【本編完結】イケメンの皆様、主人公はあちらですよ。

Shizukuru

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第7章 魔女編

1欲望

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「あの子が欲しいなら、力を貸すわよ?」

深緑の瞳に真っ赤な唇。口角を上げて微笑んでいる女。

気配を感じさせる事なく現れた。

「言いたい事は、それだけか?」

ルナが選んだだけの事だ。
それが、ルナの幸せに繋がり、自信をつけてくれるなら構わないのだ。アルファルド殿下を選んだ、それだけだ。
もう、泣いて欲しくないから。
ルナが、笑ってくれるなら、それで良い。

「──勝手に、この庭に入ったのか?どうやったか……教えて欲しいものだな」

女は、微動だにしない。
やっかいだな。
精霊ではない。
人間か?それも怪しいが。
ただ、大きな魔力を感じるが、違和感がある。
関わってはいけない。
誰かが──そう言っている。


──逃げろ、と。

「今ならまだ、間に合うわよ?
良いものがあるの。私の得意な事教えてあげる。薬師なのよ。色んなもの持っているの」

女は、嬉しそうに目を細めて笑みを浮かべている。

「例えば…惚れ薬。よく効くわ。コップの水に一滴垂らすだけ。簡単にてくれる。もっと、堕ちて欲しかったら、これも一滴混ぜてみて。身体が熱くなって、求めずにはいられなくなるから。こちらが望まなくても……自分から差し出してくれるの。簡単にね。例え、他に好きな人がいても、抗えないの。欲望のままに貴方を求めてくれる。2、3日使えば、貴方だけの物になる。偽りの恋もいずれ真実になる。
真実になったのなら、本物だと言えば済む。貴方が本物の相手だと認めたら良いだけよ。
恋なんて、錯覚。力ずくで奪えば終わり」

惚れ薬に媚薬。
薬漬けにする気か?

「偽物は偽物だ。必要ない」

「ふ~ん。お堅い事。そんなに大切なのに。抱きたいと思わないの?
あの華奢な身体を黒髪の男に触らせるんだ。
平気なの?恋は錯覚よ?まやかしなの。本当は貴方に抱かれたいかも知れないじゃない?どっちも確かめたら良いのにね。体の相性だってあるんだから。別に婚姻してないのだから、一度抱き潰して、愛し尽くしたら……貴方の方が良いって言うかもよ?私だったら、貴方の方に魅力を感じるわ。なんなら、試してみるのもありよ?」

全身を品定めするかのような、視線が、気持ちが悪い。

「俺には行く所がある。お前に構っている暇は無い。辺境伯に見つかる前に出ていけ」

女が、クスクスと笑い出す。

「馬鹿ねぇ。貴方、私の事殺せないのね?それは、貴方が弱いから?それとも、いつかこの薬を手に入れたくなる……そう思うからかしら?」

「そうだな。俺が弱いから──かもな」

だから、時間を稼げただろう?
1人でこの得体の知れない女の魔力に抵抗するには危険過ぎるし、俺は今帯剣していない。無理は出来ない。



女の首の薄皮一枚辺りだろうか?
女が動けば、切れるだろう。
セス様も気配なく女の後ろに立っていた。剣を握る手がブレない。
女も微動だにしない。いや出来ないのか?

他の魔術騎士達が魔術発動の為の配置をとる。


後方にピンク色の髪色が見える。
スピカだろう。ダレンが横についている。

ロイドは、魔法陣の展開を始めている。

「逃がさないよ。術者だろう?」
セス様からの威圧感が凄まじい。


はぁぁぁ。
と大袈裟に女が溜息をつく。

「やっぱり、この邸は厄介だわ。精霊はウヨウヨいるし。騎士は、意志が強くて面倒だし。もっと弱い子が良いわねぇ。人質取ったら、簡単に言う事聞く様な子とか……ね。でも貴方も、あの可愛い子の為なら命を差し出してくれそうねぇ。先にあの子を捕まえておけば、命乞いしてくれたかなぁ。
そっか、そうすれば良かったかも!こっちに向かって来ているから、捕まえたら面白そうね」

ルナを捕まえると言っているのか?精霊に守られている。大丈夫だ。そう思うのに、この異様な女の魔力が不安にさせる。

「お前!」

「あはは。弱点みっけ。大丈夫。貴方、私の好みだから。捕まえたら、最初にあの子抱かせてあげるわ」

抑えていた魔力が膨れ上がる。

「抑えろ、シリウス!魔法陣が壊れる!」
ロイドが叫ぶ。

しまった、それが狙いか!


「ありがとう」
ニヤリと笑った。

セス様がローブを掴んだが、ローブだけ残して女が消える。


その俺達の前に、ルナの姿が見える。不味い。


ルナ──こっちに来ないでくれ。

「ルナァァァ!逃げろ!!」
動けず、叫ぶ事しか出来ない。

一瞬だった。
セス様が、ルナを抱きしめている。女に背を向けた状態だ。伸びた爪で、背中のシャツが裂けて血が噴き出した。


イフリート様の炎が女を包むが、
笑っている。
「また来るわ」
そう言って笑って消えた。あれは、本体じゃないのか?だから、精霊達から隠れる事が出来たのか?

セス様……が。
ルナは、膝をついたセス様を抱きしめたままだ。

スピカ達も側に走り寄って来た。

「大丈夫だよ。ルナ。大した傷じゃないから」

治癒師が背中に魔力を当てるが、傷が塞がる様子が無い。

まさか、毒?

ルナは、セス様に抱きついたままだ。
セス様は、優しくルナを見つめている。
心配するなと、繰り返し声をかけている。

ロイドにダレン、スピカが、声をかけてもルナは動けずにいる。

アルファルド殿下が、ルナの横で何かを言ってその背中をさすっている。
ルナが小さく頷く。


そして──
「……」
何か、ルナが言った。よく聞こえない。

「……」
炎の精霊 イフリート様がルナの側に来た。
そして大地の精霊 ノーム様、水の精霊 ウンディーネ様、風の精霊 シルフィ様が現れた。
フェルが白銀の狼の姿で元の大きさに戻っている。


「ち、から、を貸して」

森や大地から、キラキラと光が集まって来る。
ルナの身体からも光が溢れていく。金色に輝き、温かな光が溢れて2人を包み込む。
エメラルドの瞳に金環が見える。
なんて、美しいのだろう。


「みんな、力を貸して。絶対、助けるから。お父様。お母様の所に行かないで。お父様に剣技を習うって決めたから。だから、お願い。死んだりしないで」



光が収まった頃、セス様の背中の傷が消えた。
そして、セス様の腕の中でルナは意識を失っていた。










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