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第9章☆アルとルナ
4ダンス特訓①
しおりを挟むディオは、根気強く丁寧に僕に指導していく。
それは、申し訳ないくらいに。
学園でも従者として、僕の側にいてその都度必要な事を教えてくれる。2人の時はグランデ語、もちろんアルともグランデ語で話して確認を取っていく。
姿勢、会話の時の視線、挨拶、食事の作法、細かくて……普段使わない筋肉を使うのか筋肉痛で。
「間に合うかな……」
そんな、呟きを聞かれていた。
「大丈夫、綺麗に出来てきてますよ」
ニコッと笑った。
「はい。最初からやって見ましょう!」
──鬼だ。
日常的なものから社交の場合等、細かい指導に慣れてきた頃、ダンスの練習が週末に本格的に始まった。
カストル様のローランド別邸を借りる事になったのは、スピカがダンスを苦手にしているから。ダンスの練習場もあるし、寮からも近い。
スピカの目標は卒業パーティーでのダンスだ。
僕達がいたら、逃げ回るスピカも刺激を受けて頑張るはずって事みたい。もちろん、グランデ語(王族が使う方をメインに)を学びたいカストル様の知識欲も大きい。
レグルス殿下やシリウス兄様まで、グランデ国の王族との交流を兼ねて、学びの場として参加してきた。
僕の下手なダンスを本当は見に来たとか?じゃないよね?
子供頃から習ってたから、環境的にもスピカよりは上手だと思う。
思うけど。リードのおかげかも知れない、自分で出来てたと勘違いしてたのかもって位、今はぎこちない。
とにかく、細かいのだ。
指先まで神経を使う。美しさを求められる。
ダンスって、こんなに緊張感あったのかな。
ちょっと、辛い。ディオは、全く悪くないのだ。指導も、もっと怒っていいのに、優しすぎると思う。
「ルナ様。引き攣ってますよ」
「ルナ様。指先まで気をつけて」
「ルナ様。ズレてますよ。音楽に合わせて」
ルナ様、ルナ様、ルナ様。
──辛い。分かっているけど。こんなに下手だった?
「ルナ様───休憩しましょう」
音楽を何度も止めてしまう。
息もあがる。やっと休憩。嬉しい。
「アル……ご、ごめんなさい」
「ルナ、大丈夫だよ。焦らないで」
そう言って、窓際の方へ連れて行かれる。
「ディオール。アルファルド殿下とダンスして見せてくれないか?
ルナに手本見せてやった方がわかりやすいと思う」
そう言ったのは、カストル様だ。
「ルナ、イメージを頭に入れたら?スピカ、お前は、見てばっかりじゃなくて練習するぞ」
カストル様に手を引かれて、少し中央から離れた場所で手を取り合っている。スピカ、恥ずかしそう。可愛ぃ。
だめだ……僕は、アル達のダンスを見なきゃ。
「アル。ディオとダンスして見せて。ちゃんと、覚えるから」
2人は、なんとなく気まずそうだったから、僕からもお願いしてみた。
「分かった」
そう言ってフロアの中央に2人が移動して行き、向かい合って手を重ねた。
立ち姿が綺麗。
曲が流れて、アルのリードが本当に自然で、ディオの流れるようなステップに……無駄な力は入ってなくて、指先まで綺麗。
見つめ合って……?
何か呟いた?
アルの口角が少し上がって、ディオも微笑んで。
綺麗な、ダンス。
あ、スピカも立ち止まって見てる。
ふふ。カストル様に怒られてる。
綺麗な2人のダンスが、素敵過ぎて、胸が痛い。
違う。
そうじゃなくてこんなの、2人みたいに、出来るのかな?
出来なきゃ駄目だ。
間に合うの?出来る?
そんな不安でいっぱいになった。2人のダンスが終わる。
「ルナ」
後ろからシリウス兄様に声をかけられて……慌てて振り返った。
「あ、シス兄様。えっと、アルとディオって、息ぴったりだし、本当に指先まで綺麗で……見惚れちゃった。で、きる……かな?」
元々自信なんて無いのに。不安が募っていく。
大丈夫。大丈夫。練習を沢山したら良いんだから。
「レグルス殿下。護衛から外れても構いませんか?ソレイユ……殿下を頼む。少し休憩をください」
え?シス兄様?
「後で、俺とも変われよ?」
レグルス殿下が、そんな事を言った。変わるって何?
シス兄様に手を引かれて……フロアの中央に立つ。
「え?どうして?」
僕の方は見ずに、窓際に戻るディオとアルの方を見た。
アルは、何か言いたそうだったけど。
「休憩中だから、構いませんよね?アルファルド殿下。
ディオール、ルナに息抜きをさせてくれ」
僕を見て、笑う。
「ダンスは、楽しめって昔言ったろ?ルナは、下手なんだから、俺達のリードに合わせて楽しめば良いんだよ」
あ。
子供の頃、練習を一緒にしてきた。
『ルナ大丈夫だよ。身を任せて、笑ってて』
顔を上げて、シス兄様をもう一度見る。
2つほど3人で練習した曲があって、そのうちの1つの曲が始まった。
身を任せてみる?休憩中なら、怒られない?このステップ……良く足踏んでしまって。
『踏まれて無い、痛く無い』
そう、言ってくれた。
「上手くなってるよ」
優しく、声をかけられて、
「ほんと?」
思わず、笑みがこぼれた。
なんか、楽しい。下手だけど、全部カバーしてくれる。ガチガチだった身体から変な力が抜けて、ステップがスムーズに出来る。
もう少し踊るのかと思っていたら、動作がゆっくりになって……レグルス殿下の前に連れて行かれる。いつの間にか、アルとディオも殿下の側にいたみたい。2人は黙ったままだ……なんだろう?
「ルナ。息抜きに付き合って」
ええ?レグルス様とダンス??
あ、──この曲って。
思わず、笑う。
このステップ難しかったよね?何度も練習したもう1つの曲だ。
「肩の力が抜けたな。リズムが分かるな?ディオを気にし過ぎだ。お前が不安になるから、姿勢も視線も変になるんだよ。リードに頼れば良いんだ」
2人とも、励ましてくれるの?
楽しい。
あの頃、必死になって教えてもらったダンスだ。
ああ、そっか。
アルとディオも、幼馴染になるんだよね。2人で踊ってたはず。きっとダンスしやすいのは、僕のクセとか知っていてくれるから。アル達もそうだよね。
アルが笑ったの、それを思い出しただけ、かも。
ありがとう、シス兄様、レグルス様。
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