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第2章 パルムの樹と精霊
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お父様に抱えられて、邸に戻ると
長兄ロイドと次兄ダレンが心配そうに待っていた。
「心配ないよ。ルナが認められたんだ」
大人3人がゆっくり座れるだろうソファに兄様達と僕を一緒に座らせると、お父様は少しだけ複雑そうな顔をした。
フェンリル様が僕の膝の上に乗ったまま寝ている。
狼とか、精霊とか言っていいのかな?
犬って言う?
「あの。この子は……」
お父様は、1人がけのソファに腰掛けてフェンリル様をガン見している。
もしかして……分かってる?
「フェンリル様。寝たふりやめてくださいね」
お父様の声がワントーン下がっている。
「お父様、分かるの?」
「ああ。オリヴィの側にいたくて時々出没してたからね」
そうなんだ。フェンリル様お母様の事好きだったんだ!
「ルナ。オリヴィは、猫は好きだったんだ」
へ?お母様は、猫は好き?
フェンリル様が、ビクッと身体を震わせた。
「小型化してどんなにフェンリル様が可愛いふりをしようと、オリヴィは犬が苦手なままだったんだよ……
突然現れるフェンリル様を見て悲鳴を上げて逃げまくる。
その度にね、イフリート様やシルフィ様がフェンリル様を強制送還しにやって来るんだ。
とうとう、オリヴィが大斧に魔術を纏わせてパルムの樹を伐採しに向かって行ったんだ。
まー、なんとか皆で、宥めて止めたがね。
結果、フェンリル様は、うちを出禁になったんだよ。
だから、ね。嫌な予感はしたんだ。外見そっくりのルナの側にいずれ現れると」
お父様は、深く深くため息を落とす。
大変困ったって、その事?
なんか、フェンリル様…僕にしがみ付いてる?
頭をポリポリとかいたお父様が、
今度は僕を見て話を始める。
「そんなことよりルナ、怖くはないか?
形を持つ事が出来る精霊は力が強い。人との価値観も違う。それなのにルナは、魅了していくんだ。
オリヴィがそうだったからね。
既に、お2人から加護も授かったようだね。
お前を護って貰えるのは心強いが…逆に精霊の加護持ちとして狙われやすくなる。
親として、複雑なんだ」
ただでさえ、天使なのに。
「え?」
最後の方が良く分からなかったけど。僕は、ただのモブだし。
学園は、3年間王都に行くけど……
その後は、領地に引っ込むから、領地の加護のためにも役に立つならいいのかも。
「その。学園まではイフリート様とか来ないでしよ?
卒業したら、領地の隅っこでいいので置いてもらえたら、邪魔にならないように大人しく1人で生活します。
その時に犬、いえフェンリル様のお世話できたら、寂しくないかな?なんて」
独りぼっちよりは、ワンコと一緒なら楽しいかも。
あ、領地に置いてってのも兄様達の迷惑になるかな?騎士じゃなくて知識面で、支えてって言われてたけど、兄様達が結婚したら、居場所ないもの。砦の文官でもいいな。駄目かな?
ちょっと不安になる。
「ルナ。なんで隅っことか言うんだ?ここがお前の家だ。俺達がルナを邪魔にするわけないだろう?今後、お前を狙って来る奴をどう処理するか…ロイド兄上と策を練っているのに」
僕は、狙われるほどの価値はないと思うけど?
ダレンお兄様の顔が怖い。
ロイドお兄様を見たとたん、ギュッと抱きしめられた。
「バカ。ルナ!俺達の宝物はお前だって。いい加減わかれよ。
前に、お母様の方が生きて自分が死んだ方が良かったとか言っただろ?
お母様が亡くなったのはもちろん辛いが、ルナが生きててくれて嬉しいと思っているのは、ここにいる俺達と亡くなったお母様もだ!」
ぶぁって、視界が滲む。
泣いたら、駄目だって、そう思うのに。
お父様が、僕の前に膝をつく。
「ルナ。お前とオリヴィを比べることなんて出来ないよ。もちろん、ロイドもダレンも大切だ。
馬車の事故で、オリヴィが護ったのは、愛する息子のルナお前だ。
そのオリヴィが、命がけで助け護った命を価値のないもののように言わないでくれ」
いつの間にか、膝の上のフェンリル様は床にどかされて、お父様にギュッと抱きしめられる。
僕がいなければ、助かってたと思うんだ。お父様の大切な人だよ?
本当に邪魔じゃない?
僕は、ここに居てもいいの?
泣かない、我慢するつもりだったのに。涙が止まらない。
みっともなく、わんわん泣いてお父様のシャツを涙と鼻水で汚してしまった。
このままだと目が腫れそうだなって、お父様が呟いた。
ふっと、何か気配を感じる。
ウンディーネ様?
少し冷たい空気が目の周りに感じられ、腫れが引いていった。
色々ありすぎて、夕食の時にはふらふらで、食べながら船を漕ぎ始めて、お父様がベッドに連れて行ってくれたので、殿下と話をしなかった。
お父様が、明日の話はしておくと言って部屋から出て行った。
そういえば、殿下がぼんやりしてたなぁなんて、本当に明日行けるかな?大丈夫かな?
もう、まぶたがくっつきそう。
薄れていく意識の中で、頭の中に色々思い浮かんでは消えていく。
今日からフェンリル様が一緒に寝てくれるんだなーとか。
犬嫌いの人を脅かしちゃ駄目だよーとか。
名前、フェルって呼んでもいい?
顔舐めないでよー。
尻尾ふりすぎ!
ふふ。あったかぁい──
1人は、怖いから。
僕、ここにずっと居てもいいんだって。
フェル、僕じゃなくて、みんなを護って……眠い……お休みなさい。
長兄ロイドと次兄ダレンが心配そうに待っていた。
「心配ないよ。ルナが認められたんだ」
大人3人がゆっくり座れるだろうソファに兄様達と僕を一緒に座らせると、お父様は少しだけ複雑そうな顔をした。
フェンリル様が僕の膝の上に乗ったまま寝ている。
狼とか、精霊とか言っていいのかな?
犬って言う?
「あの。この子は……」
お父様は、1人がけのソファに腰掛けてフェンリル様をガン見している。
もしかして……分かってる?
「フェンリル様。寝たふりやめてくださいね」
お父様の声がワントーン下がっている。
「お父様、分かるの?」
「ああ。オリヴィの側にいたくて時々出没してたからね」
そうなんだ。フェンリル様お母様の事好きだったんだ!
「ルナ。オリヴィは、猫は好きだったんだ」
へ?お母様は、猫は好き?
フェンリル様が、ビクッと身体を震わせた。
「小型化してどんなにフェンリル様が可愛いふりをしようと、オリヴィは犬が苦手なままだったんだよ……
突然現れるフェンリル様を見て悲鳴を上げて逃げまくる。
その度にね、イフリート様やシルフィ様がフェンリル様を強制送還しにやって来るんだ。
とうとう、オリヴィが大斧に魔術を纏わせてパルムの樹を伐採しに向かって行ったんだ。
まー、なんとか皆で、宥めて止めたがね。
結果、フェンリル様は、うちを出禁になったんだよ。
だから、ね。嫌な予感はしたんだ。外見そっくりのルナの側にいずれ現れると」
お父様は、深く深くため息を落とす。
大変困ったって、その事?
なんか、フェンリル様…僕にしがみ付いてる?
頭をポリポリとかいたお父様が、
今度は僕を見て話を始める。
「そんなことよりルナ、怖くはないか?
形を持つ事が出来る精霊は力が強い。人との価値観も違う。それなのにルナは、魅了していくんだ。
オリヴィがそうだったからね。
既に、お2人から加護も授かったようだね。
お前を護って貰えるのは心強いが…逆に精霊の加護持ちとして狙われやすくなる。
親として、複雑なんだ」
ただでさえ、天使なのに。
「え?」
最後の方が良く分からなかったけど。僕は、ただのモブだし。
学園は、3年間王都に行くけど……
その後は、領地に引っ込むから、領地の加護のためにも役に立つならいいのかも。
「その。学園まではイフリート様とか来ないでしよ?
卒業したら、領地の隅っこでいいので置いてもらえたら、邪魔にならないように大人しく1人で生活します。
その時に犬、いえフェンリル様のお世話できたら、寂しくないかな?なんて」
独りぼっちよりは、ワンコと一緒なら楽しいかも。
あ、領地に置いてってのも兄様達の迷惑になるかな?騎士じゃなくて知識面で、支えてって言われてたけど、兄様達が結婚したら、居場所ないもの。砦の文官でもいいな。駄目かな?
ちょっと不安になる。
「ルナ。なんで隅っことか言うんだ?ここがお前の家だ。俺達がルナを邪魔にするわけないだろう?今後、お前を狙って来る奴をどう処理するか…ロイド兄上と策を練っているのに」
僕は、狙われるほどの価値はないと思うけど?
ダレンお兄様の顔が怖い。
ロイドお兄様を見たとたん、ギュッと抱きしめられた。
「バカ。ルナ!俺達の宝物はお前だって。いい加減わかれよ。
前に、お母様の方が生きて自分が死んだ方が良かったとか言っただろ?
お母様が亡くなったのはもちろん辛いが、ルナが生きててくれて嬉しいと思っているのは、ここにいる俺達と亡くなったお母様もだ!」
ぶぁって、視界が滲む。
泣いたら、駄目だって、そう思うのに。
お父様が、僕の前に膝をつく。
「ルナ。お前とオリヴィを比べることなんて出来ないよ。もちろん、ロイドもダレンも大切だ。
馬車の事故で、オリヴィが護ったのは、愛する息子のルナお前だ。
そのオリヴィが、命がけで助け護った命を価値のないもののように言わないでくれ」
いつの間にか、膝の上のフェンリル様は床にどかされて、お父様にギュッと抱きしめられる。
僕がいなければ、助かってたと思うんだ。お父様の大切な人だよ?
本当に邪魔じゃない?
僕は、ここに居てもいいの?
泣かない、我慢するつもりだったのに。涙が止まらない。
みっともなく、わんわん泣いてお父様のシャツを涙と鼻水で汚してしまった。
このままだと目が腫れそうだなって、お父様が呟いた。
ふっと、何か気配を感じる。
ウンディーネ様?
少し冷たい空気が目の周りに感じられ、腫れが引いていった。
色々ありすぎて、夕食の時にはふらふらで、食べながら船を漕ぎ始めて、お父様がベッドに連れて行ってくれたので、殿下と話をしなかった。
お父様が、明日の話はしておくと言って部屋から出て行った。
そういえば、殿下がぼんやりしてたなぁなんて、本当に明日行けるかな?大丈夫かな?
もう、まぶたがくっつきそう。
薄れていく意識の中で、頭の中に色々思い浮かんでは消えていく。
今日からフェンリル様が一緒に寝てくれるんだなーとか。
犬嫌いの人を脅かしちゃ駄目だよーとか。
名前、フェルって呼んでもいい?
顔舐めないでよー。
尻尾ふりすぎ!
ふふ。あったかぁい──
1人は、怖いから。
僕、ここにずっと居てもいいんだって。
フェル、僕じゃなくて、みんなを護って……眠い……お休みなさい。
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