23 / 32
リスタート
3.
しおりを挟む
「本当に泣き虫」
「そんなの……仕方ないし……だって、嬉しくなる」
ハンカチを差し出されて、戸惑いながら寧々子は受けとった。
「あの時の大福の行動に、意味があった訳ですよね? 凪さんに会えるようにしてくれたのかも……」
「ただ星那が、会いたいって強く願った結果、夢に見たのかも知れない」
「そうだとしても、夢でもなんでも本物かもしれないですよね?」
「どうかな……」
「あの大福って、本当に妖とかじゃないんですよね? 妖怪とかは流石に見た事がなくて」
すっかり休憩モードになってしまう。課題は一通り済んでる事もあり、ここぞとばかりに、質問をしてみた。
「鴉間神社に、いつの間にか住みついてる猫だよ」
「いつの間にか? 年齢不詳」
「俺が、物心付いた時には傍にいたな」
「野良ちゃんだったんだ」
野良ちゃん、と寧々子が言うと、璃桜がプッと吹き出した。
「いや、あの。野良ちゃんって言い方が。おかしくて、ごめん。俺が小さい頃は、誰も大福を見る事も、触る事も出来なかったよ」
「やっぱり、妖なんじゃ?」
「そんな禍々しい感じのものじゃないんだ。俺も妖怪とかは知らない」
たぶん───
そう聞こえた。
何か思い出したのか、ふわりと笑う。優しい笑顔にドキリとする。
この、ドキリって感じは特に意味はない。気のせいだ。
目立つ容姿。
神社の息子。
超進学校の首席になるほどの頭脳。
嫌でも注目される人だからだ。
「たぶん?」
「うちの御神体のような気がする」
「御神体かぁ──って、鴉間神社の神様?」
「面白いよね。猫の姿でうろうろしてるとか」
「鴉じゃないんだ」
「そこ?」
「なんとなく、鴉の方かなって」
璃桜がブハッと吹き出した。
なんで璃桜そんなに笑うのか、ちょっとだけ寧々子はムッとする。
「ごめん、面白いな。でも気持ち悪くない? そう言う物が普通にそばにいて相手してるとか」
「うーん……神様の使いですよね? 可愛いハートつきの」
「それは、そうかもだけど」
「可愛いは、最強なんです」
ふふふと笑いが出る。
「気味の悪さとかないですよ。家に何故か来る手紙も……縁さん曰く巫女の家系かしら?程度です」
「普通、見えないものが見えれば、羨ましいより気味が悪いだろ。誰もいない所で驚いたり」
「そんなの、不可抗力でどうしようもないですから」
「黒猫も色々視える子だったから、そんなふうなんだ。最初から大福を追いかけてきたんだった」
「普通の猫だと思ってたのに、違うとか境が分からなくて本当に困ります」
「ああ、本当に」
自分には普通に視えるものが、クラスメイトとかには普通じゃなかった。
変な子。だから、隠して黙って普通にするだけ
それでも、手紙を届ける時は役に立てて嬉しい方が強かったのだ。
最近は、上手く出来ない事も多くて辞めたくなったけど。
私以上に視える人がいた。
きっと凛桜は、祓ったりも出来るんだろう。
「でも肝心な両親は視えなくて。本当になんの意味があるんだろう?って真面目に悩んだんです」
「最初に大福の事を信じてくれたのは、母親だったよ。優しい兄も父も、合わせてくれた。でも、ある日、兄がハートが可愛いねってそう言ったんだ」
「日向さんにも視えてたけど、大福だけっぽいですよね?」
「まあ、大福だけだね。きっかけは母親が死んでからだったんだ。なんとなくそう思ってる」
凛桜だけが視えていた大福が、日向にも視えるようになる。それは、母親が璃桜の事を思って何か……
凪と星那が会えたのが二人の思いの強さで、それに力を貸したのは大福と璃桜。
そんな璃桜を救ってる人が日向と、大福と亡くなった母親もだ。
ちょっとだけ羨ましい。
ほんの、ちょっとだけ……寂しさに包まれた。
「そんなの……仕方ないし……だって、嬉しくなる」
ハンカチを差し出されて、戸惑いながら寧々子は受けとった。
