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消えた君に
9.
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星那が一度部屋から出て、タオルを持ってきた。
それを、寧々子に渡した。
「寧々子さん。辛かったね。そうだよね。会えば余計に諦めきれなくなるかもね」
星那自身も、タオルを持っていて涙を拭きながら話している。
「星那は、大学でやりたい事あるだろ?その先の事もちゃんと考えてたし。友人も俺より多い。こんな事しか言えないけど、乗り越えて行けると思う」
「──それさえも、凪の後ろを追っかけてただけだよ。僕は……」
星那は少し躊躇い、言葉を詰まらせた。
「ただ、僕は……どうにかして、凪と離れなくていいようにしたかった。同じ大学、同じ夢。一緒に仕事が出来たら、この先もずっと親友みたいにそばにいてもいいんじゃないかって。好き……だったんだ。恋愛として」
「うん」
「凪は、刷り込みって心配してたけど……凪の家族には支えてもらってて。だけど、凪は特別だったんだ。男の人が好きって言うより凪だけが大好きだったんだよ」
「──素敵だと思います」
どれだけ凪が、星那を好きだったのか手紙で伝わった。
同性を好きだと簡単には、カミングアウトなんて出来ない。
凪だけを頼りにしてきた星那に、つけ込むようで不安だった事もわかる。思いが伝わるからこそ、寧々子は自分と比べてしまう。
「本当に凪さんは、星那さんを思ってきたんですね。私……子供の頃過ぎて、両親から愛されてたか分からない。手紙の存在を知ってから、ずっと待ってました」
涙がこぼれていく。
一番不安だった事を寧々子は言葉にした。
「お母さんも、お父さんも……私の事、好きじゃなかったのかもって」
「そんな訳ないだろ。黒猫なら、大丈夫って思ってたかも知れないし、縁さんにものすごく黒猫の事頼んで逝ったのかも知れない」
璃桜の言葉に、ほにゃりと笑うのがやっとだ。どんなに言葉で言われても、真実は分からないから怖いのだ。
「それは、わかんないけど。手紙は思いの塊だって縁さんは言ったの、だけど……もらえない人も実際沢山いるんだよ。星那さん、羨ましい」
「え……っと。寧々子ちゃん、そっか僕は、手紙が貰えただけ本当に幸せなのかもしれない」
「だろ」
「それでも、一目会いたい。会って言葉で伝えたい。なんで、後回しにしてたんだろう」
星那と凪は、伝える事が出来たのだ。
凪は、伝える覚悟をする為に賭けたのだ。
「本当、勝手だよ。簡単に次を応援するとか……最低」
凪の事を考える星那は、「最低」と言う言葉にも愛しさがある。
「手紙って、必要なんですかね? 一方通行なのに。それを渡す私達も、必要なのかな?」
「きっと、意味はある。星那が言うように勝手かも知れないけど、凪先輩にとっては必要だったんだ。彷徨ってしまわない為に」
「なんで、躊躇ったのかな? こんな急に別れが来るとか。素直になってたら良かったよね。失って気がついて、人に八つ当たりして……最低なの僕だ」
星那は鼻をすすり、そしてまた涙を拭いた。
「寧々子ちゃん、璃桜。僕が凪の死を受け入れられるように、一年間も手紙を待っててくれたのかな? 今度……さ。璃桜、海に付き合ってくれない?」
「いいよ。付き合う、車出すよ」
璃桜が了承して、星那は嬉しそうに笑った。
「寧々子ちゃんも凪に会いに一緒に来てくれる? 実は、怖くて凪の消えた海に一度も行ってないんだ。情けないけど、めちゃ泣くと思う。これからも何度も、きっと僕は泣くんだろうな」
「情けないなんて事ないです」
「消えてしまっても、凪先輩がそばにいた事は変わらないよ。ずっと星那を護ってくれる」
「───ありがとう」
星那の心が少しでも軽くなりますように。と、寧々子は願った。
それを、寧々子に渡した。
「寧々子さん。辛かったね。そうだよね。会えば余計に諦めきれなくなるかもね」
星那自身も、タオルを持っていて涙を拭きながら話している。
「星那は、大学でやりたい事あるだろ?その先の事もちゃんと考えてたし。友人も俺より多い。こんな事しか言えないけど、乗り越えて行けると思う」
「──それさえも、凪の後ろを追っかけてただけだよ。僕は……」
星那は少し躊躇い、言葉を詰まらせた。
「ただ、僕は……どうにかして、凪と離れなくていいようにしたかった。同じ大学、同じ夢。一緒に仕事が出来たら、この先もずっと親友みたいにそばにいてもいいんじゃないかって。好き……だったんだ。恋愛として」
「うん」
「凪は、刷り込みって心配してたけど……凪の家族には支えてもらってて。だけど、凪は特別だったんだ。男の人が好きって言うより凪だけが大好きだったんだよ」
「──素敵だと思います」
どれだけ凪が、星那を好きだったのか手紙で伝わった。
同性を好きだと簡単には、カミングアウトなんて出来ない。
凪だけを頼りにしてきた星那に、つけ込むようで不安だった事もわかる。思いが伝わるからこそ、寧々子は自分と比べてしまう。
「本当に凪さんは、星那さんを思ってきたんですね。私……子供の頃過ぎて、両親から愛されてたか分からない。手紙の存在を知ってから、ずっと待ってました」
涙がこぼれていく。
一番不安だった事を寧々子は言葉にした。
「お母さんも、お父さんも……私の事、好きじゃなかったのかもって」
「そんな訳ないだろ。黒猫なら、大丈夫って思ってたかも知れないし、縁さんにものすごく黒猫の事頼んで逝ったのかも知れない」
璃桜の言葉に、ほにゃりと笑うのがやっとだ。どんなに言葉で言われても、真実は分からないから怖いのだ。
「それは、わかんないけど。手紙は思いの塊だって縁さんは言ったの、だけど……もらえない人も実際沢山いるんだよ。星那さん、羨ましい」
「え……っと。寧々子ちゃん、そっか僕は、手紙が貰えただけ本当に幸せなのかもしれない」
「だろ」
「それでも、一目会いたい。会って言葉で伝えたい。なんで、後回しにしてたんだろう」
星那と凪は、伝える事が出来たのだ。
凪は、伝える覚悟をする為に賭けたのだ。
「本当、勝手だよ。簡単に次を応援するとか……最低」
凪の事を考える星那は、「最低」と言う言葉にも愛しさがある。
「手紙って、必要なんですかね? 一方通行なのに。それを渡す私達も、必要なのかな?」
「きっと、意味はある。星那が言うように勝手かも知れないけど、凪先輩にとっては必要だったんだ。彷徨ってしまわない為に」
「なんで、躊躇ったのかな? こんな急に別れが来るとか。素直になってたら良かったよね。失って気がついて、人に八つ当たりして……最低なの僕だ」
星那は鼻をすすり、そしてまた涙を拭いた。
「寧々子ちゃん、璃桜。僕が凪の死を受け入れられるように、一年間も手紙を待っててくれたのかな? 今度……さ。璃桜、海に付き合ってくれない?」
「いいよ。付き合う、車出すよ」
璃桜が了承して、星那は嬉しそうに笑った。
「寧々子ちゃんも凪に会いに一緒に来てくれる? 実は、怖くて凪の消えた海に一度も行ってないんだ。情けないけど、めちゃ泣くと思う。これからも何度も、きっと僕は泣くんだろうな」
「情けないなんて事ないです」
「消えてしまっても、凪先輩がそばにいた事は変わらないよ。ずっと星那を護ってくれる」
「───ありがとう」
星那の心が少しでも軽くなりますように。と、寧々子は願った。
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