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6セラフィーレ①
しおりを挟む「は、はい」
「──殿下?急にどうしたんですか?」
シッと指を口元に一本立てている。それが子供っぽくて可愛い。
返事をしてくれたのだ。だから、魔導書を読むことの出来る人になってもらう。
『光をもたらす者 と言って欲しい。ほかの人に、この言葉は理解出来ないから大丈夫』
『ルシフェル』
夜明けを意味する天使の名前。これは、六花がつけた魔導書の鍵を開ける時の呪文のようなもの。
姉の好みなんだけど、使わせてね。
月白から今度は、濃紺の色に変わっていく。金の縁どりに更に美しい深いブルーの魔石が装飾され始めた。
やっぱり、悪役なんて似合わない。
だってこんなに綺麗な心の持ち主だ。魔導書が、レライエの魔力に染るように変わっていく。
「──これは本?」
「殿下これ……魔導書ではないでしょうか?」
禍々しく見えていた黒い塊は、一度月白に輝き、それから濃紺で金の刺繍で加工された一冊の本になった。
しばらく黙っている二人が、可笑しくて吹き出しそうになる。
『そうだよ。魔導書だよ』
セラフィーレは嬉しくなってしまう。ゲームが始まるようなワクワク感に包まれて、正解だと伝えてみた。
「一体何が起きたんですか?」
「魔導書であってるみたい。信じられる?」
「いや、もう信じるしかないです。異界の物なら、何でもありかも知れません。それにこの国の言葉ではありませんでした」
少し興奮気味のディードは前のめりだ。
「あの時、これを抱きしめたのは声がしたからですか?」
「うん。だから、処分させたくなくて。ここに来るまでも、泣いたり。何か話をしてたんだ。独り言みたいだったけど」
「それで、何か呪文のようなものを復唱したのですか?」
「うん」
「あの黒い塊が、こんな綺麗な魔導書になるなんて」
「神子様は、ゴミって言ったんだ。だから魔導書とは知らないのかも」
あの時の神子の表情を思い出す。ゴミだの、いらないなど、本当に神子なんだろうか?疑問しか浮かばない。
「これが、ゴミ?」
どう考えても……聖遺物のような存在なので、セラフィーレとしては正直嬉しい。
転生したらゴミでしたとか……そんな酷いことされたら、本当に神様を恨むところだった。
「神子様に見せるべきだろうか?」
「それは。無理ですね。あの人達は、レライエ殿下と神子様を会わせたくないんですよ。神子様自体もなんか……」
そう言ってディードは、口を噤む。
「神子様自体が?」
「ここだけの話。胡散臭い。それに殿下を馬鹿にしたような感じでした。魔導書を見せたら、奪われてしまう気がします」
「無能な私が持つよりも、相応しい人がいいんじゃないかな?」
バンッとテーブルをディードが叩いた。
「殿下は無能じゃありません。あの、俺が触ってみてもいいですか?また、弾かれるのかどうか。もし弾かれるなら、拒絶されないレライエ殿下が、間違いなく所有者です」
「じゃ、やってみて欲しい」
ディードは頷き、少し躊躇いつつ手を伸ばしてきたが、触れる直前でパシンッと弾いてしまう。これは無意識なので申し訳ない。
「いたた──やっぱり、レライエ殿下しか触れない。殿下ももう一度」
「う、ん」
片手で触れられて、くすぐったいような気持ちになる。両手で掴み、持ち上げられると更に照れくさい。
「あ、なんか軽い」
「どうしたんです?」
「いや、前よりなんか……軽い。装飾とか付いてて重くなってるかと思ったんだけど」
「気になるので、中身を見てください」
「あ、うん」
魔導書は、この国の魔法師たちは必ず、自分の一冊を持っている。魔法師一族なら代々引き継がれる本があると聞く。そうではない場合は、魔導図書店で古書や中古を選ぶか、魔法研究所が制作する魔導書を手に入れるかだ。
王族用の魔導書があるはずだが、レライエには渡さないだろう。実際、魔法も習えず魔力過多に苦しむ。そんな彼は魔導書に憧れをいだく。
だから、レライエは神子に憧れ、手に入れようと画策するのだ。
何となくだけど、あの神子は違う。そんな気がしている。最初に所有者として繋がりを感じたのは神子だったからだ。その結果セラフィーレが黒い塊になったのなら、浄化など出来るか怪しい。これから成長して変っていけるのなら、違うかも知れないけど。
(まあ、いらないって言われたからいいか)
そう思っていたら、レライエが一度大きく深呼吸をし、緊張しながら魔導書の表紙を捲ってくれた。
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