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大福は、そのままベッドの上に飛び乗った。
璃桜の言葉を思い出して、独り言ちる。
「いい夢?星那さんが、凪さんに会ったみたいに?」
にゃ~ん。
「大福……一緒に寝たら、お母さんに会えたりするかな」
にゃ~ん。
なんか、急に眠くなってきた気がして、寧々子は吸い寄せられるように、ベッドに潜りこんだ。
横向きで寝ていると、胸に触れない位の所で大福が丸るまってしまう。
スピ、スププ……鼻息なのか空気の抜けていくような寝息。
「可愛い……」
アニマルセラピーって本当かもと納得する。大福を撫でていると、うとうとし始めた。重たい瞼を抵抗するのをやめて閉じてみた。
そこからの沈みこんで行くような感覚。
深く、深く。
まるで水中だ。
水面がキラキラしていたのに、光が失われて透明から蒼く蒼く深い色に包まれていく。
沈みこんでも息苦しくない。丸く小さくなって、心音が聞こえてきそうだ。
胎内……にいるかのような安心感だ。
◇◇◇
「寧々……寧々……起きて起きて」
「ん……?」
(もう朝?)
「寧々……縁ちゃの所に行こう。あら……お熱かな?」
寧々……懐かしい。縁ちゃって、縁さんの事だ。小さい頃も、おばあちゃん呼びして欲しくないって。可愛く呼んで欲しいから、ゆーちゃって呼んでいた。
ガバッと上半身を起こすと、くらくらしてまた、布団に埋もれる。
「寧々。お熱あるみたいだけど……ゆーちゃと二人で、お留守番出来るかな?」
今日?出かけるって何? 私を置いてく理由ってなんだっけ……?
事故の日だ。この記憶、事故に遭う時だ。熱を出して、縁さんと留守番するんだ。
「だめ、いっちゃだめ」
過去に戻った? ここで止めれば、お父さんもお母さんも死なない?
「風邪っぽかったもんね。寧々、どうしても、行かないと駄目だから。ゆーちゃと待っててね」
「やだ」
母親の手を握りしめて、必死に引き止めようとする。
「だめなの、大切な用事だから行かないとね」
「行ったら、ママ帰ってこないもの。ぜったいだめ」
ギュッと母親に抱きしめられて、この匂いと温もりを思い出した。寧々子は、ただ必死に剥がされまいと抱きついた。
「寧々は、寂しがりだな」
その声に反応し、手の力がゆるんだ時、縁さんに抱き締められ、母親から離される。
「パパ……」
仕事の忙しい父親の思い出は少なくて、記憶の中でも朧気だった。
(こんな、優しい顔してたんだ)
これ夢なの? 記憶?
「パパとママ二人だけで、お出かけするのだめ」
(やり直せるのなら、引き止めたい)
「それは、出来ないの」
耳元で縁さんの声がした。
──過去の記憶だから。
こんなの。こんなの、会わない方がいい。どうして、大福のせい?ひどい。
「寧々? どうした?ごめんな、連れて行けなくて」
目の前にきた父親が、縁から寧々子を受け取った。
抱きかかえられると、父親の優しい顔が間近にある。
「パパ」
忘れていた父親との思い出が、脳裏に浮かんで行く。
「寧々、もう大丈夫だな。寂しいって、素直に言えて、涙を見せられる相手が出来たなら、パパも安心していけるよ」
抱き締められる腕に、力が入ったのが分かる。
「パパもママも行っちゃうの?」
「でも、ずっと、ずっと寧々の事を思ってるから。一生寧々が幸せであるように願っているんだ」
こんな事話した?
覚えていないだけ?