「あの時の大福の行動に、意味があった訳ですよね? 凪さんに会えるようにしてくれたのかも……」
「ただ星那が、会いたいって強く願った結果、夢に見たのかも知れない」
「そうだとしても、夢でもなんでも本物かもしれないですよね?」
「どうかな……」
「あの大福って、本当に妖とかじゃないんですよね? 妖怪とかは流石に見た事がなくて」
すっかり休憩モードになってしまう。課題は一通り済んでる事もあり、ここぞとばかりに、質問をしてみた。
「鴉間神社に、いつの間にか住みついてる猫だよ」
「いつの間にか? 年齢不詳」
「俺が、物心付いた時には傍にいたな」
「野良ちゃんだったんだ」
野良ちゃん、と寧々子が言うと、璃桜がプッと吹き出した。
「いや、あの。野良ちゃんって言い方が。おかしくて、ごめん。俺が小さい頃は、誰も大福を見る事も、触る事も出来なかったよ」
「やっぱり、妖なんじゃ?」
「そんな禍々しい感じのものじゃないんだ。俺も妖怪とかは知らない」
たぶん───
そう聞こえた。
何か思い出したのか、ふわりと笑う。優しい笑顔にドキリとする。
この、ドキリって感じは特に意味はない。気のせいだ。
目立つ容姿。
神社の息子。
超進学校の首席になるほどの頭脳。
嫌でも注目される人だからだ。
「たぶん?」
「うちの御神体のような気がする」
「御神体かぁ──って、鴉間神社の神様?」
「面白いよね。猫の姿でうろうろしてるとか」
「鴉じゃないんだ」
「そこ?」
「なんとなく、鴉の方かなって」
璃桜がブハッと吹き出した。
なんで璃桜そんなに笑うのか、ちょっとだけ寧々子はムッとする。
「ごめん、面白いな。でも気持ち悪くない? そう言う物が普通にそばにいて相手してるとか」
「うーん……神様の使いですよね? 可愛いハートつきの」
「それは、そうかもだけど」
「可愛いは、最強なんです」
ふふふと笑いが出る。
「気味の悪さとかないですよ。家に何故か来る手紙も……縁さん曰く巫女の家系かしら?程度です」
「普通、見えないものが見えれば、羨ましいより気味が悪いだろ。誰もいない所で驚いたり」
「そんなの、不可抗力でどうしようもないですから」
「黒猫も色々視える子だったから、そんなふうなんだ。最初から大福を追いかけてきたんだった」
「普通の猫だと思ってたのに、違うとか境が分からなくて本当に困ります」
「ああ、本当に」
自分には普通に視えるものが、クラスメイトとかには普通じゃなかった。
変な子。だから、隠して黙って普通にするだけ
それでも、手紙を届ける時は役に立てて嬉しい方が強かったのだ。
最近は、上手く出来ない事も多くて辞めたくなったけど。
私以上に視える人がいた。
きっと凛桜は、祓ったりも出来るんだろう。
「でも肝心な両親は視えなくて。本当になんの意味があるんだろう?って真面目に悩んだんです」
「最初に大福の事を信じてくれたのは、母親だったよ。優しい兄も父も、合わせてくれた。でも、ある日、兄がハートが可愛いねってそう言ったんだ」
「日向さんにも視えてたけど、大福だけっぽいですよね?」
「まあ、大福だけだね。きっかけは母親が死んでからだったんだ。なんとなくそう思ってる」
凛桜だけが視えていた大福が、日向にも視えるようになる。それは、母親が璃桜の事を思って何か……
凪と星那が会えたのが二人の思いの強さで、それに力を貸したのは大福と璃桜。
そんな璃桜を救ってる人が日向と、大福と亡くなった母親もだ。
ちょっとだけ羨ましい。
ほんの、ちょっとだけ……寂しさに包まれた。
20
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
僕は君を思うと吐き気がする
月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる