【本編完結】イケメンの皆様、主人公はあちらですよ。

Shizukuru

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第6章 学園編☆1年生

25恋と呪い

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シス兄様から引き剥がされて、フェルに大きくなるように頼んでいる。
意図を汲んだようで、大きめになってクッション代わりなったフェルの上にポスンと乗せられた。

そして、僕を庇う様にシス兄様に向き合っているのは──

「ルナに無理矢理キスを迫ったのか?」

「無理矢理?だったら、フェルが反応して踏み潰されます。そう思いませんか?アルファルド殿下」

「だが……泣いている」

「──ルナが自覚しただけです。後は、任せますが。貴方がルナを傷つけたり泣かしたりしたら、いつでも引き取りに来ますから。
ルナ。幼馴染である事はこの先も変わらない。何かあればいつでも頼って欲しい」

ずっと、変わらずの幼馴染でいてくれるの?


また、ポロポロと涙が出てきた。

ふっと持ち上げた手を直ぐに下げたシス兄様が優しく笑う。

「ルナ、俺もセス様達の所で訓練してくるよ。スピカを鍛えるのも楽しそうだな。
アルファルド殿下がのままなら、いつでも掻っ攫いに来ます。では」

そう言って、シス兄様が去って行った。



残された僕は、ただただどうして良いのか分からなくてアルの顔を見る事も出来なくて俯いていた。


僕の視界にアルのブーツが見えた。目の前に来て立ち止まっている。
顔を上げる事が出来ない。そう思っているうちに……
アルが膝をつき、下から僕を見上げてきた。

アルのルビー色の瞳に僕が映っている。

「ごめん。シリウスと会っているから、邪魔するなって言われたんだけど……遠くから見てて話が終わるのを待つつもりだった。
キスの後、お前が笑ってたら諦めようって思ってたよ」

見てたんだ。
あ、キスはしてないんだけど。
誤解されたんだ。

「お前、泣くから。いても立ってもいられなくなった。無理矢理だったなら殴ってやろうとか、だけど怪我とか血とか苦手のお前の前じゃ、駄目だろ……」

はぁ。と息を吐く。

「無理矢理じゃなかった?平気?」

「──キス、してないから」

「──そっか」

「違うから!誤解だから!」
アルが、驚いた顔をする。

「だから、シス兄様とはキスしてない!唇が重なる前に止めてくれたの!僕の気持ちを確かめてくれたんだよ。
好きだって、言ってくれたんだ。それは、嬉しい。でも、でも婚約とかは考えられなくて、ずっとお兄様って思ってきたから」

ごめんなさい。気がつかなくて。
スピカの言った言葉の意味が分かったから。

キスは好きな人としたい。
好きな人が他の誰かとキスするのは見たくない。

だから、アルが主人公スピカとキスするとか誰かとキスしてたらと思うだけで胸が苦しくなったんだ。

涙が出たのはそのせい。
そして、そんな思いをシス兄様にさせてしまった後悔。知らずに傷つけてきたのかな……本当にスピカの言った通りだった。

「ところでルナ。自覚したって何?」

自覚?
あ、あ───。

一気に顔が熱くなった。真っ赤かも知れない。


好きな人とのキスを想像した今。
その人が目の前にいるわけで……


「どうした?」

思わず、フェルから飛び降りる。

アルが手を伸ばして来て。

思わず───逃げた。
どんどん森の中へ走り出す。
このままじゃ追いつかれる。
足止めして、誰か!
って思った途端、木の根っこが伸び始めた。

後ろから
「うわぁ」とか
「止まれ」とか
アルの声がしているけど……ちょっと時間頂戴。

僕の前は森が開けて行くのも、精霊が手伝ってくれてるのかな?
クスクスと笑い声が聞こえる。
面白がられてるけど、逃げたい。


アルとキスしたいとか──恥ずかしい。何考えてんの、僕。


落ち着かせて。
逃げて、逃げて奥へと進んだ。

それなのに。

「裏切り者!」

フェルがアルを乗せて追っかけて来た。
僕の言う事しか聞かないんじゃなかったっけ?
ウネウネ伸びる根っこを飛び越えて来る。

息が、もう、苦しくて駄目だ……

あの木の影へと、隠れようとした時に……捕まった。

「逃げるな!危ないだろ?戻れなくなったらどうするんだ!ただでさえ精霊達を魅了するんだ。人の世界に戻れなくなったら俺達じゃ助けられないから。頼む。逃げないでくれ」

ギュッと抱きしめられる。
心臓が壊れそう。

「──ルナ。俺は王位継承権を破棄して来たよ。ずっと言ってたんだけど、兄上がようやく受け入れてくれた」

王位継承権を破棄?

