51 / 129
第6章 学園編☆1年生
15ルナ②
しおりを挟む
side シリウス
セス様がまた一つ溜息を落とす。視線の先には、ルナがウンディーネ様に守られるように眠っている。俺達の声が聞こえない様にしてくれていたようだ。
「殿下、声を荒げて申し訳ありません。ルナは、ウンディーネ様とフェルに任せて我々は別室へ。ウンディーネ様、何かあればすぐ教えて下さい」
セス様に促され、寝室から出て行く。
アルファルド殿下の腕の中にいたルナは、安心して身を任せていたように見えたな。
少し首を振る。まだ、だ。
ずっと大切にして来たんだ。簡単に譲る気はない。
談話室に防音をかけたセス様からソファに座るように促される。
俺は、ルナの今後の事をどうするべきか考えてみる。
ルナをフォレストに戻し、学園を辞めさせる?
だが、そんな事をしていたら、そのまま精霊の所に連れて行かれるのが早まるだけではないのか?このまま会えなくなるのか?
駄目だ。まだ、何も伝えられていない。
「セス様。発言をしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。いつも通りで。君はもう1人の息子の様なものだ」
少し、セス様が落ち着いたように見える。
「ルナをしばらくこちらで休ませた後は、学園に戻していただけませんか?」
「シリウス?」
その目は、信じられないとでも言いたげだ。
「血が苦手なルナは、ロイド達のように辺境の騎士になるのは難しい。だからこそ勉強し文官になって貴方の役に立ちたいと思っていた。その為に、ずっと勉強も魔術も学んで来たはずです。学園で学び卒業する事で得るものも多い。友人を作る事も楽しみにして来たのです」
俺は、ロイドに目線を移す。
「ロイドも分かっているだろ?ルナは、役に立ちたいんだ。必要だと認めてもらいたいんだよ。ただ守られるだけじゃ、駄目なんだ。自信の無いルナが必死に頑張って来たのを知っているだろう?それを奪えばルナは、さらに自信を無くす。それでもいいのか?」
「シリウス、それでも俺達は、あの子を守りたいんだ。僅かな時間でも側にいたいんだ」
ロイドも呪いの事を聞いているんだな。
「聞いたよ。ルナの呪いが解けなかった場合は、精霊の世界に連れて行かれる事は殿下から。なら、なおさら学園に行かせてやって欲しい」
殿下も頷いている。
セス様が俺を見た。
「そうか、聞いたのか。
シリウス、済まなかった。君から……いやフォーマルハウト家からルナを望まれていたが、呪いを受けたルナを渡すわけにはいかないんだ。解呪出来なければ、人の世界には居られなくなるんだ」
オリビィ様似た、大切な子だ。俺なんかよりセス様は、辛いはずだろう。
ずっと、見てきた。
可愛くてたまらない。誰にも渡したくない、大切な存在。
だが、リゲルのあの一言で怯えきってしまった。
オリヴィ様が亡くなった時のトラウマ……血と雷だけではないのか?それ以外に何かあるのではないだろうか?
フォレスト辺境伯家は、ルナを溺愛している。産まれて来なければ良かったなどと言う者はいない。オリビィ様が?それも無いな。精霊に愛されていた人だ。
じゃあ、誰に言われた?
それに、殿下に呪いをかけたのは誰なんだ?
