126 / 129
時々イベント更新
chocolate 前編
しおりを挟む
チョコレートは媚薬と同じ。
感覚が麻痺して、理性は溶けて……どろどろに堕ちていく。堕ちた先に、至福に包まれる。そんな感覚。
甘い。甘い。チョコの記憶。
ちがう。スピカのチョコが危険なだけ。自分でも淫乱なんじゃないかってくらい。乱れてしまうから。
夜を思い出して、羞恥に頬が染まっていく。
「熱」
パタパタと手で顔を仰ぎながら、平常心平常心と唱えた。
だから、今回は…普通のチョコレートを自分で作るんだ。
チョコの材料は、手に入れたから大丈夫。それにアーモンドに似た実をつける木も見つけたから。それをこっそり取りに行く。
「アル……喜んでくれるかな?」
キョロキョロして、誰もいないのを確認する。
「──フェル、きて」
空間が歪み、フェルが現れた。僕の胸に飛び込んできた。尻尾が、ちぎれそう。音も聞こえそうなくらいブンブンと振ってくれる。
「かわいいフェル……ね、今日はロッテルの木に連れてって。この邸内の人にバレちゃだめだよ?」
少し中型の狼姿になってくれた。小ぶりの時は、可愛いけど。今は野性的な雰囲気に変わった。背中に乗り少し長めの首まわりの毛を掴んだ。瞬時に歪んだ空間の中へと飛び込んで行く。時間にして僅か数分。ぐらぐらと目が回りそうになった。フォレストから距離がある。加護付きとは言え、精霊たちに護られた場所では無いから空気が澱んでいるように感じる。だからかな、ちょっときつい。
もう少しで国境。この先は乾いた痩せた土地が多いサハルト国だ。辺境の地。風が吹くと寒い。
森の終わりのような丘に木の実がなる木が点在している。フォレストは、加護の強い土地だから、欲しがる国は多いんだ。長居し過ぎないようにしよう。なるべく早く収穫しなければ。
「フェル。お願い」
木の実を取るのに、フェルが前足で幹を蹴って揺らすとバラバラと実が落ちて来た。
それを集めて袋に詰めていく。
これで足りるかな?スピカにもあげようかな?
「そこで何をしている?」
後ろから声が聞こえた。この声?慌てて振り返る。
金色の髪が少しフードからはみ出ている。
「───レグルス、殿下」
柔らかく笑った殿下が、従者をその場に残して近づいて来た。何故か従者の二人は真っ赤になっている。フードで暑いのかな?それに従者が2人だけなんてお忍びで来ているのかな?
「やっぱり、ルナだ」
ますます、格好良くなってて色気増し増しだ。
「あ、もしかして、ここは今立ち入り禁止に指定されたのですか?」
確かに辺境だし、でも盗賊とか出たって話はあんまり聞かないけれど。
「ルナ。ここだと、精霊の加護はあまり受けられないだろう?アルやシリウスに止められなかったのか?」
「──内緒で来たので」
「加護をあまり過信したら、だめだよ?ルナは目立つから危険だ。でもどうしてこんな所まで?」
相変わらず、優しい。
「すみません。自分で集めたかったので。これ、食材なんです。チョコに入れたら食感が変わって美味しくなるのですよ。この辺りにしか、実らないみたいです」
「上手いのか?スピカといい、ルナといい。チョコの日用なのだろう?まあ、おかげで我が国にも名産が出来たがな」
そうなんだよね。バレンタインデーなんて伝わらないし。チョコは貴族の嗜好品だった。誕生日を祝う認識があまりないので、この月生まれた人といった括りだ。
だから、愛を伝えるチョコの日は、貴族より平民により広く伝わって今では恒例行事だ。
アーモンドの実に似ているからきっと美味しくなるはずだ。
「乾燥させて、砕いてチョコに混ぜると美味しくなりますよ」
「出来たら俺にもくれるかい?」
「はい。ぜひ食べて下さいね」
そんな、約束をして帰ってきたんだ。
一口食べるとカリカリと音がする。
ん~おいし。スピカ喜ぶよね。
これをスピカとシス兄と約束してるレグルス殿下に渡さないといけない。
アルのも用意して。媚薬は困るから、アルにちょっとだけ良いお酒を準備しておこう。アルは酔わないもんね。
チョコの日でこの時期は、片想いが実っていくんだよね。皆幸せそうでいいな。シス兄も、幸せになって欲しいな。レグルス殿下もまだ、独り身なんだよね。友チョコ渡しやすいからいいけど、もし誰かにチョコ貰ってたら、従者さん経由にした方がいいかな?邪魔したくないよね。
あ。
「ユーリー」
ユーリが、振り返る。ずっと、仕えてくれてるユーリにもお試しあげなきゃ。
「ルナ様どうしましたか?何か問題でも?」
「違うよ。これ、いつもありがとう」
小さな箱を差し出すと、不思議そうにユーリが受け取った。
「こ、これは……まさか」
「チョコを作ったからお裾分けだよ。みんなの分までないから、内緒ね」
手を振って別れる。なんか、固まってるけどいつもの事だから大丈夫かな?
ディーネ様に付き添ってもらって、王都に行き殿下にもチョコを渡してこよう。
★★★
明日、後編R回になります。
感覚が麻痺して、理性は溶けて……どろどろに堕ちていく。堕ちた先に、至福に包まれる。そんな感覚。
甘い。甘い。チョコの記憶。
ちがう。スピカのチョコが危険なだけ。自分でも淫乱なんじゃないかってくらい。乱れてしまうから。
夜を思い出して、羞恥に頬が染まっていく。
「熱」
パタパタと手で顔を仰ぎながら、平常心平常心と唱えた。
だから、今回は…普通のチョコレートを自分で作るんだ。
チョコの材料は、手に入れたから大丈夫。それにアーモンドに似た実をつける木も見つけたから。それをこっそり取りに行く。
「アル……喜んでくれるかな?」
キョロキョロして、誰もいないのを確認する。
「──フェル、きて」
空間が歪み、フェルが現れた。僕の胸に飛び込んできた。尻尾が、ちぎれそう。音も聞こえそうなくらいブンブンと振ってくれる。
「かわいいフェル……ね、今日はロッテルの木に連れてって。この邸内の人にバレちゃだめだよ?」
少し中型の狼姿になってくれた。小ぶりの時は、可愛いけど。今は野性的な雰囲気に変わった。背中に乗り少し長めの首まわりの毛を掴んだ。瞬時に歪んだ空間の中へと飛び込んで行く。時間にして僅か数分。ぐらぐらと目が回りそうになった。フォレストから距離がある。加護付きとは言え、精霊たちに護られた場所では無いから空気が澱んでいるように感じる。だからかな、ちょっときつい。
もう少しで国境。この先は乾いた痩せた土地が多いサハルト国だ。辺境の地。風が吹くと寒い。
森の終わりのような丘に木の実がなる木が点在している。フォレストは、加護の強い土地だから、欲しがる国は多いんだ。長居し過ぎないようにしよう。なるべく早く収穫しなければ。
「フェル。お願い」
木の実を取るのに、フェルが前足で幹を蹴って揺らすとバラバラと実が落ちて来た。
それを集めて袋に詰めていく。
これで足りるかな?スピカにもあげようかな?
「そこで何をしている?」
後ろから声が聞こえた。この声?慌てて振り返る。
金色の髪が少しフードからはみ出ている。
「───レグルス、殿下」
柔らかく笑った殿下が、従者をその場に残して近づいて来た。何故か従者の二人は真っ赤になっている。フードで暑いのかな?それに従者が2人だけなんてお忍びで来ているのかな?
「やっぱり、ルナだ」
ますます、格好良くなってて色気増し増しだ。
「あ、もしかして、ここは今立ち入り禁止に指定されたのですか?」
確かに辺境だし、でも盗賊とか出たって話はあんまり聞かないけれど。
「ルナ。ここだと、精霊の加護はあまり受けられないだろう?アルやシリウスに止められなかったのか?」
「──内緒で来たので」
「加護をあまり過信したら、だめだよ?ルナは目立つから危険だ。でもどうしてこんな所まで?」
相変わらず、優しい。
「すみません。自分で集めたかったので。これ、食材なんです。チョコに入れたら食感が変わって美味しくなるのですよ。この辺りにしか、実らないみたいです」
「上手いのか?スピカといい、ルナといい。チョコの日用なのだろう?まあ、おかげで我が国にも名産が出来たがな」
そうなんだよね。バレンタインデーなんて伝わらないし。チョコは貴族の嗜好品だった。誕生日を祝う認識があまりないので、この月生まれた人といった括りだ。
だから、愛を伝えるチョコの日は、貴族より平民により広く伝わって今では恒例行事だ。
アーモンドの実に似ているからきっと美味しくなるはずだ。
「乾燥させて、砕いてチョコに混ぜると美味しくなりますよ」
「出来たら俺にもくれるかい?」
「はい。ぜひ食べて下さいね」
そんな、約束をして帰ってきたんだ。
一口食べるとカリカリと音がする。
ん~おいし。スピカ喜ぶよね。
これをスピカとシス兄と約束してるレグルス殿下に渡さないといけない。
アルのも用意して。媚薬は困るから、アルにちょっとだけ良いお酒を準備しておこう。アルは酔わないもんね。
チョコの日でこの時期は、片想いが実っていくんだよね。皆幸せそうでいいな。シス兄も、幸せになって欲しいな。レグルス殿下もまだ、独り身なんだよね。友チョコ渡しやすいからいいけど、もし誰かにチョコ貰ってたら、従者さん経由にした方がいいかな?邪魔したくないよね。
あ。
「ユーリー」
ユーリが、振り返る。ずっと、仕えてくれてるユーリにもお試しあげなきゃ。
「ルナ様どうしましたか?何か問題でも?」
「違うよ。これ、いつもありがとう」
小さな箱を差し出すと、不思議そうにユーリが受け取った。
「こ、これは……まさか」
「チョコを作ったからお裾分けだよ。みんなの分までないから、内緒ね」
手を振って別れる。なんか、固まってるけどいつもの事だから大丈夫かな?
ディーネ様に付き添ってもらって、王都に行き殿下にもチョコを渡してこよう。
★★★
明日、後編R回になります。
5
お気に入りに追加
5,768
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています
八神紫音
BL
魔道士はひ弱そうだからいらない。
そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。
そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、
ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる