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時戻り後の世界
37.サフィラの護衛 side ノエル
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エリオス殿下は、あの騒動の後スノーリル王国の陛下と非公式で謁見した。そのままサフィラに会うこともなく帰国している。内容についての説明は、サフィラ様に一切報告がこなかった。
「婚約解消を僕から申し込んだのは、まずかったかな?」
研究室の出窓に腰掛けて、外を眺めるサフィラの顔色はあまり良くない。力なく掴んでいた書類がパラパラと床に散らばっていく。ノエルが書類を拾い上げでも、外を見たままで、ただ独り言をつぶやいた。
「どうして婚約破棄の書類こないんだろう? やっぱり破棄される日は、変えられないのかな……やっぱりライナは……自由にしてあげたいな」
「サフィラ様。いい加減ライナを呼んだらどうですか? 聞いてますか?」
「う……ん。聞いてるよ、ライナ」
ノエルは書類を籠にいれると、サフィラの隣に行き、その頬を両手で挟んで視線が合うように顔を向かせた。
「あ、れ? 何……?えっあ、ノエル」
「いい加減、ライナを呼びませんか? それにエリオス殿下のことが本当に嫌なら……私と一緒に辺境で暮らすことも考えてみませんか?」
「その、──ごめん。ノエルを巻き込みたくない」
「すでに巻き込まれていますが?」
サフィラは、ノエルの手首を掴みゆっくりとその手を下げる。ノエルは、そのままサフィラを黙って見ていた。サフィラは、何度も口を開きかけては閉じるを繰り返すだけ。
「あれから、多めに抑制剤を飲み続けていますよね?発情期をずっと抑えて、そんな顔色で、こんなに痩せてどうするんですか? せっかく教えた剣も、いざという時に使える体力がなかったらどうしようもない」
どんなに心配しているか伝えても、この方の信用を得ることができない。それをノエルはもどかしく思っている。
「魔導具もあるから大丈夫。薬もあの時よりずっと良くなったんだよ。ちょっと眠れないけど、全然辛くもないから。そうだ、薬草を温室から持ってきて欲しいんだけどいい?久しぶりに薬草茶をいれようかな」
サフィラは矢継ぎ早に話題を変えようとする。
「──分かりました。部屋から勝手にいなくならないでください」
ゆっくりとサフィラが頷いた。
サフィラから拒まれ、ライナは室内の護衛からはずれている。たぶん、もう戻って来て欲しいはずなのに上手く声をかけきれないのだろう。結果アカデミーの研究室の護衛はノエルが担当中だ。
ノエルが部屋から出るとすぐにライナが側にきた。こちらも意外と重症だなと、呆れてしまう。
「ノエル団長……サフィラ様は?」
「ずっと調剤をしていましたが、今は休んでます。残念ですが、あまり寝てないですね……薬草茶用の薬草を頼まれました。温室まで行ってくるので、部屋の前にいてくれませんか?」
「それはやるが、本当に発情は……大丈夫か? αと二人にするのは……もしも何かあったら」
「──その時は責任をとる」
ダンッと押し付けるようにライナは、ノエルの胸ぐらに掴みかかり、壁際に追い込んだ。瞳には怒りの色を隠さない。
「ふざけるな。責任など必要ない。その前に再起不能にしてやる」
「──だったら、さっさとそばに行き、サフィラ様を支えたらいい。なぜ来ない?」
「あの時……頼られたのはノエルだろ」
「エリオス殿下も、君も……ほんと不器用過ぎるな。誰のことを想い、誰にそばにいて欲しいか、私でも分かるのに」
ライナは目を見開いた後バツが悪そうに、視線を逸らす。息を吐いた後、もう一度こちらを見てきた。ノエルに掴みかかった腕を、ゆっくりと離した。
「今はまだ、事情は分からないが……エリオス様との誤解があるはずなんだ」
ノエルの眉間に皺がよる。手を離され一歩下がったはずのライナに、その距離を詰めて耳元で囁いた。
「これでも、情報通なんだけどね。──ライナとサフィラ様は、【時戻り】をして過去から来た。あっている?いい加減、三人で話し合おうか?」
「な」
今度は、ノエルが距離を置く。
