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2召喚・神子

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【女神ヴィオラの厄災】はクロスウェル王国に、約起きてしまう女神の呪いだった。そして世界を救うために、異世界から黒髪黒目の神子を召喚する。

  神託が降りてから召喚の儀式が行われるまでの時間が、何かに追い立てられるように異例の早さで進んでいく。

 魔法師団や神官から魔力の多い者が招集され、召喚のために描かれた魔法陣に魔力を放出し続ける。
  魔力を失い過ぎて、命の危機があったとしても王国の為に尽くすしかない。

 これは、王国の威信をかけた儀式だから。

  現に数名は倒れたまま放置されている。一部の高位貴族のみが、救護班に支えられていた。それでもここから移動することはなく、意識は陣の中央に注がれている。
    

 ──そして、淡い光の中に影がようやく現れた。

 第一王子殿下、魔法師団長、神官長が顔を見合わせた後、一人の神官に合図を送る。

 もしも神子じゃないなら、その時は……処分しなければならない。万が一失敗した時のために魔法が使える者は杖を、騎士は剣を構え光が消えるのを待った。

 魔法陣の光が空気に溶けていくように、魔法が霧散すると人影がはっきりとしてきた。少しずつ神官が陣へと近づいていく。

「ああ、間違いありません。黒髪です!異世界からの神子を召喚出来ました。この方はこの世界を救う神子様に間違いありません」

 いつもは静粛な場所である神殿が、歓声と歓喜に包まれた。



 ◇◇◇




 大歓声の中、恐る恐る周りを見渡して見ると日本ではないと如月きさらぎ二葉ふたばは実感する。

 外国人だとしてもありえないような髪色の美麗な男の人たちが、騎士服や神官服の姿でこちらを見ているからだ。

「召喚……された?」

  確かに失敗した時のお守り代わりに、やり直しを頼んだ。だから神さまに再会した時は、嬉しくて次の約束を果たすように急いでとお願いしただけ。

 再会を喜んだり、失敗を慰めてももらえないまま、これで会うのは最後だと言って神さまは消えた。

 せっかくの美人なのに愛想がないな。二つの願い事をサービスしてくれたのは、良かったけどね。

 あの時逃げる途中で炎に包まれたけど、熱さは感じなかった。二個目の約束のために、救出してくれた気がする。二葉は綺麗な顔をしていたから、召喚されることを強く希望したのは正解だ。

 視線を強く感じたので、原作の神子らしい振舞いを意識したが、違和感がある。

(なんか、なのにサイズがおかしくない?)

 転生ならば、子供からは有り得る。でも、二葉としてここに来たなら召喚転移のはず。

 周りにいる人を確認すると原作の王子らしいビジュアルを見つけた。

 金髪で青眼、第一王子であるテオドール・クロスウェル殿下だ。だけど、青年ではない。明らかに青年の一歩手前に見える。

 神子である自分に近づいてきた。不安になって、自分の手のサイズをあらためて確認するとあきらかに小さい。テオドール殿下が、一人の騎士に止められた。

「まだ。どの様な人物かわかりません。危険です。お下がり下さい」
 近衛騎士が俺と殿下の間に割って入る。
 殿下はきつく近衛騎士を睨みつけ、帯剣していた剣を抜き騎士の首元ギリギリに刃先を当ていた。

「──神官が神子と言った。神官長も否定していない。彼は私の婚約者候補だ。邪魔をするな」

 金髪青眼の美しい王子は、剣を向けたまま、うっとりと神子じぶんを見ている。

(うわ、婚約者候補に決まってるの?攻略楽勝じゃん!)

  ただ気になるのは、ゲームのビジュアルより若いこと。成長前のこの段階で、は急ぎ過ぎないようにした方がいい。失敗はできないのだから。

緊迫した雰囲気の中、別の人の声がした。

「ええ、テオドール殿下。貴方の未来を確固たるものにしてくれる神子様です。邪魔をするその者に、罰を与えて下さい」
 神官長の言葉に、召喚の成功に沸いたその場が一気に寒々しいものへと変わった。

  テオドールが持っていた剣に、魔力を込めようとした時、二葉が仲裁に入ろうと一歩踏みだす。ほぼ同時に紺色の髪の少年が、近づいて彼らに声をかけた。

 ここは神子である二葉の出番のはずだったのに、出鼻をくじかれて思わず舌打ちしそうになる。

「あの、今回だけは彼を許していただけませんか? 神子様が召喚された大切な日に、罰など与えるのは……」

「レライエ、お前までここに来たのか?無能の分際で神殿に来るなどと、無礼が過ぎないか?」

 テオドールが、蔑むように冷たく言い放つ。それでもレライエと呼ばれた少年は、彼への処分を軽くしたいのか言葉を続けていく。

「──陛下のご命令でしたのでお許し下さい。殿下の伴侶となり得る方に挨拶をと」

 確かレライエは、幼少期に王妃たちから、悪質な嫌がらせを受けていたと書いていあった。

「ならお前は、絶対に神子様と関わるな。この方はこの国の国賓で、側妃の子であるお前より身分が高い。その近衛が次に何か口出ししたらお前に罰を与える。そいつは俺にはもう必要ない。だからあれば、すべてお前が責任を取れ」

「──はい。ありがたくお受けいたします」

 (まだ、そこまで歪んでないのか?)

  ふと二葉は、視線を感じテオドールを見た。

「あの。何か?」
「その横にある……黒い物体は神子様のものですか?」

 第一王子の視線の先にあるのは、汚いボロボロの黒い塊だった。




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