「嘘。そんなの」

「嘘じゃない」

「ちょっと、座ろう?話を聞いて欲しい」

隠れようとした木の側に2人で座る。フェルは小さくなって僕の足元でうずくまっている。

「王位なんてどうでも良いんだ。兄上は、優秀だし尊敬しているよ。周りが、勝手に権力争いの駒にしようと俺にちょっかいかけているだけだ。外交をする為だけの身分をもらうから。
そんな事より、ルナに渡したいものがあって」

なんだろう?
手のひらサイズの長方形の箱を渡された。

「これって…メガネ?」

「ルナの顔自体が変わるような奴じゃない。顔はそのまんまだよ。
顔の認識を阻害するんじゃなくて、ルナの苦手な物の認識を変えるんだ。
例えば、血液。
紅いと駄目なら、可愛くしたらどうかってスピカに言われたんだ。とりあえず、ピンク色のキラキラに見えるらしい。無色に見える案も出たんだ。でもそれだと、ルナ自身が怪我した時に気づかないだろう?」

血液が…ピンクのキラキラって。
何それ。

「可愛いく見えたら怖くないんじゃないかって。少しづつ色を抑えていっても良いだろうって、慣らす感じだな。
それなら、剣の稽古も始められるかも知れないし」

剣の稽古?
騎士の人達がピンクのキラキラ?

「なに、それ」
笑っていいのかな?
ふふって、笑ったら、アルがめちゃくちゃ優しく笑った。

「それと、このメガネの耳の所は雷の音を猫の鳴き声に変換出来る。にゃー、にゃー、聞こえる。雷属性の魔術師に雷を出してもらって確認した。雷の光は、なんか花火って東方の国にある光玉らしいが、そう見えるようにした。初めて俺は見たんだが、綺麗だったよ。スピカとカストルから教えてもらった。
怖いものに怯えなくて良い様に皆に協力してもらったんだ」

ピンク色の血液。
雷は、花火。
雷の音は、猫の鳴き声。

僕が怖くならないように?
剣を習えるの?

「ちょっとずつ、慣らそう?ピンク色をゆっくりでいいから紅に戻してもいいし。雷は、花火のまんまでもいいと思うけどね。」

「剣、お父様に習ってもいいかな?」

「喜ぶと思うよ。とりあえず、護身術からだな」

また泣きそうだ。

「ルナ。皆がお前を大切に思っているんだ。信じて欲しい──」

アルが真剣な顔をしている。
「ルナ、産まれて来てくれたのは、俺に会う為だった。それじゃ駄目か?生きててくれたのは、俺と生涯共に生きるためだった。
好きなんだ。お前が良い」

アルに会う為に……そんな都合よく思っていいの?
それに──捨てない?飽きたりしない?

「女の子が良いとか?子供が欲しいとかならないの?子供産めないよ僕。王位継承権を破棄しても子供を求められたら?僕は好きな人を誰かと共有するのやだ」

だって、子供が出来たら会ってくれなくなるかもだし。邪魔になるよ。そんなの嫌だ。
先の事だから、今言っても無理な話かな。

アルを見ると、何故かアルが真っ赤になっている。

どうして?

「今、好きな人って言った?」

あ、あれ?言ったかも。
抱きつかれた。待って待って。
ちょっと待って。

「俺もたった1人が良い。誓約をする。決して裏切らないと。辺境伯の前で誓う。ずっと側にいてくれるか?」

また、泣いてしまう。

「大好き。アル」
「俺も」

目を瞑ったら、吐息とともに柔らかい感触が唇を塞ぐ。


キスは、好きな人と。

嬉しい。

胸の中の何が剥がれる、そんな気がした。


唇が離れて、おでこを合わせると、アルが笑う。

「皆が心配する、戻ろうか?フェルの背中は中々良かったよ?」

2人でフェルの背中に乗って戻る事にした。






☆シリウス

ルナ──、想いは通じたか?
レグルス様も、せめて言葉にしたいだろうな。

セス様達の所へ行くつもりだったが、途中でやめて木にもたれていた。
俺達が傷ついていたら、ルナが心配するな。

やはり、セス様達の所に行って訓練に参加した方がスッキリするか。

それに、片付いてない事もある。
リゲルの事も、呪いの術者も解決しなければならない。



「ねぇ。銀色の髪って素敵ね。
見てたわ。可愛い子だったわね。ふふ。私あの樹苦手なのよねぇ。ここにいてくれて良かったわ。
あの子が欲しいなら、力を貸すわよ?」

誰だ?気配がしなかった。

目深に被ったフードを上げると艶やかな緩いウェーブの黒髪が見えた。顔の右半分をその黒髪で隠している。深緑の瞳に真っ赤な唇が口角を上げて微笑んでいた。














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