手紙屋 ─ending letter─【完結】

Shizukuru

文字の大きさ
上 下
24 / 32
リスタート

4.

しおりを挟む
相変わらずの日々の中で、黒須家に璃桜は馴染んでしまった。

家庭教師の日は、夕食を自然と一緒に取ったりと自然と会話も増えた。だんだんと璃桜の人となりを理解していく。

璃桜が来ると縁も嬉しそうだ。しかも今日は、大福までいる。

「手紙が来てるのが、分かったのかな?」
「黒猫が届けに行くの?」

「ん……分からない。ちょっと縁さんが悩んでて。何となく、いつもの縁さんぽくないから。私のテストが近いせいだけならいいけど」

つまりはコーヒーブレイク中。

「テスト。なるほど」
「リアルも大事なので」

「だな」
「でも、なるべく早く届けてあげたい。縁さんの都合が悪いなら、全然行くんだけど」

「だけど?」
「なんか、縁さんの態度が気になって」

「黒猫に任せられない案件なのか?」

「大福がここにいる時点で嫌な予感しかしない……」
「なんでだよ。会えたら幸せな猫だと思うけど」

璃桜が、悪戯っぽく笑う。
寧々子にしてみたら逆だ。今までの様子が思い出されて、不甲斐なくなるのだから仕方ない。

「それに黒猫……思ってたより泣き虫だしな。色々心配して来てくれたんだよ」

「泣き虫は、大きなお世話です」
母親からの手紙がない事で泣いてしまった。
今思うと、恥ずかし過ぎてその辺りの話は避けたい。

「素直で可愛かったけど?」

顔が熱い。泣き顔が可愛いみたいな感じの事さらって言われて心の中で毒づいた。
(ぎゃー、忘れてよぉぉぉ)

そんな寧々子の内心とは別で、スッと璃桜が真顔になる。

「黒猫は、この先も手紙屋を続けるの?」
「このエリアの跡継ぎは、私だけだからそのつもり……だよ」

「──縁さんが、居なくなっても?」
「あ……」
思わず、手に力が入ってカップが揺れた。手元に紅茶がかかってしまう。

「手、平気?冷やそう」
璃桜が慌てて、寧々子の手からカップを取り手を握り火傷をしてないか確認をする。

「う、うん。平気。だいぶ冷めてきてたから。そんなに熱くなかった」


紅茶がかかった事よりも、『縁がいなくなる』の一言の方の動揺が酷い。

いつかは、そんな日がくる。

寧々子には、他に身内も親戚もいない。

「ごめん。この先も続けるのか気になっただけで」
「そうですよね。でも、ほら縁さんは、めちゃ若いから……大丈夫」

ガタ、ドタンと大きな音がした。

「え?何」
「大福?」
大福がトトトトと素早く隣りに向かう。

「縁さん?」
璃桜が、慌てて縁の部屋に向かった。

「縁さん、ドア開けますよ?」

寧々子が、璃桜と一緒に部屋に入った時、倒れている縁が見えた。

「縁さん!!」
「落ち着いて、大丈夫。救急車を呼ぶから」

縁が居なくなったら……。
手を握り、「縁さん」と寧々子は呼び続ける。
璃桜が意識確認をして、てきぱきと動いてくれているが、寧々子は何も出来ず動けない。

救急車の音がやっと聞こえて来た。

「大丈夫だから」

病院の待合室で、追いかけて来てくれた璃桜と合流した。
さらに遅れて日向まで来てくれた。


意識が戻った縁は、過労と貧血、しばらく念の為の検査入院となった。

そして、寧々子はその間、鴉間家にお世話になる事になったのだ。



















しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。 ⚠️不倫等を推奨する作品ではないです。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...