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リスタート
8.
しおりを挟む大きくて、すでに猫の形はしていない。
例えるなら……虎だ。愛らしさはなく、近寄り難い神々しさがある。そして、少し低めの声も、白い虎に似合っていた。
置かれた手紙は誰宛なのだろう?
夢……なら覚めてしまう。ただの願望で、ただ欲しい言葉だけが書いてある夢の中の手紙かも知れない。つい自嘲してしまう。
理想的な夢の中にいて、期待するなと自分に言い聞かせる。そんな寧々子が、白虎になった大福に声をかけた。
「これは、夢の中ですか?」
ゆっくりと、白虎は寧々子に向かってくる。そして、ポスッと前足が頭の上に置かれた。
「夢と言うより、意識の中だ」
「意識?」
大きな肉球が、ポンポンと頭を軽く押す。頭を撫でてるつもりなのかも知れない。
「──手紙を預かっていた。頃合いを見て渡す予定だった」
「私に? 誰からですか?」
誰からか想像はつくのに。違ったらと確認を取らずにはいられない。
ずっと渇望していたのだ。
お願い。寧々子は、祈る様な気持ちで答えを待つ。
ポスン、ぐりぐりぐり。なんだろう? 髪の毛はすでにグチャっとなっている。
「あの……?」
「あの頃の記憶を、見せただけで……過去を変えたいと思っただろう?」
「そんなの当たり前じゃないですか。両親を死なせたくなんてない、引き止める事が出来るのなら……でも、残ってくれなかったんです」
病気の娘よりも大切な用事があったのだ。縁がいたから、安心して預けていったのかも知れない。
今更、置いていかれた理由を聞いて傷付いたりするのだろうか?
「泣き虫だな。璃桜の言う通りだ」
自然と流れていく涙を、止めるのは難しい。璃桜にも言われた泣き虫と言う言葉。
「だって、引き止めれたら……私の看病の為に予定を中止に出来てたら、二人は生きているかもしれない」
ゴシゴシと涙を袖で拭いて、どうにもならない過去に自分の存在の軽さを実感する。
「いまさら過去は、何も変えられない」
「そんな事」
分かっているのだ。過去を変えるなんて出来ない。
後悔も、切なさも……全部体験して来た事だ。
未練があるのは、両親より自分だ。
大切だったと、言って欲しかった。愛されていたのだと……想いの詰まった手紙を何よりも待っていた。
『一人で抱え込み過ぎる』
「璃桜……さん?」
璃桜の声が聞こえた気がした。
「痺れを切らしたみたいだ。一人で読むな。一人に慣れようとするな」
白虎は、ススス……と小さくなり始める。すっかり元の大きさになった大福が手紙を銜えた。
「え……ちょっと待って」
大福が寧々子に背を向けて走り始めた。
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