セス様に俺が気になっている事を話す事にした。
「気になる事が2つあります。問題を起こしたリゲルは、ただ殿下に近づきたいだけだと思っていました。前回の謹慎後には、クラスの中心人物になっていた。魅了でも使ったみたいに。そして、今回は呪いの様な黒い物が見えたのです。スピカ・グレンジャー子爵令息が光属性の魔術で浄化をしたようです。それにカストルが、レグルス殿下に呪いをかけた人物が接触してくる可能性があると言っていたんです。リゲルの後ろに誰かいるようで術者を探せるかも知れません」
「殿下を呪った術者が、また接触して来るというのか?」
「可能性があります。フォーマルハウト家としても、術者を探すように指示を出しています」
「そうか。ルナを苦しめている呪いをかけた者がまた、殿下に接触などと──」
セス様の纏う空気が変わる。
「私もその件は協力しよう。だが、ルナがまた誰かを庇う様な状態は避けたい」
「もちろんです。2度とそんな事させません」レグルス殿下が答えた。
「セス様──2つ目の気になる事ですが。ルナは、過去─いえ、記憶の中に《産まれて来なければ良かったのに》そう言われた事があるのではないのでしょうか?」
「シリウス!ふざけるな!!俺達や邸内の者がルナにそんな事を言うはずがないだろ!」
ロイドが立ち上がり、俺に殴りかかりそうな勢いで近づくのをセス様が止める。
「だから、記憶。生まれた時からの記憶の中にだ。尋常じゃない怯え方だった。誰かに言われた。それも、大切な人に。あの絶望に染まる表情は経験してきた者のようだった」
「ルナの前世と言うのか?」
「ええ」
「──ルナは。オリビィが抱きかかえようとすると……一瞬固まるんだ。頬を撫でようとすると、その手が怖いのか……涙をいっぱいに溜めて。ジッとするんだ。私が怖いのだろうかと時々オリビィが悩んでいた。だから、驚かさないようにね。それは、ゆっくりと触れていたんだ。そうか、前世か。しかも大切な──母親から言われていたのかも知れない。
ルナの自信の無さの根本はそれかも知れない。実の母親に拒絶されて、否定されて来た記憶があるのか……」
「ルナに自信を付けさせるには、ルナを唯一の存在だと、肯定する人間が必要だと思うんです。俺はそうなりたい。学園に通う間に機会をいただけませんか?術者も探します。そして、ルナの唯一になる為の時間が欲しいのです」
その言葉にレグルス殿下も反応した。
「セス殿、俺にとっても、ルナは大切な存在なんだ。多分アルファルド殿もそうだと思う。傷ついてきたルナに自信を付けさせたい。大切にしたい。俺の呪いのせいでさらに苦しめているのは、分かっている。だからこそ卒業するまでに術者を捕まえたい。呪いのせいで連れて行かれるなんて、駄目だ。それに権力を使って迫ったり苦しめたりはしない。ルナが誰を選ぶかは、ルナの気持ち次第だ。今回ここに連れてきたのは、学園を辞めさせる為じゃないんだ。フォレストの森は、ルナを癒してくれると思ったからだ」
「ルナにとっての唯一……」
セス様は、何か考えている。
「ルナが──元気になって、学園に戻りたいと言えば、お連れください。レグルス殿下、王命で婚約者にしないと誓っていただけますか?アルファルド殿下にもそう伝えます。彼からもルナへ婚約の打診はあったのですが、断っていたのです。ですが、ルナを救ってくださるのなら。ルナと相思相愛になった方にルナを任せたいと思います」
セス様がまた一つ溜息を落とす。視線の先には、ルナがウンディーネ様に守られるように眠っている。俺達の声が聞こえない様にしてくれていたようだ。
「殿下、声を荒げて申し訳ありません。ルナは、ウンディーネ様とフェルに任せて我々は別室へ。ウンディーネ様、何かあればすぐ教えて下さい」
セス様に促され、寝室から出て行く。
アルファルド殿下の腕の中にいたルナは、安心して身を任せていたように見えたな。
少し首を振る。まだ、だ。
ずっと大切にして来たんだ。簡単に譲る気はない。
談話室に防音をかけたセス様からソファに座るように促される。
俺は、ルナの今後の事をどうするべきか考えてみる。
ルナをフォレストに戻し、学園を辞めさせる?
だが、そんな事をしていたら、そのまま精霊の所に連れて行かれるのが早まるだけではないのか?このまま会えなくなるのか?
駄目だ。まだ、何も伝えられていない。
「セス様。発言をしてもよろしいでしょうか?」
「いいよ。いつも通りで。君はもう1人の息子の様なものだ」
少し、セス様が落ち着いたように見える。
「ルナをしばらくこちらで休ませた後は、学園に戻していただけませんか?」
「シリウス?」
その目は、信じられないとでも言いたげだ。
「血が苦手なルナは、ロイド達のように辺境の騎士になるのは難しい。だからこそ勉強し文官になって貴方の役に立ちたいと思っていた。その為に、ずっと勉強も魔術も学んで来たはずです。学園で学び卒業する事で得るものも多い。友人を作る事も楽しみにして来たのです」
俺は、ロイドに目線を移す。
「ロイドも分かっているだろ?ルナは、役に立ちたいんだ。必要だと認めてもらいたいんだよ。ただ守られるだけじゃ、駄目なんだ。自信の無いルナが必死に頑張って来たのを知っているだろう?それを奪えばルナは、さらに自信を無くす。それでもいいのか?」
「シリウス、それでも俺達は、あの子を守りたいんだ。僅かな時間でも側にいたいんだ」
ロイドも呪いの事を聞いているんだな。
「聞いたよ。ルナの呪いが解けなかった場合は、精霊の世界に連れて行かれる事は殿下から。なら、なおさら学園に行かせてやって欲しい」
殿下も頷いている。
セス様が俺を見た。
「そうか、聞いたのか。
シリウス、済まなかった。君から……いやフォーマルハウト家からルナを望まれていたが、呪いを受けたルナを渡すわけにはいかないんだ。解呪出来なければ、人の世界には居られなくなるんだ」
オリビィ様似た、大切な子だ。俺なんかよりセス様は、辛いはずだろう。
ずっと、見てきた。
可愛くてたまらない。誰にも渡したくない、大切な存在。
だが、リゲルのあの一言で怯えきってしまった。
オリヴィ様が亡くなった時のトラウマ……血と雷だけではないのか?それ以外に何かあるのではないだろうか?
