16 / 32
消えた君に
5.
しおりを挟む
璃桜と二人で会いに行く事になった。
道中、車内でポツリポツリと彼の話になった。
手紙の届ける先は、笹木 星那と言う璃桜と同じ大学の人。
璃桜は、人と深くは関わらないようにしているのだとか。
今まで面倒なのに絡まれて来たから。距離を取ってるらしい。
それでも、星那は付き合い辛いであろう璃桜に、気安く関わって来た。
「海難事故の日は、星那の誕生日だったんだ」
そして、差出人は……間違いなく星那のルームメイトの円堂 凪。
その事実を璃桜は、動揺する事なく受け入れているようだった。
顔は知っているが、先輩なので実際付き合いはなかったらしい。
先輩がこの世の人でなくなった事は、多分感覚として受け入れていたのだと思う。
寧々子は、チラリと璃桜の顔をみた。
きっと、今は星那の事でいっぱいなのだ。
手紙は思いの塊だと、寧々子は思っている。
映画やドラマのような恐ろしい物ではなく、積もり積もった愛情のような物。
恨み辛みは、どこかで浄化されていくのではないだろうか?
例えばお寺。神社。そういう場所で。
この思いだけは、届けてあげたい。そんな気持ちを組んでくれる誰かによって。私のような手紙屋に所に届く。
誰かの代理。それでも、私は届けてあげたい。
星那は、受け入れてくれるのだろうか?
璃桜と二人、星那と凪の部屋へ招かれる。
扉を開けた時、目を腫らしている星那の姿に、思わず怯んでしまった。
声をかけたのは、璃桜が先だった。
「星那、大丈夫か?」
「───なんとかね」
部屋は、一人で住むには広い。
さらに物がない部屋が見えた。
「凪……先輩の荷物、家族が引き取りに来た。それに……」
「それに?」
「一人で住むには、お金がかかり過ぎるだろうからって、引越し代金とか諸経費も渡されたんだ」
静かにこぼれ落ちる涙が、その思いの深さを伝えてくる。
「ひ、こし先……探す時間分まで、家賃も頂いたよ」
「星那は、ここから引越ししたくないんだな」
「あ、当たり前。ずっと、一緒で……先輩の物も、持ち帰るだけじゃなくて、捨てられる物もあって。もしかしたら、記憶を失くして何処かいるかも知れないじゃん。何かの理由で、帰れないとか……生きてたら? 生きてるのに死んだ事にされたら?」
星那は璃桜の肩に両手を置き、軽く揺さぶるようにして必死に訴える。
「遺体……見つかってないんだよ!璃桜だって、幽霊が見えてないなら、生きてるかもしれないだろ?」
寧々子はカバンの中の手紙をカバン事抱きしめる。
また、破られたら?
星那が、今以上に傷付いたらと不安に駆られる。
璃桜に八つ当たりをしないだろうか?
私が届けるべきだったのだろうか?
縁に任せるべきだったのではないか?
「星那。見てもらいたい物があるんだ。それは俺には出来ない。彼女にしか出来ないんだ」
「会わせたい子? この子が凪……から預かってる手紙を届けに来てくれたんだ」
嬉しそうな顔ではない。
鋭くて、怖い。怒っているように見える。
そばに来た璃桜が、寧々子の頭を撫でた。
「大丈夫だから」
その一言に、なんとか寧々子は頷いた。
道中、車内でポツリポツリと彼の話になった。
手紙の届ける先は、笹木 星那と言う璃桜と同じ大学の人。
璃桜は、人と深くは関わらないようにしているのだとか。
今まで面倒なのに絡まれて来たから。距離を取ってるらしい。
それでも、星那は付き合い辛いであろう璃桜に、気安く関わって来た。
「海難事故の日は、星那の誕生日だったんだ」
そして、差出人は……間違いなく星那のルームメイトの円堂 凪。
その事実を璃桜は、動揺する事なく受け入れているようだった。
顔は知っているが、先輩なので実際付き合いはなかったらしい。
先輩がこの世の人でなくなった事は、多分感覚として受け入れていたのだと思う。
寧々子は、チラリと璃桜の顔をみた。
きっと、今は星那の事でいっぱいなのだ。
手紙は思いの塊だと、寧々子は思っている。
映画やドラマのような恐ろしい物ではなく、積もり積もった愛情のような物。
恨み辛みは、どこかで浄化されていくのではないだろうか?
例えばお寺。神社。そういう場所で。
この思いだけは、届けてあげたい。そんな気持ちを組んでくれる誰かによって。私のような手紙屋に所に届く。
誰かの代理。それでも、私は届けてあげたい。
星那は、受け入れてくれるのだろうか?
璃桜と二人、星那と凪の部屋へ招かれる。
扉を開けた時、目を腫らしている星那の姿に、思わず怯んでしまった。
声をかけたのは、璃桜が先だった。
「星那、大丈夫か?」
「───なんとかね」
部屋は、一人で住むには広い。
さらに物がない部屋が見えた。
「凪……先輩の荷物、家族が引き取りに来た。それに……」
「それに?」
「一人で住むには、お金がかかり過ぎるだろうからって、引越し代金とか諸経費も渡されたんだ」
静かにこぼれ落ちる涙が、その思いの深さを伝えてくる。
「ひ、こし先……探す時間分まで、家賃も頂いたよ」
「星那は、ここから引越ししたくないんだな」
「あ、当たり前。ずっと、一緒で……先輩の物も、持ち帰るだけじゃなくて、捨てられる物もあって。もしかしたら、記憶を失くして何処かいるかも知れないじゃん。何かの理由で、帰れないとか……生きてたら? 生きてるのに死んだ事にされたら?」
星那は璃桜の肩に両手を置き、軽く揺さぶるようにして必死に訴える。
「遺体……見つかってないんだよ!璃桜だって、幽霊が見えてないなら、生きてるかもしれないだろ?」
寧々子はカバンの中の手紙をカバン事抱きしめる。
また、破られたら?
星那が、今以上に傷付いたらと不安に駆られる。
璃桜に八つ当たりをしないだろうか?
私が届けるべきだったのだろうか?
縁に任せるべきだったのではないか?
「星那。見てもらいたい物があるんだ。それは俺には出来ない。彼女にしか出来ないんだ」
「会わせたい子? この子が凪……から預かってる手紙を届けに来てくれたんだ」
嬉しそうな顔ではない。
鋭くて、怖い。怒っているように見える。
そばに来た璃桜が、寧々子の頭を撫でた。
「大丈夫だから」
その一言に、なんとか寧々子は頷いた。
20
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。
さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。
許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。
幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。
(ああ、もう、)
やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。
(ずるいよ……)
リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。
こんな私なんかのことを。
友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。
彼らが最後に選ぶ答えとは——?
⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。
⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
たとえ世界に誰もいなくなっても、きみの音は忘れない
夕月
ライト文芸
初夏のある日、蓮は詩音という少女と出会う。
人の記憶を思い出ごと失っていくという難病を抱えた彼女は、それでも明るく生きていた。
いつか詩音が蓮のことを忘れる日が来ることを知りながら、蓮は彼女とささやかな日常を過ごす。
だけど、日々失われていく彼女の記憶は、もう数えるほどしか残っていない。
病を抱えながらもいつも明るく振る舞う詩音と、ピアノ男子 蓮との、忘れられない――忘れたくない夏の話。
作中に出てくる病気/病名は、創作です。現実の病気等とは全く異なります。
第6回ライト文芸大賞にて、奨励賞をいただきました。ありがとうございます!
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる