21 / 32
リスタート
1.
しおりを挟む
璃桜の運転で、三人で海に行く事になった。
車の中で凪との思い出を語りながら笑い、時に涙ぐむ星那の話に耳を傾ける。
あんな見た目で、花が好きだったと言う凪の写真を見せてもらうと、璃桜より明るい髪色に驚いた。
「うわっ、金?銀色も混ざってるみたい」
日に焼けて笑っている。太陽みたいな人だ。
「すごいよね。潮焼けって髪の色素抜けたりするから、透明ぽい所があるんだよ」
「確かに、花が好きって感じに見えませんねって。失礼かな」
「毎週末毎に小さな花束を買ってきてくれたんだ」
「記念日とか関係なくですか?」
「──花を見ると、癒されるだろうって。買ってくるんだ。凪がいなくなってから、僕は一度も花を飾ってなかった。凪から、貰いたくて」
星那の幼少期をすこしだけ聞いてしまったあの日。それを支えていた凪。
「それって、星那さんの為だったのかもしれないですね」
「──うん。今更、気がついたよ。ずっと励ましてくれてたんだよね。これからは、僕が部屋に飾ろうって思ってる」
「星那が前向きになってくれて良かった」
「恥ずかしいけど、まだ涙が止まらなくなる時があるよ」
「そんなの、当たり前です」
「──それでさ、引越しを考えているんだ」
「え?」
「金銭面もそうだけど、姿を探してしまうから……変に囚われて駄目なんだ。そう言う諸々を凪に報告しようと思ってる」
星那が一歩、未来に向けて踏み出した。
璃桜が、柔らかく笑う。
「凪の事を忘れたりはしないけど、再出発をして元気なとこ見せないとね。花もこれからは飾るよ。似合わないけど。その方が凪が喜んでくれそうだから」
時間が過ぎても、この痛みは続くのだ。大切な人を思わない日は、きっと来ない。それでも、心が少しでも軽くなるのならと願わずにはいられない。
「海……まだ冷たいですかね?」
初夏で、暑さが少しづつ強く感じるような季節になっている。
それでも、水温はまだ上がってないはずだ。冷たい水底に思いを馳せる。
「冷たいだろうね……叶うなら、ご両親の元へ帰れたらいいのに」
「きっと会えたと思う」
「ふ、なんか璃桜が言うとさ……本当にそんな気がする。璃桜って不思議な感じがするんだよね」
「──神社の息子なんで」
そうだけど、そうじゃない。璃桜と日向では違う。外見を派手にしてると言う事ではない。星那も感じているのだと寧々子は思った。
「そう言うんじゃないけど、ミステリアス……? あまり、プライベートが分からないから。金髪も意味分からないし」
「お兄さん曰く、遅めの反抗期らしいですよ」
「えっ、マジ? 詳しく教えて」
「黒猫……課題増やすぞ」
家庭教師は、お試しから本採用になった。とにかく教え方が上手い。金額は縁が全く教えてくれないので、いつか出世払いをするつもりだ。
三人とも何となく無言になり、寧々子もしばらく車窓を眺めていた。
ようやく窓から海が見えるようになり、目的地までもう少しとカーナビの音声が聞こえる。
到着して駐車場から潮の香りがする方へと徒歩で進んでいく。
凪いだ海のせいでサーファーらしい人達は、早々に引き上げているようだ。
「凪……来たよ、もう少しで会えるかな」
そんな星那は、白い花束を抱えている。大切に抱え、時折話しかけているようだった。
気丈な星那は、止まる事なく先へ進んでいく。
ふと気がついて寧々子は、璃桜見る。
「璃桜……さん」
「星那には見えてない」
白い猫が、星那の後ろにいる。黒いハートの模様だ。
波がバシャバシャと音を立てている際までたどり着くと、星那が一度振り返った。
───花を海に投げ入れた。
「凪……やっと会いに来たよ」
手を合わせて拝む姿を見て、璃桜と寧々子も手を合わせた。
一度でいいから、夢でもいいから、凪と星那が会えますように。
そう祈る事しか、寧々子には出来ないのだから。
車の中で凪との思い出を語りながら笑い、時に涙ぐむ星那の話に耳を傾ける。
あんな見た目で、花が好きだったと言う凪の写真を見せてもらうと、璃桜より明るい髪色に驚いた。
「うわっ、金?銀色も混ざってるみたい」
日に焼けて笑っている。太陽みたいな人だ。
「すごいよね。潮焼けって髪の色素抜けたりするから、透明ぽい所があるんだよ」
「確かに、花が好きって感じに見えませんねって。失礼かな」
「毎週末毎に小さな花束を買ってきてくれたんだ」
「記念日とか関係なくですか?」
「──花を見ると、癒されるだろうって。買ってくるんだ。凪がいなくなってから、僕は一度も花を飾ってなかった。凪から、貰いたくて」
星那の幼少期をすこしだけ聞いてしまったあの日。それを支えていた凪。
「それって、星那さんの為だったのかもしれないですね」
「──うん。今更、気がついたよ。ずっと励ましてくれてたんだよね。これからは、僕が部屋に飾ろうって思ってる」
「星那が前向きになってくれて良かった」
「恥ずかしいけど、まだ涙が止まらなくなる時があるよ」
「そんなの、当たり前です」
「──それでさ、引越しを考えているんだ」
「え?」
「金銭面もそうだけど、姿を探してしまうから……変に囚われて駄目なんだ。そう言う諸々を凪に報告しようと思ってる」
星那が一歩、未来に向けて踏み出した。
璃桜が、柔らかく笑う。
「凪の事を忘れたりはしないけど、再出発をして元気なとこ見せないとね。花もこれからは飾るよ。似合わないけど。その方が凪が喜んでくれそうだから」
時間が過ぎても、この痛みは続くのだ。大切な人を思わない日は、きっと来ない。それでも、心が少しでも軽くなるのならと願わずにはいられない。
「海……まだ冷たいですかね?」
初夏で、暑さが少しづつ強く感じるような季節になっている。
それでも、水温はまだ上がってないはずだ。冷たい水底に思いを馳せる。
「冷たいだろうね……叶うなら、ご両親の元へ帰れたらいいのに」
「きっと会えたと思う」
「ふ、なんか璃桜が言うとさ……本当にそんな気がする。璃桜って不思議な感じがするんだよね」
「──神社の息子なんで」
そうだけど、そうじゃない。璃桜と日向では違う。外見を派手にしてると言う事ではない。星那も感じているのだと寧々子は思った。
「そう言うんじゃないけど、ミステリアス……? あまり、プライベートが分からないから。金髪も意味分からないし」
「お兄さん曰く、遅めの反抗期らしいですよ」
「えっ、マジ? 詳しく教えて」
「黒猫……課題増やすぞ」
家庭教師は、お試しから本採用になった。とにかく教え方が上手い。金額は縁が全く教えてくれないので、いつか出世払いをするつもりだ。
三人とも何となく無言になり、寧々子もしばらく車窓を眺めていた。
ようやく窓から海が見えるようになり、目的地までもう少しとカーナビの音声が聞こえる。
到着して駐車場から潮の香りがする方へと徒歩で進んでいく。
凪いだ海のせいでサーファーらしい人達は、早々に引き上げているようだ。
「凪……来たよ、もう少しで会えるかな」
そんな星那は、白い花束を抱えている。大切に抱え、時折話しかけているようだった。
気丈な星那は、止まる事なく先へ進んでいく。
ふと気がついて寧々子は、璃桜見る。
「璃桜……さん」
「星那には見えてない」
白い猫が、星那の後ろにいる。黒いハートの模様だ。
波がバシャバシャと音を立てている際までたどり着くと、星那が一度振り返った。
───花を海に投げ入れた。
「凪……やっと会いに来たよ」
手を合わせて拝む姿を見て、璃桜と寧々子も手を合わせた。
一度でいいから、夢でもいいから、凪と星那が会えますように。
そう祈る事しか、寧々子には出来ないのだから。
20
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる