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「本当に泣き虫」
「そんなの……仕方ないし……だって、嬉しくなる」
ハンカチを差し出されて、戸惑いながら寧々子は受けとった。
「あの時の大福の行動に、意味があった訳ですよね? 凪さんに会えるようにしてくれたのかも……」
「ただ星那が、会いたいって強く願った結果、夢に見たのかも知れない」
「そうだとしても、夢でもなんでも本物かもしれないですよね?」
「どうかな……」
「あの大福って、本当に妖とかじゃないんですよね? 妖怪とかは流石に見た事がなくて」
すっかり休憩モードになってしまう。課題は一通り済んでる事もあり、ここぞとばかりに、質問をしてみた。
「鴉間神社に、いつの間にか住みついてる猫だよ」
「いつの間にか? 年齢不詳」
「俺が、物心付いた時には傍にいたな」
「野良ちゃんだったんだ」
野良ちゃん、と寧々子が言うと、璃桜がプッと吹き出した。
「いや、あの。野良ちゃんって言い方が。おかしくて、ごめん。俺が小さい頃は、誰も大福を見る事も、触る事も出来なかったよ」
「やっぱり、妖なんじゃ?」
「そんな禍々しい感じのものじゃないんだ。俺も妖怪とかは知らない」
たぶん───
そう聞こえた。
何か思い出したのか、ふわりと笑う。優しい笑顔にドキリとする。
この、ドキリって感じは特に意味はない。気のせいだ。
目立つ容姿。
神社の息子。
超進学校の首席になるほどの頭脳。
嫌でも注目される人だからだ。
「たぶん?」
「うちの御神体のような気がする」
「御神体かぁ──って、鴉間神社の神様?」
「面白いよね。猫の姿でうろうろしてるとか」
「鴉じゃないんだ」
「そこ?」
「なんとなく、鴉の方かなって」
璃桜がブハッと吹き出した。
なんで璃桜そんなに笑うのか、ちょっとだけ寧々子はムッとする。
「ごめん、面白いな。でも気持ち悪くない? そう言う物が普通にそばにいて相手してるとか」
「うーん……神様の使いですよね? 可愛いハートつきの」
「それは、そうかもだけど」
「可愛いは、最強なんです」
ふふふと笑いが出る。
「気味の悪さとかないですよ。家に何故か来る手紙も……縁さん曰く巫女の家系かしら?程度です」
「普通、見えないものが見えれば、羨ましいより気味が悪いだろ。誰もいない所で驚いたり」
「そんなの、不可抗力でどうしようもないですから」
「黒猫も色々視える子だったから、そんなふうなんだ。最初から大福を追いかけてきたんだった」
「普通の猫だと思ってたのに、違うとか境が分からなくて本当に困ります」
「ああ、本当に」
自分には普通に視えるものが、クラスメイトとかには普通じゃなかった。
変な子。だから、隠して黙って普通にするだけ
それでも、手紙を届ける時は役に立てて嬉しい方が強かったのだ。
最近は、上手く出来ない事も多くて辞めたくなったけど。
私以上に視える人がいた。
きっと凛桜は、祓ったりも出来るんだろう。
「でも肝心な両親は視えなくて。本当になんの意味があるんだろう?って真面目に悩んだんです」
「最初に大福の事を信じてくれたのは、母親だったよ。優しい兄も父も、合わせてくれた。でも、ある日、兄がハートが可愛いねってそう言ったんだ」
「日向さんにも視えてたけど、大福だけっぽいですよね?」
「まあ、大福だけだね。きっかけは母親が死んでからだったんだ。なんとなくそう思ってる」
凛桜だけが視えていた大福が、日向にも視えるようになる。それは、母親が璃桜の事を思って何か……
凪と星那が会えたのが二人の思いの強さで、それに力を貸したのは大福と璃桜。
そんな璃桜を救ってる人が日向と、大福と亡くなった母親もだ。
ちょっとだけ羨ましい。
ほんの、ちょっとだけ……寂しさに包まれた。
「そんなの……仕方ないし……だって、嬉しくなる」
ハンカチを差し出されて、戸惑いながら寧々子は受けとった。
「あの時の大福の行動に、意味があった訳ですよね? 凪さんに会えるようにしてくれたのかも……」
「ただ星那が、会いたいって強く願った結果、夢に見たのかも知れない」
「そうだとしても、夢でもなんでも本物かもしれないですよね?」
「どうかな……」
「あの大福って、本当に妖とかじゃないんですよね? 妖怪とかは流石に見た事がなくて」
すっかり休憩モードになってしまう。課題は一通り済んでる事もあり、ここぞとばかりに、質問をしてみた。
「鴉間神社に、いつの間にか住みついてる猫だよ」
「いつの間にか? 年齢不詳」
「俺が、物心付いた時には傍にいたな」
「野良ちゃんだったんだ」
野良ちゃん、と寧々子が言うと、璃桜がプッと吹き出した。
「いや、あの。野良ちゃんって言い方が。おかしくて、ごめん。俺が小さい頃は、誰も大福を見る事も、触る事も出来なかったよ」
「やっぱり、妖なんじゃ?」
「そんな禍々しい感じのものじゃないんだ。俺も妖怪とかは知らない」
たぶん───
そう聞こえた。
何か思い出したのか、ふわりと笑う。優しい笑顔にドキリとする。
この、ドキリって感じは特に意味はない。気のせいだ。
目立つ容姿。
神社の息子。
超進学校の首席になるほどの頭脳。
嫌でも注目される人だからだ。
「たぶん?」
「うちの御神体のような気がする」
「御神体かぁ──って、鴉間神社の神様?」
「面白いよね。猫の姿でうろうろしてるとか」
「鴉じゃないんだ」
「そこ?」
「なんとなく、鴉の方かなって」
璃桜がブハッと吹き出した。
なんで璃桜そんなに笑うのか、ちょっとだけ寧々子はムッとする。
「ごめん、面白いな。でも気持ち悪くない? そう言う物が普通にそばにいて相手してるとか」
「うーん……神様の使いですよね? 可愛いハートつきの」
「それは、そうかもだけど」
「可愛いは、最強なんです」
ふふふと笑いが出る。
「気味の悪さとかないですよ。家に何故か来る手紙も……縁さん曰く巫女の家系かしら?程度です」
「普通、見えないものが見えれば、羨ましいより気味が悪いだろ。誰もいない所で驚いたり」
「そんなの、不可抗力でどうしようもないですから」
「黒猫も色々視える子だったから、そんなふうなんだ。最初から大福を追いかけてきたんだった」
「普通の猫だと思ってたのに、違うとか境が分からなくて本当に困ります」
「ああ、本当に」
自分には普通に視えるものが、クラスメイトとかには普通じゃなかった。
変な子。だから、隠して黙って普通にするだけ
それでも、手紙を届ける時は役に立てて嬉しい方が強かったのだ。
最近は、上手く出来ない事も多くて辞めたくなったけど。
私以上に視える人がいた。
きっと凛桜は、祓ったりも出来るんだろう。
「でも肝心な両親は視えなくて。本当になんの意味があるんだろう?って真面目に悩んだんです」
「最初に大福の事を信じてくれたのは、母親だったよ。優しい兄も父も、合わせてくれた。でも、ある日、兄がハートが可愛いねってそう言ったんだ」
「日向さんにも視えてたけど、大福だけっぽいですよね?」
「まあ、大福だけだね。きっかけは母親が死んでからだったんだ。なんとなくそう思ってる」
凛桜だけが視えていた大福が、日向にも視えるようになる。それは、母親が璃桜の事を思って何か……
凪と星那が会えたのが二人の思いの強さで、それに力を貸したのは大福と璃桜。
そんな璃桜を救ってる人が日向と、大福と亡くなった母親もだ。
ちょっとだけ羨ましい。
ほんの、ちょっとだけ……寂しさに包まれた。
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