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5黒い塊
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自分の不自由な足では、歩くことは出来ても走ることは無理だった。荷物として抱えられているだけなのに、ディードの移動の速さに風を感じている。セラフィーレは、風景が早く流れていくことにわくわくしてしまう。
いつか、走ってみたかった。
(こうして体感出来るサイズ?も悪くないのかも)
遠目に、レイの側近らしい二人が慌てて追いかけて来たが、どんどん距離が離れていく。
側近とか護衛というより、きっと見張り何だろうなと、小さくなっていく彼らを見失った。
『早く悪意から、護ってあげたい』
セラフィーレがぽつりと呟く。その声がレライエに届くなんて知らなかった。
しばらくしてレライエの住む離宮に着いた時、とても古く手入れが行き届いているようには見えなくて、こんな風に嫌がらせを受けているのかと心が痛んでしまう。
ディードが、ゆっくりとレライエを地面に降ろした。黒い塊が抱えられたままのなので、慌てて出迎えに来た黒服で白髪混じりの紳士と、黒いメイド服の猫目の若い……女性が驚いている。
『なんだろう……このメイド気になる』
立ち姿が美しい老紳士は、一瞬驚いたものの、直ぐにキリッとした紳士的な表情に戻した。
「殿下……一体」
その言葉を被せるように、メイドが挨拶する。
「お帰りなさいませ」
なんの問題もないといった感じで、黒服メイドは手を差し出したまま、身動きをしない。
どうやら黒い塊を受け取ろうして、手を差し出したようだ。
「ただいま。メグ、これは私が持つよ」
ホール内に入って見ると、意外にも内装や家具はきちんと整えられている。
「改めて紹介するね。執事のセバスだよ。それとメイドのマーガレット……メグって呼んでる。今日から私の側近になったディードだ」
「セバスさん。ディード・メリオルです。マーガレット嬢はメグと呼んでもいいかい?」
騎士の礼をとり挨拶をするディードは、その仕草が板についていて格好いい。
「メリオル伯爵様のご子息なのですね。殿下の側近に選ばれたなんて心強いです。殿下、ラウンジにしますか?お部屋がよろしいですか?」
「私の部屋にお茶を用意して欲しい。少し二人で話がしたいから」
セバスが部屋へ誘導し、メグは紅茶を用意しに下がった。
黒い塊をテーブルに置き、レイは上着を脱いで、少し楽そうな服になっていた。
セバスに軽く事情を話して、ディードの部屋を用意するように言っているみたい。近々近衛の寮から、荷物を回収する連絡もセバスにお任せしている。
ディードがここに住み込むなんて、心強い。セバスと入れ替わりで、メグがやって来た。
上着を片付けてくれて、紅茶とお菓子、果物をセットしていく。
「メグ」
「大丈夫です。他の者は、ここに来ません。お声は漏れませんから。何かありましたら、その魔導具でお呼び下さい」
メグが、心得たとばかりに部屋から下がって行った。
「──おいしい」
向かい合わせのソファに座っているディードが困ったような顔をしている。
「どうかした?」
「いえ……いや。あの、毒味はいないのですか?」
無能と蔑まれても、レライエはこの国の王子で間違いない。毒味係がいるのが当たり前だ。その当たり前がない状況なのだ。
「もう、私のせいで人が死ぬの嫌なんだ。それにメグは信用してる」
「ですが、御身の方が大切です」
レライエはまた、一口紅茶を含んだ。
「毒味は──二人亡くなった。従兄弟だったんだ。それに暴漢に襲われた時は、私を庇って兄のような親友が死んだ。もう、嫌なんだ」
ディードが、悲痛な表情になる。
「従兄弟殿なら、普通は毒味係になる人達じゃない。誰がそんな任命を……まさか」
手で制してそれ以上先を言わせない。
「選出された者の拒否権はなくて、だからもう必要ないと言った。今ここで信じられるのは、セバスとメグだけだから。その二人を毒味係になんてさせない」
「そんな……ありえない」
『そうなんだ。有り得ないんだよ。酷すぎる!』
思わず、ディードに同調する。
「ねぇ。ディード、今の声聞こえた?」
「声ですか?いいえ。二人だけなのに?まさか間者が!」
剣を握りまわりを伺っている。しばらくして首を振った。
「間者はいません。俺は感知は得意ですから。もしかして俺に話したいのは、誰かに狙われてるかもしれないってことですか?」
「そうじゃないんだ。実は……」
「実は?」
「この黒い塊から、声が聞こえるんだ」
ディードが手を伸ばして、触ろうとした時パンッと弾いてしまった。
「つぅ……」
「ディード!」
「殿下が触っても何もなかったですよね? 触れるのは殿下だけかも知れない」
この世界だからこその物に、なったのではと少し前から感じ始めている。
セラフィーレは、自分が転生して何に生まれ変わったのか、ようやく理解をした。すると光に包まれていくような、優しい気持ちが溢れてくる。月光のような優しい色味は、セラフィーレの持ち色だ。