「一先ず、ライナが薬草茶用の薬草を取って来てくれる? 君の淹れるお茶が飲みたいと思うから。じゃ。また後で」
固まりかけたライナをほっといて、サフィラの所へ戻ることにした。
「婚約解消を僕から申し込んだのは、まずかったかな?」
研究室の出窓に腰掛けて、外を眺めるサフィラの顔色はあまり良くない。力なく掴んでいた書類がパラパラと床に散らばっていく。ノエルが書類を拾い上げでも、外を見たままで、ただ独り言をつぶやいた。
「どうして婚約破棄の書類こないんだろう? やっぱり破棄される日は、変えられないのかな……やっぱりライナは……自由にしてあげたいな」
「サフィラ様。いい加減ライナを呼んだらどうですか? 聞いてますか?」
「う……ん。聞いてるよ、ライナ」
ノエルは書類を籠にいれると、サフィラの隣に行き、その頬を両手で挟んで視線が合うように顔を向かせた。
「あ、れ? 何……?えっあ、ノエル」
「いい加減、ライナを呼びませんか? それにエリオス殿下のことが本当に嫌なら……私と一緒に辺境で暮らすことも考えてみませんか?」
「その、──ごめん。ノエルを巻き込みたくない」
「すでに巻き込まれていますが?」
サフィラは、ノエルの手首を掴みゆっくりとその手を下げる。ノエルは、そのままサフィラを黙って見ていた。サフィラは、何度も口を開きかけては閉じるを繰り返すだけ。
「あれから、多めに抑制剤を飲み続けていますよね?発情期をずっと抑えて、そんな顔色で、こんなに痩せてどうするんですか? せっかく教えた剣も、いざという時に使える体力がなかったらどうしようもない」
どんなに心配しているか伝えても、この方の信用を得ることができない。それをノエルはもどかしく思っている。
「魔導具もあるから大丈夫。薬もあの時よりずっと良くなったんだよ。ちょっと眠れないけど、全然辛くもないから。そうだ、薬草を温室から持ってきて欲しいんだけどいい?久しぶりに薬草茶をいれようかな」
サフィラは矢継ぎ早に話題を変えようとする。
「──分かりました。部屋から勝手にいなくならないでください」
ゆっくりとサフィラが頷いた。
サフィラから拒まれ、ライナは室内の護衛からはずれている。たぶん、もう戻って来て欲しいはずなのに上手く声をかけきれないのだろう。結果アカデミーの研究室の護衛はノエルが担当中だ。
ノエルが部屋から出るとすぐにライナが側にきた。こちらも意外と重症だなと、呆れてしまう。
「ノエル団長……サフィラ様は?」
「ずっと調剤をしていましたが、今は休んでます。残念ですが、あまり寝てないですね……薬草茶用の薬草を頼まれました。温室まで行ってくるので、部屋の前にいてくれませんか?」
「それはやるが、本当に発情は……大丈夫か? αと二人にするのは……もしも何かあったら」
「──その時は責任をとる」
ダンッと押し付けるようにライナは、ノエルの胸ぐらに掴みかかり、壁際に追い込んだ。瞳には怒りの色を隠さない。
「ふざけるな。責任など必要ない。その前に再起不能にしてやる」
「──だったら、さっさとそばに行き、サフィラ様を支えたらいい。なぜ来ない?」
「あの時……頼られたのはノエルだろ」
「エリオス殿下も、君も……ほんと不器用過ぎるな。誰のことを想い、誰にそばにいて欲しいか、私でも分かるのに」
ライナは目を見開いた後バツが悪そうに、視線を逸らす。息を吐いた後、もう一度こちらを見てきた。ノエルに掴みかかった腕を、ゆっくりと離した。
「今はまだ、事情は分からないが……エリオス様との誤解があるはずなんだ」
ノエルの眉間に皺がよる。手を離され一歩下がったはずのライナに、その距離を詰めて耳元で囁いた。
「これでも、情報通なんだけどね。──ライナとサフィラ様は、【時戻り】をして過去から来た。あっている?いい加減、三人で話し合おうか?」
「な」
今度は、ノエルが距離を置く。
「一先ず、ライナが薬草茶用の薬草を取って来てくれる? 君の淹れるお茶が飲みたいと思うから。じゃ。また後で」
固まりかけたライナをほっといて、サフィラの所へ戻ることにした。
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