手紙屋 ─ending letter─【完結】

Shizukuru

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手紙屋☆伝えたい想い

2.

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 今日は届け先の場所の確認をする予定だった。
取り返した手紙はカバンに入れてある。目的地付近をキョロキョロすると似た感じの戸建てが並ぶ中、可愛らしい洋館のローマ字で書かれたネームプレートを確認した。
花壇に綺麗な花が咲いている。カーテンは閉じているから今日はいないのだなと、不審者にならないようゆっくりと横切った。

「ここで間違いなさそう」

 『週末この手紙を届けに来ますね』と心の中で寧々子は呟く。

不思議な事に、会う約束のようなものはと言う意思となって成立する。

『神様の言う通りって感じなのよねぇ』
もう疑問にも思わなくなったわと、縁が微笑んでいた事を思い出した。

ある意味日常の一つで、危険を感じている様子もない。
『今回も寧々子がいいわ』のひと言で、寧々子の担当になっただけ。

「神社の息子に怪しいと思われたけど、縁さんが私がいいと言ったんだから……危険な事が起きるわけない」
 きっと大丈夫、少し言い聞かせるように今度は小さく呟く。

 どうしても伝えたい想いなのだ、それを伝えないままに祓うとかありえない。

その想いは切なくて苦しいものが多い気がする。闘病した先に大切な人を残して逝ってしまった事、突然の事故で散ってしまった人達は、どれだけ後悔したのか。未練に悔しい涙を流したのか。

ただ愛を思いっきり伝えたい人もいる。いずれにしても、ここを通らないと先へと進めない魂があるのだ。
 
   もちろん何の未練もない人もいる。死者になってしまった以上生きてる人達に干渉したくない人達だ。

「薄情者……」
寧々子自身もずっと待っている。でも、もうそろそろ現実を受け入れろってことかな。
追いかけたり寄り道してしまったせいで、帰りが遅くなってしまった。

「ああ……もう。走ろう」
寧々子は、気持ちが沈みそうになるのを誤魔化すように、家までの帰り道を走り出す。

 (──お母さん。私、縁さんの手紙屋の仕事手伝ってるんだよ。私に手紙が届かないのは、私の事心配じゃなかったって事? )

 コーヒーの香りの線香を、ろうそくの先端にかざす。
『コーヒーが好きだったのよ』
縁が時々ははの事を思い出したように呟くのだ。その度に忘れないように心にしまう。

 まさか、両親が二人ともいっぺんに事故で亡くなるなど思いもしない。まだ五歳だったのだ。
両親を亡くした後、縁の存在はありがたかった。父には身寄りがなくて、婿養子だったと聞いている。

だから身内は縁ただ一人なのだ。

 仕事も在宅ワークがメインで、仕事部屋にはPCやらモニターがやたらと配置してある。本当に何でもこなす格好いい人なのだ。
学費は、娘夫婦からの保険があるから心配しなくていいと言われている。それでも、生きていく為には資格はたくさん欲しくて、お下がりのPCで勉強もしている。

いつ一人になるか分からないのだから。

 大体家業だからと言って、手紙屋の仕事で生きて行ける訳ではない。ちょっとした運が巡るらしい。なら、どうして両親は死んでしまったのか? そんな事ばかり最初は考えていた時期もある。

「私の日常も変だからなのかな? まともな人が、周りに寄ってこないとか言わないよね」

 PCで色々検索していると、隠し撮りされたような写真を拾う事が出来た。マスクをしてない写真は目元をスタンプで隠されている。
 名前は隠されていても、彼に会ってしまったから彼だと分かってしまう。鴉間からすま  璃桜りおうと言う人は帝都大に現役で合格した秀才だった。
 金髪……にカラーコンタクト。何よりも耳のピアスがすごい。

 ヤンキーかと思ったけど、高校も有名な進学校を首席で卒業していた。その頃は真っ黒の髪だったみたい。

遅く来た反抗期とか、大学で羽目を外したって璃桜の兄は言っていた。 

その兄は、黒髪黒目で穏やかな印象の人だ。神職につく為の大学を出て、実家で仕事をしている。

霊的な能力だけなら、璃桜の方が神職に向いているように思う。それなのにその道に行かなかったのは、何か理由があるのかもしれない。

 まぁ……私には、関係ない話だと、寧々子は、目まぐるしい今日の事を振り返っていた。

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