「寧々が強くなるまで……待って……」
段々、色が無くなっていく。
目が覚めてしまう。嫌だ。
「お、お母さん!!やだ。縁さんまでいなくなるかも知れないんだよ。一人にしないで!!」
両親も縁も消えて、一人真っ白な空間にいる。
「大丈夫だ」
白い塊は、大福みたいだけど、言葉を話している。
「鴉間、神社の?神様?」
大きさが、違う。大きくて、白と言うにはツヤがあって白銀のような毛並みだった。
その足元に手紙が置いてあった。
璃桜の言葉を思い出して、独り言ちる。
「いい夢?星那さんが、凪さんに会ったみたいに?」
にゃ~ん。
「大福……一緒に寝たら、お母さんに会えたりするかな」
にゃ~ん。
なんか、急に眠くなってきた気がして、寧々子は吸い寄せられるように、ベッドに潜りこんだ。
横向きで寝ていると、胸に触れない位の所で大福が丸るまってしまう。
スピ、スププ……鼻息なのか空気の抜けていくような寝息。
「可愛い……」
アニマルセラピーって本当かもと納得する。大福を撫でていると、うとうとし始めた。重たい瞼を抵抗するのをやめて閉じてみた。
そこからの沈みこんで行くような感覚。
深く、深く。
まるで水中だ。
水面がキラキラしていたのに、光が失われて透明から蒼く蒼く深い色に包まれていく。
沈みこんでも息苦しくない。丸く小さくなって、心音が聞こえてきそうだ。
胎内……にいるかのような安心感だ。
◇◇◇
「寧々……寧々……起きて起きて」
「ん……?」
(もう朝?)
「寧々……縁ちゃの所に行こう。あら……お熱かな?」
寧々……懐かしい。縁ちゃって、縁さんの事だ。小さい頃も、おばあちゃん呼びして欲しくないって。可愛く呼んで欲しいから、ゆーちゃって呼んでいた。
ガバッと上半身を起こすと、くらくらしてまた、布団に埋もれる。
「寧々。お熱あるみたいだけど……ゆーちゃと二人で、お留守番出来るかな?」
今日?出かけるって何? 私を置いてく理由ってなんだっけ……?
事故の日だ。この記憶、事故に遭う時だ。熱を出して、縁さんと留守番するんだ。
「だめ、いっちゃだめ」
過去に戻った? ここで止めれば、お父さんもお母さんも死なない?
「風邪っぽかったもんね。寧々、どうしても、行かないと駄目だから。ゆーちゃと待っててね」
「やだ」
母親の手を握りしめて、必死に引き止めようとする。
「だめなの、大切な用事だから行かないとね」
「行ったら、ママ帰ってこないもの。ぜったいだめ」
ギュッと母親に抱きしめられて、この匂いと温もりを思い出した。寧々子は、ただ必死に剥がされまいと抱きついた。
「寧々は、寂しがりだな」
その声に反応し、手の力がゆるんだ時、縁さんに抱き締められ、母親から離される。
「パパ……」
仕事の忙しい父親の思い出は少なくて、記憶の中でも朧気だった。
(こんな、優しい顔してたんだ)
これ夢なの? 記憶?
「パパとママ二人だけで、お出かけするのだめ」
(やり直せるのなら、引き止めたい)
「それは、出来ないの」
耳元で縁さんの声がした。
──過去の記憶だから。
こんなの。こんなの、会わない方がいい。どうして、大福のせい?ひどい。
「寧々? どうした?ごめんな、連れて行けなくて」
目の前にきた父親が、縁から寧々子を受け取った。
抱きかかえられると、父親の優しい顔が間近にある。
「パパ」
忘れていた父親との思い出が、脳裏に浮かんで行く。
「寧々、もう大丈夫だな。寂しいって、素直に言えて、涙を見せられる相手が出来たなら、パパも安心していけるよ」
抱き締められる腕に、力が入ったのが分かる。
「パパもママも行っちゃうの?」
「でも、ずっと、ずっと寧々の事を思ってるから。一生寧々が幸せであるように願っているんだ」
こんな事話した?
覚えていないだけ?
「寧々が強くなるまで……待って……」
段々、色が無くなっていく。
目が覚めてしまう。嫌だ。
「お、お母さん!!やだ。縁さんまでいなくなるかも知れないんだよ。一人にしないで!!」
両親も縁も消えて、一人真っ白な空間にいる。
「大丈夫だ」
白い塊は、大福みたいだけど、言葉を話している。
「鴉間、神社の?神様?」
大きさが、違う。大きくて、白と言うにはツヤがあって白銀のような毛並みだった。
その足元に手紙が置いてあった。
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