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第8章 スピカの恋愛事情
7素直
しおりを挟む伸ばしていた髪も切った。
──ささやかな決意とケジメ。
主人公キャラらしい姿から変わりたかった。
茶色に染めた髪。
筋肉は中々付いてくれないけど、筋トレをしたり、剣を練習した。
ルナ様の役に立つ事を目標にしたんだ。
罪悪感を少しでも減らしたいだけだって言われそうだけど。
それでも、返せる物は全部、ルナ様へ返したい。
だから、ルナ様が幸せなら嬉しい。
──それで良かったんだ。
それだけで。
入学式のイベントは期待していたから、何も起きない事は俺に取っての罰だと思ってた。
たった1回だけ。
全ての運を使い果たした。
そう、思えるくらいの幸せの時間をもらった。
怪我をしない様に守ってもらった事。
笑い者になりかねない、お尻の破れたズボンを隠して、連れ出してくれた、あの出来事だけで俺の恋は、終わったんだ。
後1年も経てば、学園を卒業する。
もう、会う事も無い身分の高い人。
幸せな夢を見れた。夢のはずなのに。
なんで、今。
カストル様の部屋に2人だけでいるんだろう?
ルナ様と、夜ふかしの約束……したはず。
「あの。ルナ様は、優しくて心配症なだけです。だから、ほら暴行とかされた訳でも無いし。一晩寝たら、忘れるくらい図太いんですよ俺。なんてったって元平民だし、逞しいんです!」
帰りたい。
期待なんてしない。
運は使い切ってて、マイナスになるだけ。
卒業したら、フォレスト辺境伯領で働けないかな?それも最前線に行けば、もう会う事なんて一生無くなるよ。
「──平民?今更身分を気にするのか?殿下達を説教してたのに?」
「それは!ルナ様の為だから。学園時代は、少しは大目にみてもらえるでしょう?レグルス殿下もアルファルド殿下もシリウス様も、ルナ様を大切に思ってた訳だし」
「いつから?ルナと何処で知り合ったんだ?レグルス様とアルファルド殿下とシリウスは、ルナと幼馴染の関係だった。その中に、スピカお前はいないはずだ。
それでもお前の存在が、ルナに何かしらの影響を及ぼしていく」
転生前の話なんて出来ない。
先生の事もあるし。
「昔会った事があって」
「その時からの友人?」
友人じゃない。ルナ様の物を奪った罪人です。
「──いいえ。ルナ様に酷い事をした、最低の人間です。ルナ様に償いたいだけです」
「──ルナは、自身の価値が無いと思い込んでたな。スピカも、同じように自己評価が低いんだな」
「全然……違いますよ。幸せになりたかったんです。人の物を……奪ってまで。
だから……こんな風にしてもらう理由がありません」
「何を奪ったのか知らないが……普通じゃないのか?幸せになりたいなんて、当たり前だろう」
「だけどっ」
「──ルナはとっくに許している。それどころか、全く気にして無いと思うし余計に心配させていないか?なぁ、ルナに責められたか?それを返せと言われたか?
アイツにとってそれは、要らない物だったんだよ」
──主人公──
「要らない物を返されても困るだろう。もう、十分後悔して泣いて来たんだろう?もう、泣かなくて良いんだ」
カストル様の指が涙を拭ってくれる。
その手の温もりが肌に伝わってさらに涙が溢れていく。
引き寄せられて、腕の中に収まって背中をさすられる。
さっき、ルナ様にされたのと全然違って大きな手だ。
何も言えなくて。もう十分だから。優しくしないでよ。
離してって思うのに、離れたくないって……どうしょうもないよね。
「最初──レグルスに害のある奴か知る為に近づいた。本当にやる事が裏目に出やすいし、巻き込まれやすい。ルナも、お前の事が心配で気になって仕方ない様だった。元々は、深入りするのも面倒だったんだ。だがお前は俺の視界に入り混んで来る。思ってもいない行動ばかりしてくる。
綺麗な瞳と同じピンク色の髪を突然切ってくるし。色を変えたり……お前から目が離せなくなったよ」
「ただ、もの珍しいだけです。きっと……すぐ飽きるから。もっと、価値のあるカストル様に相応しい人に出逢いますよ。
俺、遊ばれるの嫌です。子供も出来なくて、都合が良いかも知れないけど。遊ぶなら、そういう所へ行って下さい」
期待させないでよ。その腕から逃れたいのに。
「離して」
背中の手が外されたのに、壁に押し付けられて、逃げ場が無くて……睨みつける。
嫌だ。期待したら、駄目だから。
「誰が、遊ぶなんて言った?
そんな事してみろ、ルナから森へ飛ばされるだろうが。俺は、レグルスみたいに優しくない。友人に譲ったり諦めたりしない。身分が気になるなら、どうとでもしてやる。俺はお前がいい。ルナを守るのは、精霊もいる。フォレストの騎士も、何よりアルファルド殿下がいる。俺がスピカを守りたいだけだ」
自信満々で、なんか腹が立ってきた。俺の気持ちは?
「だから?なんなの?俺なんて、相応しく無いって」
「好きだ。お前がいい」
「公爵様が、許すわけが無い!」
「残念だな。もう、許可はもらっている。ローランド公爵にも、グレンジャー子爵にも。なんならお前の養子先の候補はフォーマルハウト侯爵家……シリウスの実家だ」
「は?何言ってるの?」
「身分を気にし過ぎるからな。魔術師団長からの提案だ。きちんと、婚約もする。お前を日陰者にする気は無い。俺がお前を守るって言っただろう?」
「やめてよ。絶対後悔するから」
「ああ。お前を他の奴に渡したら後悔する。誓うよスピカ。お前の不安は、全部取り除いてやる」
小説の中のセリフとは違う。信じたくなる。
「わかんない。信じて、捨てられたら……耐えれないよ?
だけど……大好き。カストル様が好き。どうしたら、いいのかわかんない」
この人が好き。許されるなら、一緒にいさせて欲しい。先生、良いのかな?この手を取っても。
「ただ、素直になれば良い。スピカ」
そう言って、唇が重なった。
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