手紙屋 ─ending letter─【完結】

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
8 / 32
手紙屋☆伝えたい想い

6.

しおりを挟む
「ん……」
 三葉が身じろぐと、大福がソファを降りて寧々子の方にやって来た。
 一度お座りをして、ジッと見つめて来る。大福と目を合わせていると、二人の会話が聞こえてきた。

「三葉」
「おかあ……さん? どうして?」
「倒れてたの。鴉間神社の方が、様子がおかしいから直ぐに来て欲しいって連絡があったの」

「そ……なん、だ。あっ、四葉ちゃんの」
「四葉のなら来てくれてるわよ。偶然にも神社の方とお知り合いみたいで。お若いのに、信心深いのね」

「四葉ちゃんのお友達……? 手紙……さんじゃなくて、友達? 」

 三葉が確認するように呟いている。

 手紙屋の私が、四葉の友達になってる? 璃桜を見たら、唇に人差し指を一瞬あてていた。

「そっか……そうだった。四葉ちゃんの手紙……破ったの私だ」

「倒れて混乱したのかしら? そっか。四葉からの手紙をやぶっちゃったのね」

 既にこの世にいない娘からの手紙だ。生きてる時に書いたものと思ったとしても、気にならないはずはない。

娘の遺した手紙ものなのだから。
それでも、三葉が傷つかない事を優先しているのだろう。

 四葉が三葉にだけ届けたかったからか、母親にまでその効果が薄いのかも知れない。
全部寧々子の想像に過ぎない。
ここに璃桜が駆けつけて来た理由は、あの時手紙に触れたからだろうか?
そんな風に思ってしまう。

 璃桜は、視えるだけじゃなくて何か力があるのかな?
全部終わったら、何でここに来たのか直接話したい。

だって、が分かったから、璃桜は来てくれたはずだ。

今は璃桜の話に合わせないと、この変な状況だと私達が不審者になってしまう。

 じっとしていた大福が飛び上がって、膝に乗ってきた。

「うわっ」
 見た目のふくよかさとは違って軽くストンと収まる。

「大福が……」

「えっ大福? あらごめんなさい。お腹すいたわよね? お茶の一つも気が利かなくて、ちょっと待っててね」
立ち上がってカウンターキッチンの方へ行ってしまった。

この隙に少し璃桜の方に顔を寄せて、小声で確認をする事にした。

「り、璃桜さん? 大福って皆に見えてないんですか?」
「まあ、普通の人には見えないな」

「え、嘘でしょう?お兄さん猫を抱っこしてたのに」
「へぇ、そんな風に兄貴の事見てたんだ」

「だって、妖じゃないって。それにお兄さんは手紙見えてなかったから、猫は本物だと思って……」

自分には、はっきり視えてしまうから、境が分からないのだ。
生きている存在なのか、別なのか。

 突然、ペロリと頬を舐められる。
手紙を持っている手の上を前足でふみふみされ始めた。
「えっ、え? ちょっと何してるの?」

「単なる猫の気まぐれかも知れない。黒猫を気にいったとか?」

「その、黒猫呼びって」
「名前から、友達にそう呼ばれたりしない?」
「ないです」

璃桜の視線がスっと下がった。彼の指の示す先を追う。

「終わったみたいだ。──手紙元に戻ってるよ」

破れた封筒綺麗に戻っていた。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...