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消えた君に

8.

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誰も何も話さない。

星那の嗚咽だけが、この空間を占めている。

星那が、一人取り残されたこの部屋で何を思っていたのだろう。

心の拠である凪が、居ない部屋。

突然、帰らぬ人となった両親。
あの頃の自分を寧々子は思い出した。

何故いないのか?
物言わぬ両親が白い箱に入っていた。

泣き喚いて、箱から出せって言ってた気がする。

ママ達を閉じ込めちゃやだって、泣いたんだっけ……寧々子は、胸の痛みを感じつつ星那を見た。

「───りお、う。何だよこれ。ねえ、璃桜。教えて。僕は、どうしたらっ」

「星那は……どうしたい?」

テーブルを避けて、璃桜のそばに来た星那が泣きながら、璃桜のシャツを掴んだ。

「璃桜は、璃桜なら……幽霊視える? これ、会いに来てくれないやつだろ? 成仏したってこと?」

「そうかもしれないが、分からない」

「最後に、一度でいいから……会わせて。僕は何も言葉にしてない。何も言ってないんだ。こんな、突然いなくなるとか」

胸が締め付けられていく。
言葉より、姿を求めてしまう。

誰だって、会いたい。
大切な人に。もう一度会えるとしたら、どんなにいいのだろう。

好きな人なら尚更だ。
でも、寧々子にはそんな力はない。

それに、会わせる事が出来たとして、それは余計に辛くなるのではないか?


ふと、大福なら……などと現実味のない事を考えてしまう。

「なんの……為の手紙? 凪の一方通行じゃん。僕の気持ちはお構い無しで、それで消えるとかないだろ。残された僕は、どうしたら」

返信出来ない……のだ。
凪は、このまま新しい輪廻の輪にいくのだと思う。

思いの全てを手紙に託したのだから。

「星那。会わない方がいいんだよ。視えない方がいい事もある」

「嫌だ」

「星那。聞いて。会えば、さらに欲が出る。お互いにだ。凪先輩は、地縛霊のように動けなくなる。最悪、悪霊のように永遠に彷徨うんだ」

星那の顔が歪んだ。

「それに、会えばそばに行きたくなるだろ? お前は一緒にこの世界から消えたくなる。自死を選んだら駄目なんだ」

「僕には、誰もいない。誰も。凪がいてくれたから、生きて来れたのに。ずっと帰りを待っていたのに」


「わ、私。私も、両親が事故で他界しました」

思わず、二人の会話に入った。

「私が五歳の頃に、飲酒運転のトラックが……」

「──黒猫ちゃん」
「家業の手紙屋を祖母から、習っている所です。こんな事してるけど……両親からの手紙はありません」

星那も璃桜も、こちらを見ている。

「いいじゃないですか。手紙だけでも。一方通行でも、凪さんは家族にじゃなくて、貴方だけに手紙を思いを伝えたかったんです。凪さんの心残りは、貴方ってことです。血の繋がりよりも、誰よりも貴方を選んだんですよ」

だから、母の手紙は縁か別の誰かが読んでいるのかもしれない。子供の私よりも大切な人がいただけ。

もしかしたら、さえなくて、手紙を必要と思わなかったかだ。

「──羨ましい。めちゃくちゃ、愛されてる。星那さんは、凪さんに。なんで、お母さんは……」

星那の為に手紙を渡しに来た。
何言ってるのか、訳が分からくなってる。

寧々子は星那が羨ましいのだ。
何より愛されていた手紙じっかんが欲しかったのだ。







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