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第6章 学園編☆1年生
24キス
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「ルナ様、頑張って。フェルもいるし」
耳元でそう囁いたスピカが、僕の背中を軽く押す。
「シリウス様、ルナ様をよろしくお願いしますね。俺、ロイド様とダレン様と一緒にセス様の剣技を見せてもらいに行くので。すぐには戻りませんが、何かあったら、フェルが対応してくれると思うんで」
そう言って手を振り兄様達の方へ走って行く。
僕と同じ位の身長だったのに……成長期に身体をよく動かし出したからか、スピカはまた少し背が伸びたみたい。それでも、兄様達よりは小さいから並ぶと微笑ましい。
兄様達に追いついて、お父様や騎士さん達の訓練している所へと向かっている。
今までを振り切って前を向いて笑う姿は、やっぱり主人公なのかも知れない……キラキラしている。
そして、今。
シリウス兄様と2人でパルムの樹の所へ向かっている。
2人とも無言で。
いつもと違う感じがする。
よく、ここで遊んだ。
『おいで、ルナ』
あの頃を思い出す。
シス兄様が、学園に入るまでは本当に頻繁に領地に遊びに来た。実のお兄様達以上に過保護で……懐かしい。
銀髪・紫眼で冷たい印象の人。見た目に反して、優しく温かい人。
氷属性を得意としていて、レグルス殿下の学園での護衛をすでに任されている。
魔術師団長のご子息でいずれ後を継いで、王国を護って行く責任のある立場の人だ。僕が近くにいるべきじゃないって思う反面、幼馴染だから一緒にいても良いって言われている気がして居心地がよかったんだ。
そんな僕にシス兄様は、いつも手を伸ばしてくれた。
『ルナ一緒に行こう』
どこがいつもと違うんだろう?
雰囲気かな。
ちょっと、怖い?
緊張している。
僕が?
それとも──シリウス兄様が?
樹の側まで辿り着き、ピタリと立ち止まって僕の方を振り返って優しく微笑んだ。
男の人に失礼かも知れないけど……綺麗って見惚れてしまうのは仕方がないと思う。
「ルナ」
いつもの、優しい呼び声。
「ちょっと、座ろうか?」
樹の根が地面から盛り上がっている所があって、良い感じに腰掛けられる。
並んで、そこに座ったら……シリウス兄様が深く息を吐いた。
それから僕を見て、プッと吹き出した。
「ルナ。緊張し過ぎ」
そう言って頭を撫でられる。
「でも……ようやく意識してくれたのかな?それも、スピカのおかげかと思うと……情けないな」
何も言葉が出なくて。ただジッと兄様を見つめる事しか出来ない。
「聞いてくれる?」
コクンと黙ったまま頷いた。
「ずっと、セス様にルナが欲しいと婚約の打診をして来たんだ──
その顔、やっぱり知らなかったんだろう?」
え?
婚約?
誰と誰が?
「あの」
困り顔のシス兄様の手が、僕の頬へと触れる。
「家のためとか、政略的な物じゃないよ。最初からルナに惹かれてた。ダレンの後をついて来る小さな姿も覚えている。後ろから現れたお前は可愛くて護りたかった。弟扱いをせずに、最初から求めれば良かったのかな?」
頬に触れていた指が、唇に触れて優しくなぞられる。
「ずっと、ルナだけを見てきた──ルナが好きだ。兄弟になりたかったわけじゃ無い。俺を選んでくれないか?」
真剣な顔が、声が、言葉が……胸を苦しくする。
僕は、なんて答えたら良いのだろう?
抱き寄せられて、顎に触れた手が僕の顔を上に向かせる。
何も言えなくて、スピカの言葉が頭をよぎる。
シス兄様の顔が近くなって──
『まずその人に触れられて嫌じゃないか……例えばキスしたいかどうかを考えてみて』
キス?
僕と?シス兄様が?
