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3謎の物体

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「え。何これ。汚い……ゴミ?」
 神子の声が、神殿に響いた。

「神子様に関係の無いものですね?ならば処分いたします。召喚される際に異世界から紛れたのでしょう」

 神官長が杖を構え、黒い物体を消そうと魔法を放つ。
 杖から放たれた強烈な閃光が、当たったはずだった。でも痛くない。
 確かに当たったのに、何も変わらずそのままの状態で消滅もしない。

 神様が、僕を何かに転生させてくれたらしいのだけど。説明の途中で世界が変わったんだ。

 (今ゴミって、言われたよね?なんで?)

 ここに来る前に、教えてもらった名前は、セラフィーレ ・ハルファスだ。神子と一緒にここに召喚されたみたいなんだけど、なぜかゴミ扱い。

 (推しの傍にいけるはずなのに?)

 神殿が微妙な沈黙の中、セラフィーレは彼の存在を探した。

 あ、いた!そう思った時には、が動いた。

 目の前まで、いく。推しのレライエが少年の姿に見える。美形の彼が少し幼い姿なので、可愛さに百点満点を付けたいくらいだ。

 それなのに、何故か悲鳴が上がり、周りの様子がおかしい。

「なんと、気持ちの悪い……」
 神官長の呟きに、テオドール殿下が剣を構える。
「神子様に害を成す物か?ならば、私が消滅させます」

 歓喜に包まれていた神殿は、戦闘が始まるかのような雰囲気に変わっていった。近衛は剣を魔法師は杖を構える。

 (気持ち悪い?)
 視線が全てセラフィーレに注がれていることに気がついた。
 もしかして、さっきから気持ち悪いって僕のことを言ってるのかな?確かに今、自分が良く分からない物になっている。

 (神様……召喚される前に説明してよ。儀式の関係者に説明したいのに……このままだと消滅一択!?)

 だんだん自分が何者か分かってきた。一体どうしたらと思った時、誰かの呟きが皆に届く。

「神子様に浄化魔法をお願いしたらいいのでは」

 何やら、セラフィーレに集まっていた視線が神子へと移された。消滅させられたら困るから、神子に説明しようかと考えたが、どうにも神子に声が届かない。

その時。
「それ、いずれ消えると思います。魔力が途切れ途切れになっているので。神様が言ってます」
そう神子が言った。

(いや、待って消えないと思うけど。害はないですって言いたい)

 僕の声が届く人を探すしかないのに、神官長って人からも、ゴミを見るような目で見られている。

 神様の声が聞こえそうな、神官達に声が届かなかった。推しの傍にいけるようにしてくれたのなら、レライエには届くかも知れない。

『レイ……』
 いきなり、レイは不味いかな?レライエ殿下の愛称はレイだ。でも仲良くなるまでは我慢しよう。

『レライエ殿下』

 目が合ったと思う。
 この想いをどうやって伝えたらいいのだろう。会いたかったでは、告白みたいで恥ずかしい。
 迷いに迷って勇気を出した。

『レライエ殿下。僕は、ゴミじゃないんです!!』

 情けないけど、これが真実で嘘ではないから。初めから側近にしてくれたら良かったのに。

 (神様、なんで人じゃないの?ああ、でもそうか……この世界だからか)

 王国で行われた召喚の目的は、異世界から来た神子に、浄化を依頼すること。さらに攻略対象者と学び、力を合わせることで、神子の能力はあがる。
 ただ終盤には、魔獣の敵の能力があがってしまうので、足りない能力を補うためアイテムが必要になってくる。

 攻略対象者と力を合わせてイベントをこなす。好感度をあげて魔導書グリモアールを呼び出すと神子は、チート級の魔法師になる。

 神子に浄化を求めたのも、能力の一つだからだ。もしもこのまま消されたら、二度目の人生が終わってしまう。ひたすら焦っていると神官長がそれを止めた。

「神子様が神の声を聞いている。それにこの世界に来たばかりで、神子様の魔力も安定されていない。消滅するのなら無闇に触れない方がいい」

 そう言えば、皆少し幼い、若いといった感じなので、儀式が何らかの理由で早まったのかな?自分自身が中途半端な存在なのも、そのせいかもしれない。

 とりあえずは、レライエに存在をアピールしようと意気込むと......いつの間にか抱えられている。

(うわ……)

「お願いします。ならこれを私に下さい」

 すると神子が、レライエの方に近づいてきた。
「いいよ。そんな汚れた物を欲しいなんて、君変わってるね。の物みたいだから欲しいのかな?残念だけど、私の物でもないから。好きにしていいよ」

 戸惑いながらレライエは、ありがとうございますと呟いた。

「物乞いか?」
「王子のくせに」
 そんな囁きと冷ややかな視線に晒されながら、レライエは答えた。

「いえ。ただ……声が聞こえたのです」
「そんなものから、声?大丈夫ですか?」
 
    神子の言葉に無性に腹が立ってしまう。さらに、テオドール殿下がなじるように言い放った。

「お前は二度と神子様に近づくな。今回だけは不問にする。ただしその騎士のミスも、全てお前の責任にするから、次は処罰を覚悟しとけ」

 テオドール殿下の言葉により、二人は神殿を後にした。


  
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