見えてなくて良かったが、思い出し途端に頬が熱を持つ。

「どうしましたか?熱でも出たのでは?」
 ディードがソファから立ち上がり、レライエの横に来て膝をついた。

「額に触れてもいいですか?」
「ち、違うんだ。、その。あの。さっき……魔導書グリモアール守護者ガーディアンに会ったんだ」

 額に触れようとしたディードの手が止まった。

「──えっ?今なんて言いましたか?」
魔導書グリモアール守護者ガーディアンだよ。ものすごく美麗な精霊みたいな人だった」

魔導書グリモアール守護者ガーディアンなんて。じゃあ、この魔導書グリモアールは古の天才魔法師様の物かも知れません」

「神子様の物ではなくて?」
「ええ」

 天才魔法師も問題な気がするが、神子様の物じゃないならと、少し安心する。

「契約を結んだんだ」
その一言で、ディードが驚いて叫んだ。










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