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寧々へ
あの日、行かないでと泣いた寧々。
ごめんね。
治せるものなら、あなたのそばで少しでも生きられるのなら、それに縋りたかった。

熱で不安な寧々のそばに、いてあげられなくてごめんなさい。

あなたの大切なパパを、私が連れて逝ってしまったのではないかと、ずっと後悔しています。

パパは、たくさん働いて治療費を準備してくれた。専門の先生に会うために、本当に寝る間を惜しんでくれた。

無理をさせて申し訳なかったと思っています。
寧々との思い出をたくさんパパに作らせてあげたかった。私の治療のために、何度も寧々との時間を奪ってしまって。

ずっと、後悔してた。

もう一度、寧々を抱きしめたかった。
寧々の成長をずっと見守りたかった。
寧々が大きくなって、一緒にショッピングして、ランチをしたり、好きな人の話をしたり。いっぱいそばにいたかった。

寂しい思いをさせて、本当にごめんなさい。


それから。寧々が、いつか手紙屋のお手伝いをするかも知れない。

私は、高校から大学までは手伝ってたの。
使命感に燃えて、役に立ちたくて。

でも、手紙は送る側の自己満足の場合がある。送った相手を傷つけることだって少なからずあると思う。そういう事もあったのよ。

相手への想いが強ければつければ強いほど、上手くいかない事がある。すぐに受け入れられない人もいる事を知って下さい。

上手くいかない時もある。でもそれは、寧々のせいじゃない。

寧々。
パパもママも、寧々を愛してる。
パパは、寧々から私を奪ってしまったんじゃないかと後悔をしてる。

ゆーちゃは、私の事を健康な身体に産んであげられなかった事を悔やんでた。

そして、寧々はきっと……治療が遅れたのではないか? あの時泣き喚いて引き止めたら良かったのではないか?

そんな風にきっと、後悔させてないか心配です。
それは、違うからね。


寧々。

誰も、悪くないよ。
寧々のお母さんになれた事。幸せだった。

この手紙が届く頃、きっと寧々の周りに、寧々を理解してくれる人がいるはずです。


優しい寧々が、泣かなくてすむように。
いっぱい、神様にお願いしました。

この手紙が、悲しい物ではなく、寧々が新しい一歩を踏み出せるように願ってやみません。

無理をしないように。
どうか、寂しさに心が折れないように。
優しい誰かの手を取りますように。

最愛の娘へ。
寧々の幸せをパパと共に祈ってます。


手紙をそっと閉じた。



「また、目が腫れる」
「ブサイクだって言いたいんでしょう?こんなの。しかた……ないでしょ……」

ぐすっ、ぐす……となってしまう。
どこからか、鼻水をかむ音とすすり泣く声がした。

呆れたような。でも優しい雰囲気のまま璃桜が続ける。

「兄貴だな……」
「日、日向さん?」

「ずっと、心配してるからね」
璃桜が咳払いをすると、離れた場所で手を振って行ってしまった。

「ほら大福、ここで肉球パンチ」
大福が、膝の上に乗って来た。猫の姿の可愛い猫パンチだ。あの大きな肉球を思い出して、寧々子は思わず笑った。

欲しくて欲しくて仕方がなかった手紙。事故の時の記憶と両親の行動に、いろんなピースがはまって行く。

哀しみにくれてしまうかと思っていたのに。こんなに、優しい人達に出会ってしまった。

「璃桜さん……結構変だよね?」
「何が?」

「遅れて来た反抗期……の人が、肉球パンチとか言ってる」
「黒猫……しつこい」

「そっちこそ、黒猫呼びやめて下さい」
「──寧々、でいいか?」

「え?」
「寧々って呼び方……合ってるって思っただけ」

急に両親から呼ばれていた名前を言うから、心臓がドキリとした。

「うん」
落ち着け。黒猫とか変な名前より、寧々の方がいいはず。

「じゃ、俺も璃桜でいいよ。縁さんにも、見習いが感情移入し過ぎて暴走しないように見守って手伝ってくれって頼まれてるから。まあ、バイトだな」

「手紙屋のバイトもするって事? いや、でも……家庭教師の先生だったりするのに?先生だよ?」

「──堅苦しい」
璃桜のトーンが下がる。
「え、あ……分かりました」

ブハッと噴き出した璃桜のせいか、この場が和んだせいか、叔母が様子を見にやって来た。

「やっぱり、寧々子ちゃんは笑ってる方がいいわね。もっと、寧々子ちゃんは甘えてね。りーくんとか使っていいから」
お茶を置いてまた戻っていく。

「りーくん……」
「それは、だめだ」


手紙は、優しさと想いだけではなくて、えんまで運んできた。

























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