唇同士が触れ合いそうになるくらい近づいた時……ピタリとシス兄様が止まった。
「──泣かないで、ルナ」
あ、涙が溢れて来て止まらない。
頭とか触れられのは、よくあったから慣れてたし。手を繋いだりとか、軽いハグとか平気だった。
だけど、キスは……ごめんなさい。
ボロボロ溢れる涙を慌ててハンカチで拭いてくれる。
嫌いとか、じゃなくて。大切な人なのは間違いない。
だけど、違う。
『それか、その人が他の人とキスした所を見るのが嫌かを考えたら、自分の気持ちが分かるかも知れない』
キスしている所を見たくない人は、きっと──
「ルナから、離れろ」
──この人。
耳元でそう囁いたスピカが、僕の背中を軽く押す。
「シリウス様、ルナ様をよろしくお願いしますね。俺、ロイド様とダレン様と一緒にセス様の剣技を見せてもらいに行くので。すぐには戻りませんが、何かあったら、フェルが対応してくれると思うんで」
そう言って手を振り兄様達の方へ走って行く。
僕と同じ位の身長だったのに……成長期に身体をよく動かし出したからか、スピカはまた少し背が伸びたみたい。それでも、兄様達よりは小さいから並ぶと微笑ましい。
兄様達に追いついて、お父様や騎士さん達の訓練している所へと向かっている。
今までを振り切って前を向いて笑う姿は、やっぱり主人公なのかも知れない……キラキラしている。
そして、今。
シリウス兄様と2人でパルムの樹の所へ向かっている。
2人とも無言で。
いつもと違う感じがする。
よく、ここで遊んだ。
『おいで、ルナ』
あの頃を思い出す。
シス兄様が、学園に入るまでは本当に頻繁に領地に遊びに来た。実のお兄様達以上に過保護で……懐かしい。
銀髪・紫眼で冷たい印象の人。見た目に反して、優しく温かい人。
氷属性を得意としていて、レグルス殿下の学園での護衛をすでに任されている。
魔術師団長のご子息でいずれ後を継いで、王国を護って行く責任のある立場の人だ。僕が近くにいるべきじゃないって思う反面、幼馴染だから一緒にいても良いって言われている気がして居心地がよかったんだ。
そんな僕にシス兄様は、いつも手を伸ばしてくれた。
『ルナ一緒に行こう』
どこがいつもと違うんだろう?
雰囲気かな。
ちょっと、怖い?
緊張している。
僕が?
それとも──シリウス兄様が?
樹の側まで辿り着き、ピタリと立ち止まって僕の方を振り返って優しく微笑んだ。
男の人に失礼かも知れないけど……綺麗って見惚れてしまうのは仕方がないと思う。
「ルナ」
いつもの、優しい呼び声。
「ちょっと、座ろうか?」
樹の根が地面から盛り上がっている所があって、良い感じに腰掛けられる。
並んで、そこに座ったら……シリウス兄様が深く息を吐いた。
それから僕を見て、プッと吹き出した。
「ルナ。緊張し過ぎ」
そう言って頭を撫でられる。
「でも……ようやく意識してくれたのかな?それも、スピカのおかげかと思うと……情けないな」
何も言葉が出なくて。ただジッと兄様を見つめる事しか出来ない。
「聞いてくれる?」
コクンと黙ったまま頷いた。
「ずっと、セス様にルナが欲しいと婚約の打診をして来たんだ──
その顔、やっぱり知らなかったんだろう?」
え?
婚約?
誰と誰が?
「あの」
困り顔のシス兄様の手が、僕の頬へと触れる。
「家のためとか、政略的な物じゃないよ。最初からルナに惹かれてた。ダレンの後をついて来る小さな姿も覚えている。後ろから現れたお前は可愛くて護りたかった。弟扱いをせずに、最初から求めれば良かったのかな?」
頬に触れていた指が、唇に触れて優しくなぞられる。
「ずっと、ルナだけを見てきた──ルナが好きだ。兄弟になりたかったわけじゃ無い。俺を選んでくれないか?」
真剣な顔が、声が、言葉が……胸を苦しくする。
僕は、なんて答えたら良いのだろう?
抱き寄せられて、顎に触れた手が僕の顔を上に向かせる。
何も言えなくて、スピカの言葉が頭をよぎる。
シス兄様の顔が近くなって──
『まずその人に触れられて嫌じゃないか……例えばキスしたいかどうかを考えてみて』
キス?
僕と?シス兄様が?
唇同士が触れ合いそうになるくらい近づいた時……ピタリとシス兄様が止まった。
「──泣かないで、ルナ」
あ、涙が溢れて来て止まらない。
頭とか触れられのは、よくあったから慣れてたし。手を繋いだりとか、軽いハグとか平気だった。
だけど、キスは……ごめんなさい。
ボロボロ溢れる涙を慌ててハンカチで拭いてくれる。
嫌いとか、じゃなくて。大切な人なのは間違いない。
だけど、違う。
『それか、その人が他の人とキスした所を見るのが嫌かを考えたら、自分の気持ちが分かるかも知れない』
キスしている所を見たくない人は、きっと──
「ルナから、離れろ」
──この人。
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