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時戻り後の世界

31.強制発情薬③

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 薬を一滴すり鉢状の皿に垂らしてみた。特に匂いもしない。布で鼻と口が隠れるようにしているのだから、匂いがしなくても当然かもしれない。次にサフィラが最近飲んでいる抑制剤を一粒入れてみる。すり潰して混ぜ合わせてみても異臭を放ったり、劇薬に変化する感じもしない。

 「何か匂いがする?刺激臭とかある?」じっと見ているライナ聞くと首を振った。
    ライナはβなので発情薬の影響を受けない。味見をしてみたいが、真っ直ぐに見られていると許可はもらえないなとサフィラは迷う。

 試したい。

 このたったの一滴くらいなら、抑制剤も混ぜ合わせている分問題ない気がする。発情させる必要量は、一滴なのか?もっとたくさん入れるのか?サフィラの抑制剤は日にニ度飲めば良い。それで性欲のような誰かを求めたい気持ちも、下腹部に起きる熱による痺れや、皮膚に起きる敏感な反応も抑え込むことが出来る。

(試したい。一滴でどれだけ発情するのだろう?)

 ここはサフィラのテリトリーで、何より安全な場所だ。しかも誘惑されないβのライナが、見守ってくれている。


 流石にそのまま一滴飲むのは、怒られてしまうだろう。でもこの混ぜた状態なら?もしもの時は、追加で抑制剤を飲ませてくれるはずだから。

(きっと大丈夫)

 まだじっと見つめてくるライナに微笑んだ。
 ライナが目を見開き、手を伸ばすより早く混ぜた発情薬を飲んでみる。

「サフィラ様!!」
「大丈夫みたい。一滴くらいなら平気そう」

(味もしない。刺激もない。混ぜ合わせて中和したかな?)

数分しても変わらないかと思ったのに。

「サフィラ様? 吐き出して下さい!!顔色が……」

「う……ゔ、ぐ……ぇ」

 突然来た込み上げる吐き気に、口元を押さえる。ぶわりと体に悪寒が走り手足が痺れ始めた。サフィラは毒の耐性は強い、でもこれは違う熱を含んでいる。

──しかも、早く体に回る。面白い。

「水を、早く!」
 駄目だ感覚で分かる、混ざってないんだ。液体が簡単に吸収されやすい仕様だ。粉にした抑制剤の効果の方が遅れている。ライナが水と新たに抑制剤を口にいれようとするが、込み上げる吐き気にそれを全て戻してしまう。

「あ、あ……あっ、つ」
 あの一滴に半日近く効果のある抑制剤を混ぜているが、発情薬の方が異常に強く感じる。ネックガードのコードは大丈夫バレる訳がない。そもそもライナにも教えてない上に、変更したと思っているはずだから。

(追加の抑制剤は、今は飲み込めないな)


「ライナ……はあ、はあ……結界を張っている。僕が、許可……しなかったら、大丈夫だから……。ついかの……薬は、もう少しで、飲めるはず」

「──無茶ばかりしすぎだろ。意識を失うなよ」
 ローブに包まれ、壁にもたれかけさせてくれた後、ライナが直ぐに消えた。Ωの王宮医師を呼びに行ったみたいだ。少し時間がいるだけ。ただ熱くて苦しいが、繰り返されていく。

 頭に浮かぶのは優しい笑顔で……涙がこぼれ落ちた。エリオスの纏う匂いに寄せた香水は、あの棚の中にあるのに取りにいけそうもない。まだ意識はある。

僕は、エリオス様の運命じゃないのに抱き締めてもらいたいと願っている。

(馬鹿みたい。僕の運命の人じゃないって分かっているクセに)

 追加の抑制剤が飲みこめず、全部吐き戻してしまう。水を止め内臓を守る為に薬草茶を口に含んでは吐き戻すのを繰り返す。吐いても内臓は護れるはず。
 朦朧とする意識の中、身に付けている服が擦れるだけで、熱くもどかしさが増していく。ずっと抑えていた発情状態に飲み込まれそうになってきた。

(そっか抑え込んでた分が余計だったんだ……感情が不安定になってる)

「サフィラ様」

(誰?)

 医師じゃない。ライナでもない。まさか、カーティス? 怖い。どうしたらいい? 思うように動かせない体で壁を背にしているので、逃げ場はなかった。

(駄目だってエリオス様が言ったのに。ライナにも怒られたのに)

 結界をすり抜けて目の前に人影が現れた。覆いかぶさるように、両手は簡単に押さえ付けられてしまう。


「フェロモンがこんなに溢れていてはのαは欲情を抑えきれません。なぜこんな無茶をするのですか?」

「ノエル……?」

「皇太子殿下のネックレスを付けていたら近づけませんでした」

「やだっ! さわらないで!噛まないで!」

 頬に触れた手は優しいのに、受け入れたくない。発情状態で噛まれたら番になってしまう、そんなの嫌だ。溢れていく涙を止められない。

 自分の思いとは別に体温が上がっていく。エリオスとの関係を無効にする為に、番ってもいいなんて考えていたのに。今はこんなにも怖くてどうしようもない。

 「今日は、Ωの王宮医の方はいないんですよ。これだけ吐き戻せば、かなり薄まったはず。サフィラ様の部屋に移動します」

 ノエルは、徐にサフィラを抱き上げた。



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