『レライエ……もし聞こえてるなら、はいって返事をしてくれる?』
ああ、さっきみたいに声が届いてくれるだろうか? 返事を待つことにする。
いつか、走ってみたかった。
(こうして体感出来るサイズ?も悪くないのかも)
遠目に、レイの側近らしい二人が慌てて追いかけて来たが、どんどん距離が離れていく。
側近とか護衛というより、きっと見張り何だろうなと、小さくなっていく彼らを見失った。
『早く悪意から、護ってあげたい』
セラフィーレがぽつりと呟く。その声がレライエに届くなんて知らなかった。
しばらくしてレライエの住む離宮に着いた時、とても古く手入れが行き届いているようには見えなくて、こんな風に嫌がらせを受けているのかと心が痛んでしまう。
ディードが、ゆっくりとレライエを地面に降ろした。黒い塊が抱えられたままのなので、慌てて出迎えに来た黒服で白髪混じりの紳士と、黒いメイド服の猫目の若い……女性が驚いている。
『なんだろう……このメイド気になる』
立ち姿が美しい老紳士は、一瞬驚いたものの、直ぐにキリッとした紳士的な表情に戻した。
「殿下……一体」
その言葉を被せるように、メイドが挨拶する。
「お帰りなさいませ」
なんの問題もないといった感じで、黒服メイドは手を差し出したまま、身動きをしない。
どうやら黒い塊を受け取ろうして、手を差し出したようだ。
「ただいま。メグ、これは私が持つよ」
ホール内に入って見ると、意外にも内装や家具はきちんと整えられている。
「改めて紹介するね。執事のセバスだよ。それとメイドのマーガレット……メグって呼んでる。今日から私の側近になったディードだ」
「セバスさん。ディード・メリオルです。マーガレット嬢はメグと呼んでもいいかい?」
騎士の礼をとり挨拶をするディードは、その仕草が板についていて格好いい。
「メリオル伯爵様のご子息なのですね。殿下の側近に選ばれたなんて心強いです。殿下、ラウンジにしますか?お部屋がよろしいですか?」
「私の部屋にお茶を用意して欲しい。少し二人で話がしたいから」
セバスが部屋へ誘導し、メグは紅茶を用意しに下がった。
黒い塊をテーブルに置き、レイは上着を脱いで、少し楽そうな服になっていた。
セバスに軽く事情を話して、ディードの部屋を用意するように言っているみたい。近々近衛の寮から、荷物を回収する連絡もセバスにお任せしている。
ディードがここに住み込むなんて、心強い。セバスと入れ替わりで、メグがやって来た。
上着を片付けてくれて、紅茶とお菓子、果物をセットしていく。
「メグ」
「大丈夫です。他の者は、ここに来ません。お声は漏れませんから。何かありましたら、その魔導具でお呼び下さい」
メグが、心得たとばかりに部屋から下がって行った。
「──おいしい」
向かい合わせのソファに座っているディードが困ったような顔をしている。
「どうかした?」
「いえ……いや。あの、毒味はいないのですか?」
無能と蔑まれても、レライエはこの国の王子で間違いない。毒味係がいるのが当たり前だ。その当たり前がない状況なのだ。
「もう、私のせいで人が死ぬの嫌なんだ。それにメグは信用してる」
「ですが、御身の方が大切です」
レライエはまた、一口紅茶を含んだ。
「毒味は──二人亡くなった。従兄弟だったんだ。それに暴漢に襲われた時は、私を庇って兄のような親友が死んだ。もう、嫌なんだ」
ディードが、悲痛な表情になる。
「従兄弟殿なら、普通は毒味係になる人達じゃない。誰がそんな任命を……まさか」
手で制してそれ以上先を言わせない。
「選出された者の拒否権はなくて、だからもう必要ないと言った。今ここで信じられるのは、セバスとメグだけだから。その二人を毒味係になんてさせない」
「そんな……ありえない」
『そうなんだ。有り得ないんだよ。酷すぎる!』
思わず、ディードに同調する。
「ねぇ。ディード、今の声聞こえた?」
「声ですか?いいえ。二人だけなのに?まさか間者が!」
剣を握りまわりを伺っている。しばらくして首を振った。
「間者はいません。俺は感知は得意ですから。もしかして俺に話したいのは、誰かに狙われてるかもしれないってことですか?」
「そうじゃないんだ。実は……」
「実は?」
「この黒い塊から、声が聞こえるんだ」
ディードが手を伸ばして、触ろうとした時パンッと弾いてしまった。
「つぅ……」
「ディード!」
「殿下が触っても何もなかったですよね? 触れるのは殿下だけかも知れない」
この世界だからこその物に、なったのではと少し前から感じ始めている。
セラフィーレは、自分が転生して何に生まれ変わったのか、ようやく理解をした。すると光に包まれていくような、優しい気持ちが溢れてくる。月光のような優しい色味は、セラフィーレの持ち色だ。
『レライエ……もし聞こえてるなら、はいって返事をしてくれる?』
ああ、さっきみたいに声が届いてくれるだろうか? 返事を待つことにする。
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