7 / 61
6セラフィーレ①
しおりを挟む「は、はい」
「──殿下?急にどうしたんですか?」
シッと指を口元に一本立てている。それが子供っぽくて可愛い。
返事をしてくれたのだ。だから、魔導書を読むことの出来る人になってもらう。
『光をもたらす者 と言って欲しい。ほかの人に、この言葉は理解出来ないから大丈夫』
『ルシフェル』
夜明けを意味する天使の名前。これは、六花がつけた魔導書の鍵を開ける時の呪文のようなもの。
姉の好みなんだけど、使わせてね。
月白から今度は、濃紺の色に変わっていく。金の縁どりに更に美しい深いブルーの魔石が装飾され始めた。
やっぱり、悪役なんて似合わない。
だってこんなに綺麗な心の持ち主だ。魔導書が、レライエの魔力に染るように変わっていく。
「──これは本?」
「殿下これ……魔導書ではないでしょうか?」
禍々しく見えていた黒い塊は、一度月白に輝き、それから濃紺で金の刺繍で加工された一冊の本になった。
しばらく黙っている二人が、可笑しくて吹き出しそうになる。
『そうだよ。魔導書だよ』
セラフィーレは嬉しくなってしまう。ゲームが始まるようなワクワク感に包まれて、正解だと伝えてみた。
「一体何が起きたんですか?」
「魔導書であってるみたい。信じられる?」
「いや、もう信じるしかないです。異界の物なら、何でもありかも知れません。それにこの国の言葉ではありませんでした」
少し興奮気味のディードは前のめりだ。
「あの時、これを抱きしめたのは声がしたからですか?」
「うん。だから、処分させたくなくて。ここに来るまでも、泣いたり。何か話をしてたんだ。独り言みたいだったけど」
「それで、何か呪文のようなものを復唱したのですか?」
「うん」
「あの黒い塊が、こんな綺麗な魔導書になるなんて」
「神子様は、ゴミって言ったんだ。だから魔導書とは知らないのかも」
あの時の神子の表情を思い出す。ゴミだの、いらないなど、本当に神子なんだろうか?疑問しか浮かばない。
「これが、ゴミ?」
どう考えても……聖遺物のような存在なので、セラフィーレとしては正直嬉しい。
転生したらゴミでしたとか……そんな酷いことされたら、本当に神様を恨むところだった。
「神子様に見せるべきだろうか?」
「それは。無理ですね。あの人達は、レライエ殿下と神子様を会わせたくないんですよ。神子様自体もなんか……」
そう言ってディードは、口を噤む。
「神子様自体が?」
「ここだけの話。胡散臭い。それに殿下を馬鹿にしたような感じでした。魔導書を見せたら、奪われてしまう気がします」
「無能な私が持つよりも、相応しい人がいいんじゃないかな?」
バンッとテーブルをディードが叩いた。
「殿下は無能じゃありません。あの、俺が触ってみてもいいですか?また、弾かれるのかどうか。もし弾かれるなら、拒絶されないレライエ殿下が、間違いなく所有者です」
「じゃ、やってみて欲しい」
ディードは頷き、少し躊躇いつつ手を伸ばしてきたが、触れる直前でパシンッと弾いてしまう。これは無意識なので申し訳ない。
「いたた──やっぱり、レライエ殿下しか触れない。殿下ももう一度」
「う、ん」
片手で触れられて、くすぐったいような気持ちになる。両手で掴み、持ち上げられると更に照れくさい。
「あ、なんか軽い」
「どうしたんです?」
「いや、前よりなんか……軽い。装飾とか付いてて重くなってるかと思ったんだけど」
「気になるので、中身を見てください」
「あ、うん」
魔導書は、この国の魔法師たちは必ず、自分の一冊を持っている。魔法師一族なら代々引き継がれる本があると聞く。そうではない場合は、魔導図書店で古書や中古を選ぶか、魔法研究所が制作する魔導書を手に入れるかだ。
王族用の魔導書があるはずだが、レライエには渡さないだろう。実際、魔法も習えず魔力過多に苦しむ。そんな彼は魔導書に憧れをいだく。
だから、レライエは神子に憧れ、手に入れようと画策するのだ。
何となくだけど、あの神子は違う。そんな気がしている。最初に所有者として繋がりを感じたのは神子だったからだ。その結果セラフィーレが黒い塊になったのなら、浄化など出来るか怪しい。これから成長して変っていけるのなら、違うかも知れないけど。
(まあ、いらないって言われたからいいか)
そう思っていたら、レライエが一度大きく深呼吸をし、緊張しながら魔導書の表紙を捲ってくれた。
362
お気に入りに追加
889
あなたにおすすめの小説
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~
狼蝶
BL
――『恥を知れ!』
婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。
小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。
おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。
「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい!
そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる