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消えた君に

5.

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    璃桜と二人で会いに行く事になった。
道中、車内でポツリポツリと彼の話になった。

手紙の届ける先は、笹木 星那ささき せなと言う璃桜と同じ大学の人。

璃桜は、人と深くは関わらないようにしているのだとか。

今まで面倒なのに絡まれて来たから。距離を取ってるらしい。

それでも、星那は付き合い辛いであろう璃桜に、気安く関わって来た。

「海難事故の日は、星那の誕生日だったんだ」

そして、差出人は……間違いなく星那のルームメイトの円堂 凪えんどう なぎ

その事実を璃桜は、動揺する事なく受け入れているようだった。

顔は知っているが、先輩なので実際付き合いはなかったらしい。
先輩がこの世の人でなくなった事は、多分感覚として受け入れていたのだと思う。

寧々子は、チラリと璃桜の顔をみた。
きっと、今は星那の事でいっぱいなのだ。

手紙は思いの塊だと、寧々子は思っている。

映画やドラマのような恐ろしい物ではなく、積もり積もった愛情のような物。

恨み辛みは、どこかで浄化されていくのではないだろうか?

例えばお寺。神社。そういう場所で。

この思いだけは、届けてあげたい。そんな気持ちを組んでくれるによって。私のような手紙屋に所に届く。

誰かの代理。それでも、私は届けてあげたい。

星那は、受け入れてくれるのだろうか?



    璃桜と二人、星那と凪の部屋へ招かれる。
扉を開けた時、目を腫らしている星那の姿に、思わず怯んでしまった。

声をかけたのは、璃桜が先だった。


「星那、大丈夫か?」
「───なんとかね」

部屋は、一人で住むには広い。
さらに物がない部屋が見えた。

「凪……先輩の荷物、家族が引き取りに来た。それに……」
「それに?」

「一人で住むには、お金がかかり過ぎるだろうからって、引越し代金とか諸経費も渡されたんだ」

静かにこぼれ落ちる涙が、その思いの深さを伝えてくる。

「ひ、こし先……探す時間分まで、家賃も頂いたよ」

「星那は、ここから引越ししたくないんだな」

「あ、当たり前。ずっと、一緒で……先輩の物も、持ち帰るだけじゃなくて、捨てられる物もあって。もしかしたら、記憶を失くして何処かいるかも知れないじゃん。何かの理由で、帰れないとか……生きてたら? 生きてるのに死んだ事にされたら?」

星那は璃桜の肩に両手を置き、軽く揺さぶるようにして必死に訴える。

「遺体……見つかってないんだよ!璃桜だって、幽霊が見えてないなら、生きてるかもしれないだろ?」

寧々子はカバンの中の手紙をカバン事抱きしめる。

また、破られたら?
星那が、今以上に傷付いたらと不安に駆られる。

璃桜に八つ当たりをしないだろうか?

私が届けるべきだったのだろうか?
縁に任せるべきだったのではないか?

「星那。見てもらいたい物があるんだ。それは俺には出来ない。彼女にしか出来ないんだ」

「会わせたい子? この子が凪……から預かってる手紙を届けに来てくれたんだ」

嬉しそうな顔ではない。
鋭くて、怖い。怒っているように見える。

そばに来た璃桜が、寧々子の頭を撫でた。

「大丈夫だから」

その一言に、なんとか寧々子は頷いた。





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