フォレスト辺境伯家は、ルナを溺愛している。産まれて来なければ良かったなどと言う者はいない。オリビィ様が?それも無いな。精霊に愛されていた人だ。
じゃあ、誰に言われた?
それに、殿下に呪いをかけたのは誰なんだ?
セス様に俺が気になっている事を話す事にした。
「気になる事が2つあります。問題を起こしたリゲルは、ただ殿下に近づきたいだけだと思っていました。前回の謹慎後には、クラスの中心人物になっていた。魅了でも使ったみたいに。そして、今回は呪いの様な黒い物が見えたのです。スピカ・グレンジャー子爵令息が光属性の魔術で浄化をしたようです。それにカストルが、レグルス殿下に呪いをかけた人物が接触してくる可能性があると言っていたんです。リゲルの後ろに誰かいるようで術者を探せるかも知れません」
「殿下を呪った術者が、また接触して来るというのか?」
「可能性があります。フォーマルハウト家としても、術者を探すように指示を出しています」
「そうか。ルナを苦しめている呪いをかけた者がまた、殿下に接触などと──」
セス様の纏う空気が変わる。
「私もその件は協力しよう。だが、ルナがまた誰かを庇う様な状態は避けたい」
「もちろんです。2度とそんな事させません」レグルス殿下が答えた。
「セス様──2つ目の気になる事ですが。ルナは、過去─いえ、記憶の中に《産まれて来なければ良かったのに》そう言われた事があるのではないのでしょうか?」
「シリウス!ふざけるな!!俺達や邸内の者がルナにそんな事を言うはずがないだろ!」
ロイドが立ち上がり、俺に殴りかかりそうな勢いで近づくのをセス様が止める。
「だから、記憶。生まれた時からの記憶の中にだ。尋常じゃない怯え方だった。誰かに言われた。それも、大切な人に。あの絶望に染まる表情は経験してきた者のようだった」
「ルナの前世と言うのか?」
「ええ」
「──ルナは。オリビィが抱きかかえようとすると……一瞬固まるんだ。頬を撫でようとすると、その手が怖いのか……涙をいっぱいに溜めて。ジッとするんだ。私が怖いのだろうかと時々オリビィが悩んでいた。だから、驚かさないようにね。それは、ゆっくりと触れていたんだ。そうか、前世か。しかも大切な──母親から言われていたのかも知れない。
ルナの自信の無さの根本はそれかも知れない。実の母親に拒絶されて、否定されて来た記憶があるのか……」
「ルナに自信を付けさせるには、ルナを唯一の存在だと、肯定する人間が必要だと思うんです。俺はそうなりたい。学園に通う間に機会をいただけませんか?術者も探します。そして、ルナの唯一になる為の時間が欲しいのです」
その言葉にレグルス殿下も反応した。
「セス殿、俺にとっても、ルナは大切な存在なんだ。多分アルファルド殿もそうだと思う。傷ついてきたルナに自信を付けさせたい。大切にしたい。俺の呪いのせいでさらに苦しめているのは、分かっている。だからこそ卒業するまでに術者を捕まえたい。呪いのせいで連れて行かれるなんて、駄目だ。それに権力を使って迫ったり苦しめたりはしない。ルナが誰を選ぶかは、ルナの気持ち次第だ。今回ここに連れてきたのは、学園を辞めさせる為じゃないんだ。フォレストの森は、ルナを癒してくれると思ったからだ」
「ルナにとっての唯一……」
セス様は、何か考えている。
「ルナが──元気になって、学園に戻りたいと言えば、お連れください。レグルス殿下、王命で婚約者にしないと誓っていただけますか?アルファルド殿下にもそう伝えます。彼からもルナへ婚約の打診はあったのですが、断っていたのです。ですが、ルナを救ってくださるのなら。ルナと相思相愛になった方にルナを任せたいと思います」
51
お気に入りに追加
5,768
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる