【本編完結】イケメンの皆様、主人公はあちらですよ。

Shizukuru

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chocolate 前編

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チョコレートは媚薬と同じ。
感覚が麻痺して、理性は溶けて……どろどろに堕ちていく。堕ちた先に、至福に包まれる。そんな感覚。

甘い。甘い。チョコの記憶。

ちがう。のチョコが危険なだけ。自分でも淫乱なんじゃないかってくらい。乱れてしまうから。
夜を思い出して、羞恥に頬が染まっていく。

あつ
パタパタと手で顔を仰ぎながら、平常心平常心と唱えた。

だから、今回は…普通のチョコレートを自分で作るんだ。
チョコの材料は、手に入れたから大丈夫。それにアーモンドに似た実をつける木も見つけたから。それをこっそり取りに行く。

「アル……喜んでくれるかな?」

キョロキョロして、誰もいないのを確認する。

「──フェル、きて」
空間が歪み、フェルが現れた。僕の胸に飛び込んできた。尻尾が、ちぎれそう。音も聞こえそうなくらいブンブンと振ってくれる。

「かわいいフェル……ね、今日はロッテルの木に連れてって。この邸内の人にバレちゃだめだよ?」

少し中型の狼姿になってくれた。小ぶりの時は、可愛いけど。今は野性的な雰囲気に変わった。背中に乗り少し長めの首まわりの毛を掴んだ。瞬時に歪んだ空間の中へと飛び込んで行く。時間にして僅か数分。ぐらぐらと目が回りそうになった。フォレストから距離がある。加護付きとは言え、精霊たちに護られた場所では無いから空気が澱んでいるように感じる。だからかな、ちょっときつい。

もう少しで国境。この先は乾いた痩せた土地が多いサハルト国だ。辺境の地。風が吹くと寒い。

森の終わりのような丘に木の実がなる木が点在している。フォレストは、加護の強い土地だから、欲しがる国は多いんだ。長居し過ぎないようにしよう。なるべく早く収穫しなければ。

「フェル。お願い」
木の実を取るのに、フェルが前足で幹を蹴って揺らすとバラバラと実が落ちて来た。
それを集めて袋に詰めていく。
これで足りるかな?スピカにもあげようかな?


「そこで何をしている?」
後ろから声が聞こえた。この声?慌てて振り返る。
金色の髪が少しフードからはみ出ている。

「───レグルス、殿下」
柔らかく笑った殿下が、従者をその場に残して近づいて来た。何故か従者の二人は真っ赤になっている。フードで暑いのかな?それに従者が2人だけなんてお忍びで来ているのかな?

「やっぱり、ルナだ」
ますます、格好良くなってて色気増し増しだ。

「あ、もしかして、ここは今立ち入り禁止に指定されたのですか?」
確かに辺境だし、でも盗賊とか出たって話はあんまり聞かないけれど。

「ルナ。ここだと、精霊の加護はあまり受けられないだろう?アルやシリウスに止められなかったのか?」

「──内緒で来たので」

「加護をあまり過信したら、だめだよ?ルナは目立つから危険だ。でもどうしてこんな所まで?」
相変わらず、優しい。
「すみません。自分で集めたかったので。これ、食材なんです。チョコに入れたら食感が変わって美味しくなるのですよ。この辺りにしか、実らないみたいです」

「上手いのか?スピカといい、ルナといい。チョコの日用なのだろう?まあ、おかげで我が国にも名産が出来たがな」

そうなんだよね。バレンタインデーなんて伝わらないし。チョコは貴族の嗜好品だった。誕生日を祝う認識があまりないので、この月生まれた人といった括りだ。
だから、愛を伝えるチョコの日は、貴族より平民により広く伝わって今では恒例行事だ。
アーモンドの実に似ているからきっと美味しくなるはずだ。

「乾燥させて、砕いてチョコに混ぜると美味しくなりますよ」

「出来たら俺にもくれるかい?」
「はい。ぜひ食べて下さいね」
そんな、約束をして帰ってきたんだ。




一口食べるとカリカリと音がする。
ん~おいし。スピカ喜ぶよね。
これをスピカとシス兄と約束してるレグルス殿下に渡さないといけない。
アルのも用意して。媚薬は困るから、アルにちょっとだけ良いお酒を準備しておこう。アルは酔わないもんね。

チョコの日でこの時期は、片想いが実っていくんだよね。皆幸せそうでいいな。シス兄も、幸せになって欲しいな。レグルス殿下もまだ、独り身なんだよね。友チョコ渡しやすいからいいけど、もし誰かにチョコ貰ってたら、従者さん経由にした方がいいかな?邪魔したくないよね。

あ。
「ユーリー」
ユーリが、振り返る。ずっと、仕えてくれてるユーリにもお試しあげなきゃ。

「ルナ様どうしましたか?何か問題でも?」
「違うよ。これ、いつもありがとう」
小さな箱を差し出すと、不思議そうにユーリが受け取った。

「こ、これは……まさか」
「チョコを作ったからお裾分けだよ。みんなの分までないから、内緒ね」

手を振って別れる。なんか、固まってるけどいつもの事だから大丈夫かな?

ディーネ様に付き添ってもらって、王都に行き殿下にもチョコを渡してこよう。





★★★
明日、後編R回になります。




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