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プロローグ
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炎から逃れるなんて無理だった。
バァン!!というものすごい音と共に風圧による振動を体感する。
教室内がザワザワし始め、廊下側の生徒や先生が、様子を見るために窓や扉を開けた。
「実験室が爆発したみたいだ!そのまま、動かずに!」
「やばっ、火がでてるぞ!」
「か、火事!?」
「他のガスとかに引火したら、皆死んじゃうんじゃ?」
皆死ぬ──その言葉にパニックが伝染していく。恐怖心が連動し《ここに居ていいのか?》と。
あっという間の出来事だった。
生徒の叫び声、泣き声が混ざり、一斉に扉に生徒が集中した。我先にと逃れるように押し合う。
もう、先生の声はすでに生徒の耳には届かない。
気がつけば隣りの教室からも生徒が走り出てきた。
もう一度、バァン!と音がして引火したのか火の手があがる。黒煙が吹き出して来てさらに生徒たちは、パニックを起こし完全に我を忘れ冷静さを失った。
「皆、落ち着いて!」
皆その声を無視して逃げ出した。
星七は、その勢いに混ざれない。
足の不自由な星七は、歩くのに杖が必要だった。この混乱の中、杖で移動したら邪魔になってしまう。
皆の避難の邪魔にならないようにと、なるべく壁に沿うように移動する。杖は支える程度で誰にも当たらないよう気をつけていた。ドンッと背中を押されるように誰かがぶつかって来た。ぐらりと体が傾いて床に手をつく。
「邪魔なんだよ!!」
階段の方に飛ばされた杖が、カランカランと落ちていく音だけが聞こえた。さらに逃げる生徒にぶつかり頭を強打し倒れてしまう。
「うっ……痛……」
走って行く生徒の後ろ姿を見送ることしか出来ない。星七を助けてくれる余裕など、誰にもなかった。
火災報知器が鳴り響き『生徒は速やかに避難をしてください』のアナウンスは流れたまま。
煙をなるべく吸わないように体勢を低くしても、煙が充満してきて、どこに進んでいいのかさえ分からない。
皆川星七は諦めるのが嫌いだった。生まれつき右足が上手く動かなくても、杖を使い人に頼らずに歩けるようと、リハビリを欠かさなかった。その結果、学校には歩いて通学し、委員の仕事も積極的に関わって来た。勉強だけは負けないように努力してきた。
姉や母に迷惑をかけないように出来ることは何でもしてきたのに。これから、もっと親孝行したかったのに。
──母さん。六花姉。ごめん。帰れそうにない。
「誰か……ゲホッゲホッ」
息苦しさで意識が朦朧として、そのまま床にうずくまり死を覚悟した。
もしも次に生まれ変われるなら、自由に動いてみたい。もっといろんな世界を知りたい。
神様──どうか。
淡い淡い暖かな光が見える。
そちらに行こうと手を伸ばしてみた。
そして、星七は意識を手放した。
バァン!!というものすごい音と共に風圧による振動を体感する。
教室内がザワザワし始め、廊下側の生徒や先生が、様子を見るために窓や扉を開けた。
「実験室が爆発したみたいだ!そのまま、動かずに!」
「やばっ、火がでてるぞ!」
「か、火事!?」
「他のガスとかに引火したら、皆死んじゃうんじゃ?」
皆死ぬ──その言葉にパニックが伝染していく。恐怖心が連動し《ここに居ていいのか?》と。
あっという間の出来事だった。
生徒の叫び声、泣き声が混ざり、一斉に扉に生徒が集中した。我先にと逃れるように押し合う。
もう、先生の声はすでに生徒の耳には届かない。
気がつけば隣りの教室からも生徒が走り出てきた。
もう一度、バァン!と音がして引火したのか火の手があがる。黒煙が吹き出して来てさらに生徒たちは、パニックを起こし完全に我を忘れ冷静さを失った。
「皆、落ち着いて!」
皆その声を無視して逃げ出した。
星七は、その勢いに混ざれない。
足の不自由な星七は、歩くのに杖が必要だった。この混乱の中、杖で移動したら邪魔になってしまう。
皆の避難の邪魔にならないようにと、なるべく壁に沿うように移動する。杖は支える程度で誰にも当たらないよう気をつけていた。ドンッと背中を押されるように誰かがぶつかって来た。ぐらりと体が傾いて床に手をつく。
「邪魔なんだよ!!」
階段の方に飛ばされた杖が、カランカランと落ちていく音だけが聞こえた。さらに逃げる生徒にぶつかり頭を強打し倒れてしまう。
「うっ……痛……」
走って行く生徒の後ろ姿を見送ることしか出来ない。星七を助けてくれる余裕など、誰にもなかった。
火災報知器が鳴り響き『生徒は速やかに避難をしてください』のアナウンスは流れたまま。
煙をなるべく吸わないように体勢を低くしても、煙が充満してきて、どこに進んでいいのかさえ分からない。
皆川星七は諦めるのが嫌いだった。生まれつき右足が上手く動かなくても、杖を使い人に頼らずに歩けるようと、リハビリを欠かさなかった。その結果、学校には歩いて通学し、委員の仕事も積極的に関わって来た。勉強だけは負けないように努力してきた。
姉や母に迷惑をかけないように出来ることは何でもしてきたのに。これから、もっと親孝行したかったのに。
──母さん。六花姉。ごめん。帰れそうにない。
「誰か……ゲホッゲホッ」
息苦しさで意識が朦朧として、そのまま床にうずくまり死を覚悟した。
もしも次に生まれ変われるなら、自由に動いてみたい。もっといろんな世界を知りたい。
神様──どうか。
淡い淡い暖かな光が見える。
そちらに行こうと手を伸ばしてみた。
そして、星七は意識を手放した。
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